2014年6月

地域別、国別、都市別など、海外に居住する日本人の数を調査する、外務省の「海外在留邦人数調査統計」をご存じでしょうか。

在留している国から永住を認められている「永住者」と、長期出張や転勤、就職などで3カ月以上居住している「長期滞在者」の2分類で集計されている調査リポートです。

 最新の海外在留邦人数調査統計(平成25年要約版 2012年10月1日現在)によると、「永住者」は1996年の27万1035人から、41万1859人と1.5倍に伸び、「長期滞在者」も同49万2942人から、83万7718人と約1.7倍に伸びています。短期の出張や旅行などを除く、仕事に関連する滞在が主と考えられる長期滞在者数の都市別推移から、日本のビジネスのグローバル化に関する「常識の変わり目」が見つかりました。

今回は、直近の長期滞在者数トップ10の都市の中から、北米(ニューヨーク、ロサンゼルス)、東アジア(上海、北京、香港)、東南アジア(バンコク、シンガポール)の3地域7都市をグラフ化しました(上図)。

 一番のエポック(常識の変わり目)は、2007年。これまでずっとトップを走ってきたニューヨークを抜いて、上海が長期滞在在留邦人数ナンバーワンの座についたことでしょう。そう言えば当時、上海駐在員事務所開設のお知らせをたくさんもらったことを思い出しました。

 21世紀に入ってからの上海の上昇カーブはひときわ目を引きます。2001年は1万109人でしたが、2年後の2003年には一気に倍以上の2万3518人になりました。この差を日数で割ってみると、この2年間は一日平均で約18人の日本人が上海に滞在し始めたことになります。上海はこの勢いのままバンコクとシンガポールをあっと言う間に抜き去り、次年の2004年には香港とロスも抜いて第2位へ浮上しました。もう上にはニューヨークしかありません。

 そして2007年、上海がトップに立ったのです。2012年には約5万7000人と6万人に迫る勢い。

このように、ここまで順調に伸長してきた上海なのですが……、先日(2014年5月23日)、在上海日本国総領事館が示した数字によって、2013年10月1日時点の上海市の長期滞在者が約4万7700人と、前年から1万人ほども減少していたことが分かりました。上海の在留邦人が減少したのは、調査開始以来初めてのこと。国際情勢や“PM2.5”による大気汚染の深刻化に関連し、企業が駐在員や家族を帰国させるケースが増えたことが要因とみられています。「中国離れが加速」とする報道もありました。

 2007年、北米から東アジアへと移ったように見えた日本のグローバル化の主戦場ですが、今後の行く末はまだはっきりしません。上海以外の都市の最新集計は現時点未発表ですが、トップの上海が2位グループの北米2都市まで落ちつつあります。一方、バンコクは堅調に伸長しており、4万人の一歩手前という状況です。つまり、4万~5万人の間に東アジア(上海)、北米(ロサンゼルス、ニューヨーク)、東南アジア(バンコク)の3地域4都市が集中しているという大混戦なのです。

 ここから一歩抜け出すのはどこなのか? しばらくはこの地域三つどもえの状況が続きそうですが、また数年以内に、新たな常識の変わり目のタイミングが出てくるかもしれません。

 

 ◆この連載は、さまざまなデータを独自の視点で分析し「常識の変わり目」を可視化していくコラムです。
「Business Media 誠」にて連載中の博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」を基にしています。

著者プロフィール:博報堂生活総合研究所 主席研究員 吉川昌孝
1965年愛知県生まれ。
1989年博報堂入社。マーケティングプラナーとして得意先企業の市場調査業務、商品開発業務、マーケティング戦略立案業務を担当。
2003年より生活総合研究所客員研究員ならびに博報堂フォーサイトコンサルタントとして得意先企業の未来シナリオ創造ワークショップを担当。
2004年より生活総合研究所。
2009年より現職。
著書に、「~あふれる情報からアイデアを生み出す~『ものさし』のつくり方」(日 本実業出版社・2012年)、「Information Communication Technologies and Emerging Business Strategies」(IDEA GROUP INC.・共著・2006年)、「亞州未来図2010~4つのシナリオ」(阪急コミュニケーションズ・共著・2003年)がある。