博報堂が発刊している雑誌『広告』は、1948年に広告文化の創造と発展を目的に創刊された季刊誌です。博報堂の社員が中心となって編集制作を行い、数年に一度、編集長の交代とともに全体テーマや装丁、編集体制の一新を図っています。
2019年より、博報堂のプロダクト・イノベーション・チーム「monom(モノム)」代表の小野直紀が雑誌『広告』の編集長を務めます。リニューアル号発行特別企画として、新編集長による平成の歴代編集長10人へのインタビューを随時公開していきますので、ぜひご覧ください!

広告を“まわり”から新しく

雑誌『広告』歴代編集長インタビュー|第5回 土井徳秋

平成以降、雑誌『広告』の編集長を歴任した人物に、新編集長の小野直紀がインタビューする連載企画。第5回は、平成17年7月~平成20年7月に編集長を務めた土井徳秋さんに話を聞きました。雑誌コンセプトは、「広告を新しくする場所」。読みやすさに軸足を置いた誌面づくりのなかで、社会のインサイトを発見し、広告コミュニケーションに関わるテーマを発信しました。

『広告』を広告に近づける。

小野:土井さんが雑誌『広告』の編集長になったのはおいくつの頃ですか?

土井:58歳だったかな。コピーライター、クリエイティブディレクターとずっと制作部門だったから、会社生活の最後にまさか編集長になるなんて思いもしなかった。

小野:どういった経緯だったんですか?

土井:それは僕にも謎なんだ(笑)。会社からは「広告業界を意識した誌面にしてほしい」という要請があったんだけど。

小野:土井さんの前は、嶋浩一郎さんが編集長でしたよね。

土井:嶋さんは広告業界から距離を置いてつくっていたでしょ。だから、最初は少し広告の世界に近づけて、「なぜ、人はモノを買うの?」(『広告』vol.364)っていう特集にしたんだよね。「これだ、このテーマだ」って、結構反響があったんだよ。それでホッとして、あとは自由にやろうって(笑)。

小野:最初は重要ですよね。でも、土井さんの『広告』はその後もどんぴしゃの広告コミュニケーションだなと感じていました。

土井:そうだね。ただ、広告そのものについては『宣伝会議』なんかの雑誌がいろいろとやっているから、そのまわりで起こっていることをテーマにしたんだよ。広告を真ん中に置いて世の中を眺めた時、そのまわりにある事象だよね。今後の広告に影響を及ぼすような。

それで考えたのが、「広告を新しくする場所」というコンセプトだった。“場所”っていうのは雑誌そのものを意味していただけじゃなくて、社内のいろいろなセクションの優秀で意欲のある人たちに編集委員になってもらったから、そういう人たちが集まってくれた場所という意味合いもかなり大きかったんだよね。

小野:ふたつの意味を持った“場所”だったんですね。

土井:企画を考えるにしても、打ち合わせでみんなが発言してくれるだけで非常におもしろいんだ。そういった触れ合いがなにかを生み出すんじゃないか。そういう場所であってほしいと考えたんだな。

小野:当時の“広告のまわり”はどういった状況だったんですか?

土井:僕が編集長だったのは平成17(2005)年から平成20(2008)年までだから、リーマンショックの手前までなんだよね。YouTubeが出てきたくらいだったかな。そんな時代背景の中で、これからますます広告業界に影響を及ぼす新しいメディアやプラットフォームがいろいろ出てくるんじゃないか。広告のまわりの状況がものすごく変わって、人の気持ちまでも変わっていく時代の中で、広告を新しくしていこうと思ったんだね。

渾身の特集「ことばエネルギー」
頭で考えず、下半身で考えた言葉の力。

小野:土井さんは編集長を3年半やられていたので、思い入れはそれぞれの号にあると思うんですけど、その中でも渾身の一冊をご紹介いただけますか。

土井:この号だね。特集「ことばエネルギー」。

土井元編集長が選んだ“渾身の一冊”は、平成18(2006)年4月に発行された『広告』vol.367 特集「ことばエネルギー」
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小野:言葉を特集テーマに取り上げた理由はなんだったんですか?

土井:ひとつは、インターネット空間でみんなが言葉を発信する時代になってきたと感じたこと。指先でキーボードを叩いて発信する言葉って、どういう言葉なんだろうか。それを考えてみたらおもしろいんじゃないかっていう考えが漠然とあった。

小野:インターネットも言葉も“広告のまわり”にあるものですよね。

土井:もうひとつは、やっぱり僕がコピーライターだったということ。コピーを書く時によく言われたんだよ。「頭で考えるな。下半身で考えろ」ってね。要するに、頭だけで考えてちょぼちょぼっと書くんじゃなく、下半身から身体を通過させた言葉で書かないとダメだって。

小野:言葉へのこだわりですよね。

土井:インターネットで発信される言葉って、どうもそうじゃない。身体を通過させずに発信された、本当に指先だけで生み出された言葉のような感じがして。だから、この特集は言葉といっしょに身体も企画の中心に据えたんだよね。

例えば、この号には女優の大竹しのぶさんにインタビューした企画があるんだけど、舞台でギリシャ悲劇を演じる時、2500年前の人たちの言葉を自分の身体を通してお客さんに伝えられることは喜びだと。大竹さんはそう言うんだ。自分の身体から発せられた言葉が、お客さんに染み入っていくのがわかるって。この「染み入っていく」っていう感覚は、広告の世界でも同じなんじゃないかって思うね。

小野:広告もまた、言葉を紡ぐものですよね。コピーライターとして言葉を紡ぐことと、雑誌の編集長として言葉を紡ぐこと。この部分の違いというのは感じられましたか?

土井:……そうだなぁ、僕には長い文章が書けなかった(笑)。というか、コピーライターとして長く書かずに伝える訓練をしてきたから。

小野:わかります(笑)。

土井:巻頭で書いていた編集長コラムと編集後記で精一杯。

小野:コラムを毎号書いていらっしゃったんですよね。

土井:「1947年に生まれて」というタイトルでね。よく、広告業界のパーティーなんかで言われたんだ。「雑誌のコラムよかったよ」って。それが嬉しくてね。コピーっていうのはクライアントのものでしょ。自分のコピーが褒められたとしても、企業の代理人として褒められてるだけだから。でも、コラムを褒められると自分が褒められた気がして(笑)。あれは本当に嬉しかったね。

イチオシ記事は、
人間関係を丸くする関西弁について。

小野:特集「ことばエネルギー」で思い入れのある記事をご紹介いただけますか?

土井:ひとつあげるなら、河合隼雄さんをインタビューした「河合隼雄さんと『関西弁力』に迫る」という企画かな。河合さんは臨床心理学者で、当時の文化庁長官なんだよね。僕たちみたいな人間がドヤドヤっと行ったのにすごく歓待してくれたんだよ。

「今日は『関西弁力』についてお伺いしたいと思います」
「関西弁力は何ボルトや?」
「それは関西電力ですわ(笑)」

っていうやりとりから始まってね(笑)。長官という地位の人が、僕らと同じ目線に立って接してくれたっていうことに、すごく感動したんだよね。

小野:同じ関西弁のやりとりで、一気に距離が縮まったんですね。

土井:まさにその通りで、この時に河合さんとは、「関西弁は境界をつくるんじゃなくて、境界を曖昧にして人間関係を丸くする力がある」なんてことを話したんだよ。よく会議なんかでもあるでしょ。困ったら関西弁でまとめちゃうっていう。

小野:わかります。僕も大阪出身なので(笑)。

土井:「そんなん、もうこれでいこうや!」みたいなね。「これにしましょうか」ってやると決まらないんだけど、「これでいこうや!」だとまとまる。そういう時に出る関西弁には力があるって思うね。ただ、これもね、ネットだと力は薄れていくんじゃないかな。

小野: 書き言葉だと関西弁じゃなくなるというのは確かにありますよね。

土井:話し言葉は体の中から出てくるからね。僕は大学の頃にロシア語を専攻していたんだけど、ロシアなんかはやっぱり寒いから、口をあまり開かずに発音できる言葉になっていく。暖かいところほどカパカパと口を開けて発音するでしょ、スペイン語とかさ。僕は、そうなんじゃないかと思ってるんだけど。生まれた場所で身につけた言葉とか、その土地から生まれた言葉はおもしろいよね。

『広告』の歴史は時代背景そのもの。
では、もう一度編集長をやるなら?

