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【コラム】アジア、地元作品志向進む(博報堂研究開発局上席研究員 小山諭)

2013.07.17

2013年07月17日

アジア、地元作品志向進む 日本アニメ・韓国ドラマは支持 骨太の文化戦略構築を

○アジア10都市で最も受け入れられている映像コンテンツは自国・地域の作品
○海外作品はアニメ・マンガなら日本、ドラマなら韓国、映画なら欧米の人気が高い
○日本は得意とするアニメ・ドラマを中心に骨太の文化マーケティング戦略構築が必要

著者:博報堂研究開発局上席研究員 小山諭

アジアのアニメやドラマが世界で注目を集めている。博報堂の調べでは日本のアニメ・マンガがアジアの多くの都市で高い人気を維持する一方、ドラマでは韓国が高い人気を示した。また映画を含む全分野で自国・地域作品の支持率が伸びている。日本はアニメやドラマを中心に骨太の文化マーケティング戦略を求められる。

博報堂は2000年から世界34都市で生活者調査「Global HABIT」を実施している。今回、12年の調査からアジア10都市での「カルチャーコンテンツ」の受容度を分析した。対象は香港、台北(台湾)、上海 (中国)、シンガポール、クアラルンプール(マレーシア)、バンコク(タイ)、メトロマニア(フィリピン)、ホーチミンシティ(ベトナム)、ジャカルタ (インドネシア)、ムンバイ(インド)。日本のお家芸であるアニメ・マンガは7都市で日本作品の受容度が一番高かった。中でも香港、台北、上海では自国・ 地域作品を大きく引き離し、伝播(でんぱ)力は圧倒的といえる。(図1)

アニメ・マンガはそもそもキャラクターの人種や民族を特定しにくい特徴がある。日本作品は主人公の人間的成長などをテーマとしていることが多く、どこの国・地域の人も共感できる普遍性があると考えられる。

一方、国・地域の生活や文化がより具体的、直接的に表現されるドラマと映画は異なる。ドラマは10都市すべてで自国・地域作品の受容度が最も高かった(図2)。映画は3都市で欧米作品が最高だが、7都市で自国・地域作品が最も高かった。(図3)

そんな中、ドラマで日本をしのぐ支持を得ているのが韓国。韓国ドラマがアジアで人気と言われてきたように、ほとんどの都市で自国・地域作品の次に人気がある。特に香港、上海、ホーチミンシティで約50%が好きと答えた意味は大きい。

コンテンツの流行(ドラマ)→関連商品の購買(ファッション、化粧品など)→消費財の購買(携帯電話、家電、自動車など)→韓国のイメージおよびブランド力の向上へ――。コンテンツ制作者、国、民間企業が一体となって韓国文化を拡散させる明確なモデルが人気定着につながった。

例えばテレビドラマで俳優・女優の韓国風メークやファッション、家電や自動車を見て、ある種の「韓流ライフ」がアジアの人々に魅力的に映った可能性は高い。1960年代、日本人が米国のホームドラマに登場した大きな洗濯機や冷蔵庫を見て「米国流」に憧れた状況に似ている。

12年と10年のデータを比較して目に付くのは、多くの都市で自国・地域コンテンツ志向が高まっていることだ。アニメ・マンガは6都市、ドラマは3都市、映画は4都市で受容度が10ポイント以上伸びた。インターネットや衛星メディアで情報が伝播する時代にあって興味深い。各国・地域がコンテンツ制作の力をつけた表れと思われる。

10都市のうち、自国コンテンツ志向が圧倒的に高いのはムンバイである。インドでは年間製作本数で世界一を誇る自国映画が人気を博し、歌と踊りのシーンがフィーチャーされ、俳優・女優が商品の広告などに起用されている。日本のアニメ・マンガであっても、インドのような国にあってはカスタマイズの工夫が必要であると思われる。

最後に日本のコンテンツの展望を考えたい。日本のアニメ・マンガには日本人の感性や生き方、「人と人」「人と自然」の関係性が凝縮されている。高い競争力があり、有効な文化資源だ。

キャラクターグッズの販売やイベントでの活用はもとより、この豊かさを多くの国に受け入れてもらう文化マーケティング戦略が必要だ。それを構築できれば周辺の消費財や耐久財、サービス産業や流通業まで影響が広がり、一種のソフトパワーと経済力の融合が共感をもって受け入れられるのではないだろうか。

日本のドラマや映画には放送料の高さ、著作権問題など様々な課題や制約があり、多くの都市で韓国の後じんを拝している。だが、骨太の文化戦略で活性化すれば、アニメ・マンガと同様、アジアで広く受け入れられる余地は十分にある。

<調査の概要>

アジア10都市の15~54歳男女を対象に2012年5月下旬~8月、面接調査を実施した。対象者は上海が807人、シンガポールが500人、他の8都市がそれぞれ800人で総数7707人。

(2013年6月26日 日経MJ「消費分析」欄より転載)

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関連情報
【Global HABIT レポート Vol.8】 「アジア10都市における自国・海外コンテンツ受容性」比較分析(2013年5月22日)

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