最適な課題解決力をもってメディアおよびコンテンツビジネスを提供している博報堂 コンテンツビジネス室。昨今、日本国内でも注目を集める「eスポーツ」においても、日本市場の振興を図るため、まさに潮流の只中で次の一手を打ち続けています。コンテンツビジネス室の飯田浩、加藤俊太郎、そして現役eスポーツ選手でもある蓮見一成に、eスポーツの可能性、さらに広告会社として果たすべき役割と期待を聞きました。

世界全体では2018年に約1700億円、2022年には約2500億円の市場へと拡大すると見込まれるなか、日本市場の2017年は約5億円、2018年は急拡大をみせるものの、まだ約48億円。ポテンシャルを秘めていながらも、まさに「これから」と呼び声が高いのがeスポーツです。

eスポーツは“Electronic sports”の略称で、PC用ゲームや家庭用ゲーム機を用いた「コンピュータゲーム」の対戦を、スポーツとして捉えた競技です。1対1の個人対戦あり、各々が3〜5名のチームを組んで戦うものもあります。

世界レベルでは、競技者、観戦者、配信視聴者を合わせると4億人を突破。比較対象にサッカーが2.5億人であることを考えると、非常に大きな数字だとわかります。世界中でプロチームが結成され、年収1億円を超えるプロeスポーツ選手も誕生。高額賞金大会も多数開催され、選手、チーム、リ-グ、大会、映像番組、専門解説者が生まれるなど、スポーツのいち競技としてみても急拡大、急成長を遂げています。

会場に足を踏み入れ、一瞬で理解した熱気

──博報堂としてeスポーツに着手したのは、どれくらい前なのでしょうか?

加藤
実は6年ほど前からです。あるクールジャパン系企業が集まったプレゼン大会で知って以降、関係者をたどってネットワークを少しずつ広げていきました。

飯田
実際、加藤から6年前に「eスポーツ、やりましょう!」と話を聞いたとき、僕は正直言って、半信半疑だったんです(笑)。ただ、取り組みをはじめて、世界で開かれる大会を視察してみると「頭で考えるよりも、ずっとポテンシャルがある」と瞬時に感じ取れましたし、会場の熱気もすごい。それこそ、会場では6万人近くがウェーブしながら盛り上がっているところもありました。人間の根本は、海外と日本人でもそれほど変わらないでしょうから、日本でも十分に可能性があると思えました。

たとえば、他のスポーツとの類似性もあります。観ている側としても、ヨーロッパの5人チームにアジアから韓国人が1人だけ加わっていたりすると、まさに海を超えて活躍するサッカー選手のようにまぶしく見え、彼を応援したくなるんです。

加藤
飯田さんも可能性を覚えてくれ、そこから地道に取り組んできました。日本でも2018年に、やっと「eスポーツ」という言葉が急に出始めてきた感触があります。いっそ戸惑いすら覚えるぐらいの広がり方です。

──それは市場が大きくなりすぎたのか、業界全体の勢いが出たのか、どちらですか?

加藤
いえ、日本市場はまだまだ追いついていません。話題性とポテンシャルが取り沙汰されているのが現状ですね。確かにポテンシャルはすごい。たとえば、「ゲーム好きの人口」を、スマートフォンアプリのゲームを楽しんでいる人まで広げれば、すごい数になりますから。その熱さは、現役選手の蓮見のほうが肌感があるかもしれませんね。

蓮見
私は別の部署との複属という形ですが、熱望してこのチームに加わらせていただきました。2005年に書いた大学の卒業論文も、テーマは『日本におけるゲームのプロ化は可能か』でした。小学校の頃からずっと格闘ゲームをしてきて、大会に出て優勝したこともあります。博報堂に入社してからも、有給休暇を取ってアメリカの有名大会に参加してきました。

eスポーツが進んでいる韓国などでは超有名な人が生まれており、扱いもタレント並み。本当にここ2年ほどで、世の中としてもeスポーツという言葉が認知され、ビジネスとして成立し得るのではないかという期待感があります。

eスポーツを日本で活性化させる、最大のポイントは「法規制」

──世界市場の盛り上がりに関して、日本の現状はどうなっているのでしょうか?

飯田
もともと日本はゲーム大国ですが、eスポーツとしては世界に追い抜かれたままです。
理由はさまざまですが、日本では「スポーツ=体育」という前提が根強いのでゲームをスポーツと見なすこと自体への難しさがありますよね。一方、海外では「スポーツ=楽しくて面白いこと」なんです。もともとの土壌が違うことも大きい。たとえば、チェスを「マインドスポーツ」と呼べるような柔軟さもあるわけです。日本と海外には、そこにひとつの隔たりがあるのでしょう。

蓮見
そうですね。僕は学生のとき部活動でサッカーをしながら、土日にゲーム大会へ通う日々を過ごしてきたのですが、先生に両方を報告すると「サッカーは頑張れ、ゲームはほどほどに勉強しなさい」と言われてしまう。僕としては一生懸命に練習をして、勝ちたい相手に挑んで成果を出すという本質的な点では同じことなのに……という違和感がありました。

今、日本もようやく追いついてきて、専門学校にeスポーツ学科が設立されたり、一部の学校で部活認定があったりと、産学連携も含めて20年越しに認められた気持ちです(笑)。

飯田
そして、海外との大きな違いは「法律の壁」です。たとえば、海外では「参加者からお金を集め、勝った人間が総取りできる」という仕組みが成りたちますが、日本では賭博罪に掛かってしまいます。ほかにも景品表示法、風営法などの法整備が必要なので、日本でeスポーツの機運があっても一般化まで時間がいると思っています。
ただ、いずれは規制緩和になる見通しもあります。先日もダーツが風営法の規制対象外になったように、いわゆる「除外対象」になるかもしれません。

加藤
現在、日本ではJeSU(日本eスポーツ連合)という組織を中心に法改正に対しての動きを早めています。その動きに、博報堂としても協力すると表明しています。やはり産業として根づいていきませんからね……。

飯田
アメリカでは一つの大会で「賞金総額28億円」といったものまであります。そうすると、自然とプロプレイヤーという存在が生まれ、ミリオネアプレイヤーの存在が知られると目指す人も増えてくる。世界で戦う日本のトッププレイヤーである梅原大吾さんや、ときどさんでも、その域には達せていないはずです。プロを生む土壌としても、産業を取り巻く環境としても、まだまだこれからだと感じています。

蓮見
プロプレイヤーにはエナジードリンクメーカーや、デバイスメーカーなどがスポンサーとして付くのですが、やはりプロの頭数と一人当たりのスポンサーが増えていけば、それに応じてマーケット規模も広がっていきますからね。

興行ビジネスに勝機を見る!

──法規制の壁もありますが、博報堂としてはどのようなビジネスの展望を持っているのでしょうか?

飯田
立ち位置は「興行ビジネス」です。ボクシングやプロレスと構造自体は同じだと考えてもらっていいでしょう。広告会社が関わるビジネスとしては、我々がゲームプラットフォーマーになるわけにもいかないですし、チーム運営というのもリスキーです。やはり、興行ビジネスとしていかにIPを持つか、そしてそのIPをいかに活かすか。それが鬼門になると思っています。

というのも、僕らとしてもeスポーツビジネスを模索してリサーチすると、海外の大きな賞金イベントは、ほぼゲーム会社であるパブリッシャーが主催していました。自社で開発したゲームを使い、自社が賞金を出して運営している。すると、スポンサーを得る仕事も、イベントの運営も含めて、エージェンシーが不要なわけです。一方で、パブリッシャーでない同好者が集まってイベントを興し、それが世界的な大会になっていったケースもあります。

エージェンシーが要らない構造は変わりませんが、そういった大会のライセンスを渡してもらえるのであれば、僕らがブランドとして強化し、運営し、協賛スポンサーを集め、配信権やチケット・関連商品を売っていく。そしてよりプレイヤーや観客に愛されるIPに育てていく、という余地があります。

──なるほど、いわゆるサードパーティのイベントをつくったり、支援していったりすることから取っ掛かりをつくっていくのですね。

飯田
そうです。集客力があり、質の良いeスポーツ大会に対して、リスペクトを持って川上から参加していく。それが、「生活者発想」を標榜する広告会社としてeスポーツビジネスに対する折り合いが付くところかなと思っています。

加藤
海外規模のイベントに触れられるのもeスポーツの強みです。特定ゲームの共通ルールで戦うものなので、プレイヤーも観客も基本的には言葉の壁がありません。アメリカで行われているイベントを日本で開催することもできます。理想論で言えば、日本大会を海外へ持っていったり、海外で共同開催したりといったことも意外と叶いやすいかもしれません。正直に言うと、やりたいこと、できることはたくさんある。ただ、身動きが取りにくいこともある、という現状ですね。

──興行ビジネス以外にも、できそうなことはあるのでしょうか?

加藤
いろいろあると思います。たとえば、現在はゲーム画面のつくり方もプレイヤーのためにつくられているものが多いのですが、それを今度はプロスポーツやスポーツビジネスで考えると、「観客がどれだけ楽しめるか」という工夫はできるはずです。それによって、観る人が増えるというのも大事になってきます。そこが今後も開発されていくことは期待したいところです。視聴データを活用した楽しい見せ方を開発している企業もありますし、まだまだビジネスレイヤーでも参入余地はあります。

飯田
あるいは、そこも博報堂が一緒になってつくっていけるとも感じます。我々の「生活者発想」というフィロソフィーで考えれば、プレイヤーと視聴者、あるいは視聴者未満の「ゲームが好きな人」との溝をしっかり埋めていく。それは生活者発想だからこそ成し遂げられることではないかとも思います。

その点では、異分野のコンテンツとマッチングさせるのも一案ですね。音楽や映像イベントと一緒に興行としてまとめ、ショーとしていかに仕立てられるか。それはたぶん、僕らにとっても勝負どころなのではないでしょうか。

★後編へつづく

■プロフィール

飯田浩
博報堂 コンテンツビジネス室  コンテンツビジネス推進部長

1989年、TVプロデューサーから転じて博報堂に入社。営業担当、営業部長として、食品、金融、コンピュータ、不動産、映画など、多彩なクライアントのアカウント業務に従事。2010年、出版・コンテンツビジネス局への異動を機に、本格的にコンテンツビジネスの開発に関わり、現在に至る。

加藤俊太郎
博報堂 コンテンツビジネス室コンテンツビジネス推進部

2002年入社。営業として、家電、出版、映画、ゲーム等の業界を担当しアカウント業務全般に従事。
2012年より営業業務と並行して、営業ナレッジとコンテンツ系クライアント担当から得たコンテンツビジネスナレッジを活かしながら、コンテンツビジネスのプロデュースを本格化。

蓮見一成
博報堂 コンテンツビジネス室コンテンツビジネス推進部

新卒で経営コンサルティングファームに入社後、2007年に博報堂に中途入社。営業として自動車、飲料業界などのクライアントを担当。2018年よりコンテンツビジネス室に複属。自身の長年の格闘ゲームプレイヤーとしての知見も活かしながら、eスポーツを中心にコンテンツビジネスの仕事に従事。