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【Creator’s Interview】
1枚の奇跡的な写真との出会いから生まれた作品
― 板東 睦実(クリエイティブディレクター)、城﨑 哲郎(博報堂プロダクツ アートディレクター)

2019.06.13
2018年に読売新聞に掲載された広告を対象とし、全国約6,000人の読者モニターの評価をもとに選考委員が審査する「第36回読売広告大賞」のグランプリに、三井不動産の企業広告が輝きました。
インパクトある写真とコピーに目を奪われるこの作品、制作を担当した、板東 睦実(クリエイティブディレクター)、城﨑 哲郎(博報堂プロダクツ アートディレクター)に制作秘話を聞きました。

Q. 作品の背景をおしえていただけますか?

板東:
クライアントから博報堂に、霞が関ビルディングの竣工50年のイベント業務のご依頼があり、ウェブサイト用の動画なども作らせていただきました。その一環で新聞広告の制作業務もやらせていただくことになったんです。この作品が生まれたきっかけは、まずは「写真との出会い」につきますね。

城﨑:
そうですね、“50年前当時の写真を使った広告をつくろう”、ということはクライアントもご了解いただいていたので、当時の貴重なお写真を300~400枚あまり支給していただいたんです。
もちろん、写真を新しく撮影する案や、まったく別の企画もご提案しましたが、この写真はどの案をも圧倒していましたね。

Q. 「霞が関ビル」がテーマなのに、建物ではなくそれを見つめる「人」が主役なのですね。

城﨑:
たしかに、デベロッパーの広告は、施設が描かれているものが多いのですが、どちらの考え方もあると思いました。「霞が関ビルディング」という日本初の36階のビルができた!という時代の空気感や話題性が若い人たちにはぴんとこないはずなので、やはりビルを出すべきかな、と一度は考えたのです。
でも、「初めて空に出現したビルを見上げている人たちの気持ち」が表現されているこの写真が一番強くて、そういう理屈を越えて、これがベストだという結論に至りました。

板東:
あと、これは色々なことに挑戦する、前進し続けるというクライアントの「企業姿勢」を伝える広告でもあるので、主役は人でもあるんです。“人の気持ち”が写っていることで、評価が高かったという感じはありますね。ビル自体の画像からは、人間の姿勢は染み出てきにくいですから。
クライアントも、すぐに気に入ってくださって、即決、全会一致に近い状態でこの案に決めていただきました。そして、若い社員の方々にとっても、ご自分の会社に誇りを持っていただけるインナー広告でもあったと思います。

Q. 一番悩んだところはどこですか?

城﨑:
レイアウトですかね(笑)。 この案で決まって純粋に嬉しかったのですが、レイアウト次第でそれを全て崩してしまうことはよくあることなので、“写真を殺さない”ということにものすごく気を使いました。
写真をたたせるため、メインコピーも含め全ての文字要素を下に固め、読者の視線が上へとパーッと広がるような空間性を出しました。

板東:
この写真を城﨑さんが見つけてきていただいた時点で、もうほとんど決まりで、僕に残された課題は、この広告が、「挑戦」という姿勢をあらわしているのだということをどうやって明快に伝えるかということでした。
実はこれ、メインメッセージはビジュアルで全部伝わっているのですが、言葉で唯一伝えなくちゃいけなかったのは、「霞が関ビルディングを高層にした理由」です。それは日本が狭いからなんです。
当時、高度経済成長期でしたから、国土の狭さを無視して、人はどんどん増えていく一方だった。そして東京がすごい過密で非人間的になってきたときに、非常に画期的なソリューションとして「空があいているぞ!!」ということを発見したのですね。
都市にこれ以上人が住む場所や環境が無いのだったら、みんなで空へ行けばすいているじゃないかという挑戦の発想でつくられているビルだということ。そのことだけはしっかりと言葉で表現し、伝えないといけませんので、そのことに集中して一生懸命コピーを書きました。

海外では、マンハッタン(やはり狭い!)などでは既に摩天楼がありましたが、初めて日本でその考えを導入してきたのが三井不動産さんでした。
クライアントの「挑戦」という企業姿勢は、50年前から一度もぶれたことはなく、今回もその企業姿勢を再度リマインドしてほしい、というオリエンでした。

Q. 印象的だったエピソードや、周囲の反応を教えてください。

城﨑:
ゲラがあがってきた時、先輩デザイナーの方は「おもしろいね」と言ってくださったのですが、若い女性デザイナーが「わーすごい可愛い広告ですね!」と言ったんですよ(笑)。財界人のエライ方々が、ワーッと見上げている、その素直な表情がチャーミングに映ったんでしょう。広告の仕上がりが、若い人たちにも響いたんだな、と僕は単純にうれしくて、それはよく覚えているエピソードですかね。それまでは、自分は良い意味ですが、“シブい”(笑)仕事しているかなと思っていたので。

板東:
見た方からはやっぱり「ああ、いいね」って言っていただくことは多かったですね。おもしろいのは「上見ているのがいいね、高度成長期まっただなかで、みんなで上を向いている時代だったんだね」と言う人が多かったですね。今の世の中、人々はよっぽど下を見ているイメージなんですかね(笑)。

Q. 板東さんはコピーライターとして世に沢山の作品を送り込んでいます。昨年末より博報堂のフェローになられていますが、今も現場でイキイキとして走り回っていらっしゃいますね!

板東:
いやいや、別に走り回ってはいないですけどね(笑)。とにかく、クリエイティブの現場というのは、面白くてやめられない。一時、いわゆる局長という職にもついていましたが、自分としては管理職より本当に現場が好きです。いや、もちろん、ちゃんとやっていましたよ、管理職も(笑)。でも、現場に戻った今、再び本当に楽しくやっています。

Q.お二人の仕事スタイル、アイデアをカタチにするまでの作業方法みたいなものを教えていただけますか?

城﨑:
僕は、打ち合わせが一つの勝負だと思っているので、そこまでにめいっぱいデザインの企画を考えていきます。その場で自分が考えてきたことをきちんとわかりやすく提示できるようにもっていきます。グラフィックって、企画を一言で言えないと伝わらないと思っているので。結構言葉を探したりします。
僕の場合、自分のグラフィック案を的確な一言で表現できない場合って、たいてい自分がそのデザイン自体を理解できていないというか、咀嚼できていないんです。納得できる表現が見つかるまで一人でじっくり考えます。

板東:
私も城﨑さんと一緒で、基本的には、打ち合わせまでに、さんざん考え、アウトプットしたものを持っていきます。何も持っていかないのはクライアントからのオリエンのときぐらいですね。
どっちかというと一人でやる時間のほうが長く、みんなが集まる場では、お互いに持ち寄ったアイデアをばーっと出して、キャッチボールをやって、解散というケースが多く、非常に打ち合わせは短いです。

Q. 担当営業との信頼関係は深いと伺っていますが。

板東:
博報堂のCDの中で一番営業さんをあてにしているのが僕じゃないかな(笑)。昔から担当する営業のメンバーに恵まれていたのですね。なんといっても対クライアントのインターフェースですので、そういう人の言うことは聞いたほうが得なんですよね、やっぱり。

自分と意見が合う、違うというより、クライアントの考えやご要望を正しく汲み取りたいじゃないですか。クライアントニーズを完全に理解した上で、あえて違った方向性のご提案をするのと、把握しないがためにニーズに沿わないご提案するのでは、まったく違いますから。
そういう意味では営業だけでなく、ストプラを始め、他のスタッフとも相当コミュニケーションをします。

Q. 制作過程で、喜びを感じたこと、面白かったことはなんでしたか?

城﨑:
新聞という媒体は独特の紙質なので、コピー用紙やPC上でデザイン作業をしているものと、本紙に刷り上がったものとでは、インクのなじみから何から全然違うんですよ。だから新聞広告って、自分の経験不足もありますが、作っている最中は自分の読みがあたっているかどうかすごく不安なものなんです。
でも、新聞紙でゲラが上がってきたときのこの写真のなじみと紙の広がりを見たときは、これはいいものが作れている、と確信できて、嬉しさと興奮を覚えたことが記憶にあります。新聞のこの独特な色合いにバシッとはまっていたんです、写真もコピーも。

板東:
新聞原稿って、今は一種のお祭なんですね。
ネット広告は常時出ていて、必要に応じて更新され、そしてずっと更新され続けることができますよね。
でも、ある一点をめがけて一気に打ち上げる広告もあり、その性格が一番残っているのが今は新聞だと思うんです。この広告も、2018年の4月12日(この写真は50年前の4月12日に撮影された)に出なくてはならず、たった一日の一瞬の命という実に贅沢なものです。だから、そこに向かってどんどん盛り上がっていく感じというのはすごく楽しかったですね。
僕はネットも大好きなので、状況に合わせて刻々と更新される面白さもわかっていますが、このピンポイントの面白さは新聞ならではです。

Q. 一番大切になさっていること、ここだけは譲れない、ということはありますか。

城崎:
僕は33歳で、それほど長いキャリアとはいえないのですが、若い時と比べ、「これは誰のためにやっているのだろう?」ということを最近よく考えるようになりました。
一時は賞をとるために必死になったり、自分自身のデザイナーとしての成長だけを考えてやっていたようなことがありましたが、だんだんそれだけだと虚しく感じるようになって。最近では、「自分が作ったモノ、発したメッセージを受け取って“喜んでくれる人”がいるかいないか」ということが自分にとって一番大きいと気づきました。
そういう意味でこの作品は、受け取ってくださる側の方々のことを考えてつくれたんじゃないかと思っています。そのベースがあれば、例え炎上したり批判されたりするようなことがおこったとしても、「この仕事をやっててよかった」と思えるんじゃないかなと。

板東:
私も、城﨑さんがおっしゃったことと近くなりますが、企業の人格が出ているようなものを今までもこれからもつくりたいなと思っています。人に人格があるように、会社にも必ず人格があります。
その会社の血の中に流れているようなもの、DNAを表現したいなと思っているのですよ。そのせいかどうかわからないのですが、関わったクライアントとは長いお付き合いをさせていただいています。長くおつきあいしてこそ、引き出せるものがありますから。
でも、おつきあいの長さを度外視しても、「この企業のお人柄ってなんだろう?」とまず考え、クライアントが「あ、これ俺たちだな」と思ってくださるようなものをつくる、というのは初めてお会いするクライアントに対しても全く変わりません。
いつも正解に辿りつけるとは限りませんが、この広告については、それができたのかな、と思っています。

板東 睦実(博報堂 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター)

1981年 大阪大学文学部卒業、同年博報堂入社 コピーライターとしてキャリアをスタートする。1994年クリエイティブディレクターとなり、2001年よりチームリーダー/シニアクリエイティブディレクターとして「板東チーム」を率いる。 2010年に第二クリエイティブ局長就任、2015年よりエグゼクティブクリエイティブディレクターとなり現在に至る。 食品、トイレタリー、自動車、飲料、電機、通信などのクライアントの大型キャンペーンを手掛けた。

城﨑 哲郎(博報堂プロダクツ アートディレクター)

2009年、多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、デザイン会社を経て2014年に博報堂プロダクツに入社。飲料、通信、医療・日用品、ファッション、教育機関など、幅広いクライアントのグラフィック作品を担当した。

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