世界全体では2018年に約1700億円、2022年には約2500億円の市場へと拡大すると見込まれるなか、日本市場の2017年は約5億円。ポテンシャルを秘めていながらも、まさに「これから」と呼び声が高いのが、eスポーツです。
最適な課題解決力をもってメディアおよびコンテンツビジネスを提供している博報堂 コンテンツビジネス室。コンテンツビジネス室の飯田浩、加藤俊太郎、そして現役eスポーツ選手でもある蓮見一成に、eスポーツの可能性、さらに広告会社として果たすべき役割と期待を聞きました。
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eスポーツ配信スタジオの設備投資ラッシュが来る?

──博報堂のみならず、現在地点の日本で起きつつある潮流はありますか?

飯田
「eスポーツカフェ」といった施設のオープンが、2019年の夏以降に相次ぐはずです。日本でいうネットカフェのようなもので、韓国には「PCバン」というeスポーツに特化した施設があります。「PCバン」日本版ではないですが、そういった施設の開業もあるかもしれません。

あるいはカフェではなく、中小規模の大会が開催できるような貸し出しスペースの整備も進んでいるそうです。eスポーツはLAN設備などの環境が整ってないと開催ができませんから、都市開発をしているディベロッパーが、新しいビルの建築計画に組み込もうとしていたり。

──法規制の緩和を見越してのことでしょうか。

加藤
それもあるとは思いますが、映像の視聴環境の変化も大きいでしょう。これまではテレビが王様でした。一方で、eスポーツの主戦場はネット配信です。これはeスポーツに限った話ではありませんが、「配信スタジオ」の役割は従来よりずっと大きくなっています。

カフェだけを組み込もうとするよりも、配信に対応して、小規模のイベントができるような設備にすることで、規制緩和よりもイベントが打てる環境があれば、実際にビジネス含めて成り立つ可能性が出てきます。それこそ、僕が配信主だったとして、何名かのeスポーツ選手に声をかけ、それを配信することも可能です。そんなとき、配信設備が整っている場所は、非常にニーズがあります。

──たしかに「安定した環境でネット配信ができる場所」は、あまり思いつきません。

加藤
各ゲームメーカーも制作タイトルのプロモーションを、どんどん配信にシフトしてくるので、そういった利用を考えてもニーズが高いと思います。……とはいえ、実際の規模感は不透明なところもあるので、ともすると設備が過剰供給になる時期があるかもしれません。

蓮見
eスポーツ選手の一人として関わっていても「場所がない」という純粋な問題は変わらずあります。僕は格闘ゲームを専門にしていますから、基本的には会場に1対1で揃って戦えるからまだ良いのですが、ネットワーク経由で戦う複数人が同時プレイするPCゲームとなると、やはり十分なLAN環境と大きなスペースが必要。それには個人宅では難しい面もありますから、eスポーツにとっては後押しになる動きだとは思います。

飯田
さらに、5G通信の時代が到来するのも、やはり大きな変化です。5Gが導入されるとタイムラグがほとんどなくなってきます。遠隔地との対戦もしやすくなりますよね。

蓮見
格闘ゲームの場合は非常に細かい動きも追求されるので、現状でオンライン対戦が可能な海外は台湾ぐらいまでの距離です。それ以上は、ささいなタイムラグが勝敗を分けかねない。だからこそ、ラスベガスやリオといった現地に、プレイヤーが集まって大会をする必要があるわけです。それが、5Gの到来で解決するのであれば、対戦できる対象の範囲も変わりますから、競技の活性化にもつながるはずです。

加藤
大きいですよね。ブロックチェーンが当たり前になり、自動運転車のスクリーンがVRになり、街の風景に自然と広告も溶け込む……といった話がどんどん広がっていく。エンターテインメントコンテンツも、それに合わせて発展していくと思うんですよね。音楽も映画もアニメも変わっていき、おそらくeスポーツも今のかたちではなくなるはずです。それらが融合していくことを思うと、今後の展望は無限なのではと感じることも多いです。

──他にも、日本国内でeスポーツの機運を高めるには、どういった方法が考えられますか?

飯田
まずはスポーツとして認められるためには、学校の部活動として取り入れられることでしょう。中学や高校に部活がつくられはじめれば、一挙に広がります。「eスポーツはスポーツのひとつである」という認識も加速するでしょうから。

実際にそういう動きをしている自治体もあります。福岡県福岡市は「ゲームシティ」を宣言して、一歩先に導入を進めていますね。それをオーディナリーとして、市内を起点に普及活動も始めようとしています。毎日新聞も「全国高校eスポーツ選手権」を主催しましたね。

──さらに法改正も含めれば、選手の育成からプロ化までが一気通貫するかもしれません。

飯田
そうですね。まさにサッカー部からサッカー選手になっていくのと同じ道になります。海外では、韓国や中国、スウェーデンには国立のeスポーツ選手養成学校があったり、独自の養成コースやプログラムがあります。ですから、当然に選手のレベルも高くなります。

来場者3万人、さらに数百万人の視聴者、有料課金もある

──技術面や設備面だけでなく、視聴環境についてはどうでしょうか。

飯田
現状でも専門の実況者や解説者が出てきています。それこそ、かつての古舘伊知郎さんによるプロレス実況を思い出すような実況もあれば、ずーっと場内でがなっている人とかもいます(笑)。基本は英語なのですが、配信用にスペイン、韓国語、中国語など、各国の担当者が付いています。いわゆるスポーツ中継のブースみたいなのが設けられ、そこにアナウンサーと解説者がセットになっていると。ボクシングやバスケットボールとも同じ座組ですね。

──それを大会の現場向けと、配信向けとで、同時に行われているんでしょうか。

飯田
そうです。大きな大会となると、会場に来ている3万人だけじゃなく、世界中で同時に数十万人、数百万人が視聴しているわけです。昨年、日本で開催されたEVO Japanは世界で1000万人が見ていましたから。

加藤
2018年に東京で開催されたEVO Japanでは、来場者も4割が外国の方でした。韓国、アメリカはもちろん、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、中国、スペイン、コロンビア……本当に多国籍の観客でした。

飯田
アラブの王族も見に来ていたよね(笑)。

加藤
いましたね!彼らはわざわざ、そのために日本へ来ています。しかも、来場者は数千人だったはずですが、彼らは入場料を払っている観客です。

──ということは、配信も有料なんでしょうか。

飯田
配信権という意味では有料ですが、視聴は無料のものも多いです。配信業者に配信権を売っているわけです。それもビジネスの大きな一つですね。スポーツ中継の放映権と同様に考えてもらうと、わかりやすいでしょうか。

その意味では、日本開催のあらゆるスポーツイベントより、もっとグローバルかもしれないですね。インバウンドの相乗効果も見込めるでしょう。訪日外国人が増え、eスポーツの施設が日本国内に増えていき、いろんな大会が常時開かれるようになれば、彼らも観てまわる機会が増える。全員にとってWin-Winになっていく可能性はあります。

Jリーグ発足時の予感とも似る、ロマンある挑戦

──最後に、ビジネスサイドから、現状の手応えや今後の展望を聞かせてください。

加藤
ナショナルクライアントから中小クライアントまで、問い合わせや要望はとても多いです。また、自治体からも期待が高いですね。何とかeスポーツという新しいビジネスに参入したいという思いが強いようです。各クライアントがテレビだけでは取り切れない、さらにウェブでも取りきれないターゲットが、この領域にいるのでは、と考えていらっしゃる。さらに、若年層の気持ちをつかみ、エンゲージメントをつくるのに向いているコンテンツでは、と思い始めているのだと感じます。

実際、僕らとしても調査をしたことがあったのですが、「eスポーツが好きな人」は抱いていたイメージとはだいぶ異なりました。たしかにガジェット好きで、ギークな一面を持っているすこし昔でいうオタクっぽい部分はありますが、良いと思ったものを自分から発信する外交的なタイプです。いわゆる、ステレオタイプなゲーマー像とは違うターゲットがいます。そういう人たちを捕まえる意味では、企業のコミュニケーションやブランディングといった活動でも、しっかり寄与できるのではと考えています。

飯田
海外大会を視察して驚いたのは、加藤が言うように、観客にはありがちな「オタク」が少ない印象でした。日本で言う「コミケ」や「ゲームショー」で見かけるタイプよりも、外見がとてもおしゃれで、女性も多い。大会のあとは、その後でクラブへ踊りに行ったりもする。それに違和感がないんですね。

加藤
おそらく、彼らはドラマよりもゲームを観るのが好き、というだけだと思います。とはいえ、それだけでタッチポイントが全く異なりますね。思っていた以上にニッチマーケティングではないのだ、ということです。

飯田
最も踏まえておかなければいけないのは、eスポーツは「コミュニティ優先ビジネス」ということです。これまではスポーツも興行も、主催者がつくって与える「サプライビジネス」でした。しかし、eスポーツに限っては、プレイヤーのほうが主導権を持っています。つまり、彼らの意向こそが最も大事になる。コミュニティビジネスに特化した、最初のメジャーなマーケットになるのではとさえ感じます。世の中が様変わりしていく過渡期の、象徴的な存在になるのかもしれません。

蓮見
そうですね。eスポーツビジネスが他の興行と違うのは、来る人が観覧者でありプレイヤーでもあるということです。その人たちがいかに「うれしい」「楽しい」と思える空間を作れるか。そのゴールのためには、有名選手を呼べば良いわけではありません。その感情の機微も理解した上で、いかに興行モデルを作っていくのか。それはSNSが最大のコンテンツになっている今、とても現代的ですし、新しい挑戦なのだろうと思います。

元からあるゲームコミュニティに、あとからビジネス側がeスポーツという言葉を付けていったのが現在です。その根本への理解を間違えないようにしなければいけません。

飯田
言い得て妙ですね。その点では、現役選手の蓮見がいてくれるのは心強くもあります。
博報堂はビジョンとして「未来を発明する会社へ」と掲げていますが、広告会社の従来型のモデル以外にチャレンジしようとしている中で、日本市場ではまだ「これから」というeスポーツに関われるのは、とてもドキドキする体験です。

今後、どうなるかわかりませんが、博報堂がいち早くそういう場所へ乗り出していった過去を思うと、サッカーのJリーグ発足のときに近い感覚があります。あのときも、誰もが「Jリーグがビジネスモデルになる」とは信じていなかったはずですが、汗を流したひとがたくさんいました。eスポーツにおいても、博報堂がパイオニアとして牽引し、拡大していきたい思いはあります。それだけのロマンがある市場だと考えています。

■プロフィール

飯田浩
博報堂 コンテンツビジネス室  コンテンツビジネス推進部長

1989年、TVプロデューサーから転じて博報堂に入社。営業担当、営業部長として、食品、金融、コンピュータ、不動産、映画など、多彩なクライアントのアカウント業務に従事。2010年、出版・コンテンツビジネス局への異動を機に、本格的にコンテンツビジネスの開発に関わり、現在に至る。

加藤俊太郎
博報堂 コンテンツビジネス室コンテンツビジネス推進部

2002年入社。営業として、家電、出版、映画、ゲーム等の業界を担当しアカウント業務全般に従事。
2012年より営業業務と並行して、営業ナレッジとコンテンツ系クライアント担当から得たコンテンツビジネスナレッジを活かしながら、コンテンツビジネスのプロデュースを本格化。

蓮見一成
博報堂 コンテンツビジネス室コンテンツビジネス推進部

新卒で経営コンサルティングファームに入社後、2007年に博報堂に中途入社。営業として自動車、飲料業界などのクライアントを担当。2018年よりコンテンツビジネス室に複属。自身の長年の格闘ゲームプレイヤーとしての知見も活かしながら、eスポーツを中心にコンテンツビジネスの仕事に従事。