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【コラム】「団塊」の支出 動き出す(博報堂新しい大人文化研究所所長 阪本節郎)

2014.03.14

2014年3月14日

クルマや「食」などで変化 市場の重心若者から移動

ポイント
○1.若者・ファミリー消費中心からの市場の重心移動が始まっている
○2.団塊世代が食・クルマ・社会性などで「新しい大人消費」への動きを起こしている
○3.「新しい大人消費」は40~60代に共通し、今後消費構造を大きく変えていく

著者: 博報堂新しい大人文化研究所所長 阪本節郎

長い間、若者消費とファミリー消費が消費の中心だった。人口の急速な高齢化はその消費構造に変化を引き起こしている。つまり「新しい大人消費」が生まれつつあり、そこに市場の重心がシフトしようとしている。動かないと言われた60代の団塊世代が先駆けとなり、食・クルマ・社会性などの消費から動き始めた。

まず、「食」の特徴的な変化からみていこう。従来、高齢者といえば「一汁一菜で粗食」「減塩」などが一般的に語られてきた。ところが、調査では「食べることに楽しみを感じる」という60代が91.2%いた。微差ではあるが年代別で最も高い。(図1)

そもそも今日のグルメも、1980年代初めに団塊の世代が起こしたグルメブームが直接的な源だ。荻窪のラーメン店やグルメランキング本、さらには男の料理などだ。今、高級レトルト食品が売れているが、彼らの合理性とグルメ志向が支えている。コンビニプライベートブランド(PB=自主企画)とそのプレミアムラインもそうだ。健康は気にしているが、まずはおいしさで、その次に健康だ。納得できるおいしさなら多少高くとも構わない。

次に「クルマ」に関しては、「運転をやめるつもりはない」が60代男性の63.4%になる。今後乗りたいクルマは「低燃費」が60代の69.0%で、「運転しやすい」「年相応」を上回って1位と現役ドライバーだ。(図2)

同時に行った今後のクルマの利用スタイルを聞いた調査では「配偶者・パートナーとの旅行やドライブ・レジャー」が60代男性で61.1%と、「買い物などの日常的な足」の50.5%を上回った。「家族そろっての旅行やドライブ」はそれより下がって25.5%だ。

子供が独立して「家族ドライブ」ではなくなり、とくに男性は「夫婦2人でドライブ」をしたいと思っている。

さらに「住」および「生活全般」では、60代男性の94.0%、女性の93.3%が「(これから)自分なりのライフスタイルを創りたい」と思っている。(図3)

では、どういうライフスタイルなのか。人それぞれだが、クルマでいえば、車種別でみると1位がハイブリッド車だ(図2)。低燃費はもちろんあるが、同時に「エコ」なクルマを選択している。実際、ハイブリッド車は多くのメーカーで60代に売れているという。

住宅では、「太陽光など自家発電でエコに貢献したい」が22.0%と60代2位、50代では1位だ。(図4)

彼らは社会性を加味したライフスタイルを創ろうとしている。まさに「新しい大人のライフスタイル」だ。基本的には「ファミリー消費」を一旦卒業し、「新しい大人消費」に向かっている。この傾向は、50代・40代も同様だ(図1~4)。これから10年、20年と、これが大きな流れになっていく。すでに雑誌でも、ママ誌・主婦誌ではない「大人の女性ファッション誌」が40代、50代向けに続々と創刊されている。

これら「新しい大人消費」の考えるべきポイントは3つある。第1のポイントは、50代、60代は子供の食費・教育費が終わり、「金時(きんとき)持ち」になることだ。そのおカネが「新しい大人消費」に向かう。

第2のポイントは今後ますます増大する単身世帯を含む消費ということだ。

第3のポイントは商品でも店でも、「新しい大人消費」でブランドを確立することだ。団塊世代やシニアにある程度売れると、すぐに次の顧客として若者を開拓しにいくというのが一般的な傾向だ。だが、若者が永遠にブランドスイッチをしない保証はどこにもない。ヨーロッパのブランドは若者対策を熱心に行った結果、ブランドを確立したわけではない。

ファミリー消費ではない「新しい大人消費」が始まっている。単にニッチなシニア消費も出てきた、ということではない。ほかにも国内・海外旅行、美術館・博物館・演劇・映画・音楽などエンターテインメントも動いている。食・住・クルマ・メディア・旅行・エンターテインメントと、多くのジャンルにまたがる新たな広がりを見せている。その先頭を団塊消費が走り始めたのである。

調査の概要 首都圏と全国の中小都市の40~60代の男女を対象にインターネットで調査した。調査時期は2012年12月と13年3月。有効回答は2700人。

2014年2月26日 日経MJ「消費分析」欄より転載)
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