お知らせ

【コラム】若さ志向の「中高年」増大 「成熟」より「格好良く」(博報堂新しい大人文化研究所所長 阪本節郎)

2012.04.05

若さ志向の「中高年」増大 お金と時間、市場創出も 「成熟」より「格好良く」
○中高年意識が消滅し、40~60代に「何歳でも若々しく前向きでいたい」意識が拡大
○この意識がこの年代の「お金と時間」と掛け算になると新しく大きな消費が生まれる
○「新しい大人消費」が日本に「新しい大人市場」を創りつつある

著者:博報堂新しい大人文化研究所所長 阪本節郎(さかもと・せつお)

「絶滅する中高年」―。そう聞いて、どのような印象を持つだろうか。「もうオレもおしまいか」と思うか、あるいは「フーン、中高年はそうなのか」と思うのか。実は40~60代で後者のような印象を持つ人が少なからずいるというのが、いまの特徴的な現象だ。中高年と聞いても自分のことだとは思わない。40~60代から中高年意識が消滅しかかっているのだ。

10年ぐらい前から「シニア向けアプローチはうまく行かない」「団塊世代向けは難しい」ということがよくいわれてきた。これに対して博報堂は以前、50代で「シニア」を自分のことだと思う人はどのぐらいいるのか調査した。その結果、そう思う人は27%。つまり残りの7割強の人にとっては「シニア」と聞いても人ごとなのだ。
高齢化の進展とともに、シニアや中高年という言葉を目にしないことがないような日々だが、当事者はそれを見て「シニアや中高年は大変だな」と思っている。「他人ではなく、あなたのことですよ」といわなければならない。送り手と受け手で意識がすれ違っているのだ。そこにうまくいかない最大の要因がある。

ベースにあるのは、「何歳になっても若々しく前向きな意識を保ちたい」という生活者の気持ちである。実に40~60代の82.7%もの人がそう答えている(図1)。
特に女性が高い。年代別にはあまり差がなく、40代でも50代でも60代でもそう思っている。女性が高いというのは注目すべき点で、「韓流」のようなトレンドを生み出し、消費を動かす原動力がやはり女性であることをうかがわせる。
その消費の原資については、とみに日本の個人資産1400兆円ということが挙げられ、その多くは50代以上が持つ。50代を過ぎると子どもが独立して夫婦2人世帯に向かい、余裕が生まれる。お金もあって時間もある「金時(きんとき)持ち」となる。この「何歳になっても若々しく前向き」でありたい意識と「金時持ち」が掛け算されると、大きな消費のポテンシャルが生まれる。

そこに拍車をかけるのは何か。さらに突っ込んで「何歳になっても若々しい“見た目”でありたい」という割合を調べてみたら、これも40~60代は72.6%と高い数値を示した(図2)。60代だけでも70.6%という驚くべき値で、団塊の世代が60代になっていることが大きく影響しているとみられる。ただ普通にしていてもなかなかそうはならない。努力をして初めてそういう“見た目”になる。消費が生まれる大きな要因といえる。

数回にわたる調査で基層となる意識としてわかったことは、彼らは従来の中高年の褒め言葉だった「成熟」した人と呼ばれたいとは思わず、「若々しい」(1位)、「センスがいい」(2位)と呼ばれたい。「成熟からセンスへ」である。
こうした気持ちに応えてここ数年、40代女性誌が続々と創刊され好調だ。そのなかでは「40代女子」がスローガンとなり、「女子会」という言葉を増幅させ、「美魔女」という流行語を生み出した。40代から流行語が出て来る時代になったのだ。
こうした意識は50代になっても続く。「50代になってもジーンズが似合うカッコイイ大人でありたい」は64.1%で、しかも「50代を過ぎたら、もう年をとらない」と思う人は61.4%になる(図3)。
この「格好良くいたい」というのは今の40~60代の共通した感覚としてあり、それは必ずしも外見的なことにとどまらず内面的なことも意味する。そこが大人的だといえば大人的なのだが、いまは「エコ」が格好いい。だからハイブリッド車がこの年代に支持され、自宅で充電できるプラグインハイブリッド車は特に団塊世代に受け入れられていると言われる。
重要なことは、それが消費に直結しているということだ。総務省が2010年にまとめた調査では、エコポイントは件数ベースでは20代から使われているが、金額ベースではテレビの92.8%、自動車(新車)の92%は40代以上で使われた。

今「新しい大人」へと市場の重心移動が起こっている。それは「若者的」でもなく「成熟した大人的」でもない「新しい大人消費」だ。プレミアムビール、デジタル高級一眼レフカメラ、機能性飲料、サプリ、アンチエイジング(抗加齢)化粧品などの新カテゴリーはいずれも40~60代が中心的な消費者である。
すでに「新しい大人市場」は動き始めている。それは、ファッション、食、飲料、通信デジタル、金融、化粧品、日用品はじめ、あらゆる業種を革新する可能性がある。新しい大人消費には大きな可能性があり、新しい大人市場がビジネスを活性化させて行くと思うのだ。

<調査の概要>
首都圏(1都3県)と全国中小都市の40~69歳の計3708人(男女各1854人)を対象に2011年9月9日~10月3日、インターネットで実施

(2012年4月4日 日経MJ「消費分析」欄より転載)

関連情報
新大人研レポートⅠ ”新しい大人世代“の人生のとらえ方(2012年1月19日)
新大人研レポートⅡ ”新しい大人世代“の言われて嬉しい言葉(2012年2月1日)

博報堂新しい大人文化研究所

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア