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【連載】博報堂生活総研・「常識の変わり目」 vol.3:その「贈りもの」、誰のため?

2014.07.15

2014年7月

そろそろお中元の季節ですね。ところが、お中元・お歳暮のフォーマルギフト市場はここ数年縮小傾向にあるというニュースもよく耳にします。博報堂生活総合研究所が1992年より2年に1回、生活のあらゆる領域を定期的に調査している「生活定点」(参照リンク)の贈りものの項目から、「贈答の常識の変わり目」を見つけました。

「お中元を毎年欠かさず贈っている」の項目は、1998年から徐々に下降。一方、「自分へのごほうびとして何かを買ったことがある」はじわじわ増加しています。そして、2006年から2008年にかけて両者の割合は逆転しました。贈りもの行動の主流は「他人へ」から「自分へ」と変わったのです。

まず、お中元を贈らなくなった理由として考えられるのが「父の日、母の日の一般化」です。

Yahoo!JAPANが2014年5月に実施した「お中元意識調査」(参照リンク)に よると、贈り先の半数以上が「自分または配偶者の両親」としています。しかし最近は、母の日(5月の第2日曜日)と、父の日(6月の第3日曜日)がしっかり定着してきたため、お中元としてあえてまたプレゼントをしなくても……という意識が広まってきているようです。博報堂生活総合研究所の生活定点調査でも、「父の日を祝った」「母の日を祝った」の数値は微増しています。別の贈答機会と競争が激しくなり、結果としてというわけですね。

次に、2008年秋に起きたリーマンショック。取引先へのお中元やお歳暮は、これまでビジネスの潤滑油として重宝されてきました。しかしリーマンショック後は、多くの企業が経費を削減せざるを得ず、お中元やお歳暮は「虚礼」とするマイナスの見方が広がりました。これもお中元が劣勢になった理由の一つと考えられます。

さらに2006年以降は、SNSの普及で知人の誕生日情報を知る機会が増えました。ネット上での人間関係を維持する潤滑油として、20~40代の人を中心に気軽な贈りものをする例が増えています。季節ごとのフォーマルギフトから、日常的なプチギフトへ。こんな流れもお中元の苦戦を引き起こしていそうです。

「自分で自分をほめたいと思います」──この有森裕子さん(元マラソン選手)の言葉が流行語になったのが、1996年。今でも「この年一番の流行語」と評されています。この流行語や、自分へのいいわけといった「自分への一言エクスキューズ」の広がりが「自分へのごほうび」行動の割合を伸ばしていったと考えます。

また、国勢調査によると、単独の世帯が両親+子世帯の数を抜き、最も多い世帯タイプとなったのが2006年です。ちょうど「他人へから自分へ」常識の変わり目として示した頃と重なりました。ひとり暮らしでなにかとつらいなと感じる自分に「おつかれさま」の意味を込めて、何かを買う行動が増えたのではと思います。

さらにここ数年、“空気読めない(KY)”に代表される、他人に気を使うメンタリティが主流になりつつあることも影響しているのではないでしょうか。いろいろ考えて他人にあげるより、自分で自分にあげる方が気楽だし、そもそも自分の欲しいものがもらえる……。そんな風に感じているのかもしれません。

これからも単独の世帯は増えますし、空気を読むメンタリティも弱まることはなさそうです。父の日、母の日もますます当たり前になっていくでしょうし、企業の虚礼を廃する傾向も変わらないでしょう。つまり、2006年から2008年にかけて逆転したこの贈答の心理は、当分このままの傾向が続きそうです。

ですが、友人・知人・お世話になった先輩などへ、“タイミングよく、ちょっとしたお祝いの言葉や贈り物をする”ことが増えて、疲れてくるとどうでしょう。今度は逆に、フォーマルなお中元やお歳暮が復活する未来もありそうです。「SNS疲れ」はお中元復活の隠れたカギかもしれませんね。

◆この連載は、さまざまなデータを独自の視点で分析し「常識の変わり目」を可視化していくコラムです。
「Business Media 誠」にて連載中の博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」を基にしています。

著者プロフィール:博報堂生活総合研究所 主席研究員 吉川昌孝
1965年愛知県生まれ。
1989年博報堂入社。マーケティングプラナーとして得意先企業の市場調査業務、商品開発業務、マーケティング戦略立案業務を担当。
2003年より生活総合研究所客員研究員ならびに博報堂フォーサイトコンサルタントとして得意先企業の未来シナリオ創造ワークショップを担当。
2004年より生活総合研究所。
2009年より現職。
著書に、「~あふれる情報からアイデアを生み出す~『ものさし』のつくり方」(日 本実業出版社・2012年)、「Information Communication Technologies and Emerging Business Strategies」(IDEA GROUP INC.・共著・2006年)、「亞州未来図2010~4つのシナリオ」(阪急コミュニケーションズ・共著・2003年)がある。

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