小野:特集「ことばエネルギー」を読んでいて気付いたんですが、この頃もまだスマホは出ていなかったんですよね。「ケータイすることば」という企画を読んで、あ、まだ携帯の時代だったんだと改めて思いました。

土井:そういう視点で読み返すとおもしろいね。10数年という歳月がどういうものだったのか。一度、「メディアはどこへいく?」っていう特集(『広告』vol.368)を組んだことがあるんだけど、巻頭企画でメディア環境研究所の中村博さんに「10年後のネット社会はどうなってますか?」って聞いたんだ。そうしたら、「ズバリ、わかりません」と。実際、スマホがここまで普及するなんて思ってもみなかったし、あとになって読み返してみると、非常におもしろいなって感じる。編集長は変わっても、『広告』はずっと時代背景がテーマにあるからね。『広告』の歴史は、時代背景そのものだと思うね。

小野:そんな土井さんが、もし、もう一度『広告』の編集長をやるならどんなテーマを設定しますか?

土井:なにをやろうかな……。実際に締め切りに追われないとわからないかな(笑)。編集長をやっていた頃から、「広告という言葉そのものがなくなるんじゃないか」って言われていたし、今の時代に『広告』というタイトルの雑誌自体をどうつくればいいか。……ズバリ、わからない(笑)。

撮影:平野哲郎
フリーランスカメラマン。蔵田好之氏に師事した後、平成10年に独立。ポートレート、ファッション、ライブ、イベントなど、人物の撮影を中心にジャンルを問わず活動。土井元編集長が最も思い入れのある特集「ことばエネルギー」では、「河合隼雄さんと『関西弁力』に迫る」の撮影を担当した。

インタビュー:小野直紀 文:編集部

平成27年1月~平成28年10月編集長: 土井徳秋

昭和45年、博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして数多くの企業広告を手がけた。平成17年7月に『広告』編集長に就任。「広告を新しくする場所」をテーマに、コピーライターとして読む人に失礼のない雑誌、丁寧に読める雑誌を目指した。また、毎号の巻頭にコラム「1947年に生まれて」を執筆、人気を博す。平成20年7月までに13冊の『広告』を世に送り出した。

雑誌『広告』新編集長 小野 直紀

博報堂monom代表/クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー
1981年生まれ。2008年博報堂入社。2015年に博報堂社内でプロダクト・イノベーション・チーム「monom(モノム)」を設立。手がけたプロダクトが3年連続でグッドデザイン・ベスト100を受賞。社外ではデザインスタジオ「YOY(ヨイ)」を主宰。その作品はMoMAをはじめ世界中で販売され、国際的なアワードを多数受賞している。2015年より武蔵野美術大学非常勤講師、2018年にはカンヌライオンズのプロダクトデザイン部門審査員を務める。2019年より雑誌『広告』の編集長に就任。

雑誌『広告』HP https://kohkoku.jp
雑誌『広告』note https://note.kohkoku.jp

【土井元編集長 渾身の一冊を無料公開】
インタビューにてご紹介した土井元編集長 渾身の一冊をオンラインにて無料公開します。
『広告』2006年6月号 vol.367 特集「ことばエネルギー」
▶ ︎こちらよりご覧ください

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さらに、その中の「尾形元編集長イチオシ記事」をnote用に再編集しましたので、こちらもご一読ください。
■イチオシ記事#: 河合隼雄さんと「関西弁力」に迫る(土井元編集長イチオシ記事)