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【連載】博報堂生活総研・「常識の変わり目」 vol.4:「夏の日」は1994─夏日、長くなっていませんか?

2014.08.19

 夏本番の8月。昨年2013年は猛暑を通り越して“酷暑”でしたが、今年も暑さはあまり変わりませんね。「どうも毎年暑 い日が続いているな」「そういえば、暑い日が続く期間が長くなった気がする」なんて思いませんか? 今回は1970年までさかのぼり、夏日(最高気温が摂 氏25度以上の日)を調査してみました。

確かに夏日は増えていました。変わり目は1994年です。この年に初めて夏日が120日を超えたのです。つまり1年の3分の1が夏になったということ。この年を境に、暑さは文字通りヒートアップします。1994年から2013までの20年で夏日の120日越えは計10回。なんと2年に1度は、夏日が 4か月間も続いたのです。

それに呼応するかのように、夏の風物詩も様変わりしています。1994年までは暑い日の日数がそれほどでもなかった(平均100日前後=3カ月強)こともあり、暑い日はとにかく冷やして難を逃れる方法が一般的だったと思われます。電車もお店も、屋内はどこもかしこもキンキンに冷えていました。寒すぎる──と「弱冷房車」が登場したのは1984年の京阪電車から。ただこの頃は、ともあれ涼しい方がいい、くらいに思っていたのではないでしょうか。

ところが1990年代に入ると「冷房病」という呼称が生まれました。正式な病名ではありませんが、室内と室外とで寒暖差がありすぎる影響で体調を 崩す人が社会問題になりました。これまでもガマンしていたのでしょうが、女性を中心に真夏でもオフィスではカーディガンなどを羽織ったりすることが普通になっていたのもこの頃です。確かに1998年から2001年までは4年連続で夏日が120日を突破しました。クーラーの設定温度がますます低めに設定されていっても仕方のない暑さでした。

そんな中、2005年に大きな変化が訪れます。日本は京都議定書(気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書)で、地球温暖化の抑制のため、温室効果ガスの排出量を1990年時の-6%に削減することを目標付けられました。日本政府はこれを実施するため、経済界と協力して国民的運動を始めました。あの「チームマイナス6%」です。同年に「クールビズ」もスタート。これも環境省が音頭を取りました。

こうした国家的な大規模キャンペーンが始まったことで、なんとなく「そもそも冷やされすぎなのではないか」と感じていた人たちは、一気にこうした動きに呼応します。合わせて、2000年に入ってから東海豪雨などの都市部での局地的豪雨=ゲリラ豪雨(流行語・新語大賞になったのは2008年)が続いたこともあるでしょう。

また、熱中症で救急搬送される人が500人を超えたのも2000年に入ってからでした。ヒートアイランド現象という言葉が一般化したのもこの頃です。そんな背景から「1979年の省エネルックの浸透失敗」などはなかったかのような勢いでクールビズはビジネスパーソンに定着しました。

こうした勢いに拍車をかけたのが、2011年の東日本大震災にともなう電力危機と節電意識の高まりでしょう。極端にエアコンを強めるのではなく、なるべく電力を使わず、エネルギー負荷をかけず、いかに暑さをやり過ごすかという工夫をみんなが心がけるようになりました。カジュアルサンダルの「クロックス」が流行したのも2006年~2007年ですね。最近では、速乾シャツなどのハイテク衣類、汗ふきシートや涼感シーツなども工夫のための1アイテムとして定着してきました。軽装化を促進し、自前で暑さに対処するグッズが人気です。

夏日の増加=夏の長期化が、電化を中心にしたこれまでの都市生活を大きく変え、再び日本らしい伝統的な暑さへの対処法での夏の過ごし方を復活させつつあるようです。

これから暑い日が続けば続くほど、私たちはご先祖様から受け継いだ“いにしえの知恵”を復権させていくのかもしれませんね。

◆この連載は、さまざまなデータを独自の視点で分析し「常識の変わり目」を可視化していくコラムです。
「Business Media 誠」にて連載中の博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」を基にしています。

著者プロフィール:博報堂生活総合研究所 主席研究員 吉川昌孝
1965年愛知県生まれ。
1989年博報堂入社。マーケティングプラナーとして得意先企業の市場調査業務、商品開発業務、マーケティング戦略立案業務を担当。
2003年より生活総合研究所客員研究員ならびに博報堂フォーサイトコンサルタントとして得意先企業の未来シナリオ創造ワークショップを担当。
2004年より生活総合研究所。
2009年より現職。
著書に、「~あふれる情報からアイデアを生み出す~『ものさし』のつくり方」(日 本実業出版社・2012年)、「Information Communication Technologies and Emerging Business Strategies」(IDEA GROUP INC.・共著・2006年)、「亞州未来図2010~4つのシナリオ」(阪急コミュニケーションズ・共著・2003年)がある。

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