THE CENTRAL DOT

テックプレイヤーと次世代の顧客体験を共創する。
日本企業初「NYC Media Lab」から始めるチャレンジ

2019.02.19
#グローバル#テクノロジー#共創
博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター(以下、MTC)では、現行のマーケティングやデバイス環境に関わるテクノロジーのみならず、生活者に影響を及ぼす次世代のテクノロジーを利用したソリューション開発にも力を注いでいます。
国内外で様々な企業や大学、団体と共同での研究を進めている「次世代顧客接点」の領域における開発の内容や協業の状況について、同社の木下陽介と目黒慎吾に聞きました。

木下:MTCの木下です。事業会社の持つマーケティングテクノロジーを駆使したソリューション開発をしています。テクノロジーの分野ごとにアドテクノロジー、生活者DMPなどのチームに分かれているのですが、今回は我々の言葉で「次世代顧客接点」と呼んでいる領域での取り組みについてお話します。

目黒: 「次世代顧客接点」領域を担当している目黒です。2007年に入社し、10年間営業として国内大手企業のグローバル業務などに従事してきました。2018年4月から上席研究員としてマーケティング・テクノロジー・センターに異動し、現在のプロジェクトをスタートしています。

木下:博報堂DYグループの課題として以前から感じていたのが、提供しているソリューションがマーケティングテクノロジーに閉じてしまっていることでした。高度な分析などをしているのに、出口としてはメール配信やバナー広告などのソリューションに留まりがちとなっている。
そこからもう少し出口を広げて、我々の本来の強みであるクリエイティブも生かすソリューションを考えることが出来ないかということをずっと考えていました。AR/VRやAIを用いたチャットボットといった新しいテクノロジーと、我々の持ち合わせるデータ基盤に関わるような様々な技術を組み合わせれば、生活者との接点において、もっと力を発揮できると考えています。そういった生活者との接点を変えうる新しいテクノロジーを我々では「次世代顧客接点」と呼んでいるのですが、現在はまず先行してAR/VR、ウェアラブルデバイスなどに取り組んでいる状況です。

ARVRサービスモデルは四つのタイプに分けられる

目黒:一昨年、ARやVRなど「xR」と呼ばれる領域で事業を展開されている50社について調べたのですが、現状のxR領域でのサービスモデルは大きく四つのタイプに分けられるように思っています。

一つ目は特定領域ワンストップサービス型です。映画や音楽の配信、不動産の内見など、特定の領域に絞ったコンテンツやソリューション提供を行うようなタイプがここに入ります。

二つ目は課題解決・制作受注型です。これは、課題解決の手段としてAR/VRの技術を活用して、例えば広告キャンペーンだったり制作業務を行うようなサービスモデルですが、hakuhodo-VRARが手がけた「風神雷神図屏風」はこれに当たると思います。

三つ目は、生活者データ取得&レスポンス型と呼んでいます。仮想空間内での行動や視線等の生活者データを取得し、そのデータに応じた何らかのレスポンスを返すようなサービスモデルです。例えば、仮想空間で買い物をする場合、どのように動いてどんな商品に触ったか、といった行動データを取得することができますが、その結果からその人により適切な商品をレコメンドするといったことも可能となります。AR/VR技術を活用した新たなコミュニケーション購買体験も、この方向性から出てくると思っています。

そして四つ目はプラットフォーム運営型です。これは、xR技術を用いたユーザーコミュニティプラットフォームを運営するようなサービスモデルを想定しているのですが、仮想空間で誰かと会話できるチャットルーム等もここに該当するものと整理しています。ユーザーが生息できるバーチャル空間上の仮想世界、あるいは特定の現実空間に重ねられた体験拡張型の世界など、新しいコミュニケーションの場を提供するサービスモデルです。

木下:この四つを見たときに、博報堂DYグループのリソースとしては、一つ目はコンテンツに関するものなので博報堂DYメディアパートナーズが、二つ目はクライアント企業からの課題解決や受注がメインとなるのでhakuhodo-VRARなどが対応していく領域だとした時に、我々MTCで研究開発を推進していくべきは三つ目と四つ目だと考えています。

特に四つ目の部分では、アップルやグーグルなどが積極的に技術開発を行っていますが、AR技術を基盤とした新たなプラットフォームの構築はこれからどんどん進んでいくように思います。

いま皆さんが体験されているAR、例えばポケモンGOなどは、それぞれのAR空間が繋がっていません。私がAR上にピカチュウを出した場合、他の人の携帯端末からはそれを見ることが出来ないんです。他の人と同じAR情報を共有するための技術をARクラウドと呼んだりするのですが、これを実現するための基礎技術をアップルなどが発表しています。

バーチャル空間を共有出来るようになれば、現実空間上の不特定多数に対していろいろなものを表示することができるので、例えば新しい広告が作られるかもしれません。テレビモニタを通してみるテレビ広告、スマホで見るデジタル広告、さらにその先は、現実空間にARで表示される広告を見るような時代が来るかもしれませんね。

ARでは、現実空間にデジタルの情報をオーバーレイして見せることになるので、空間に違和感なく表示するためには、例えば壁面にピタッと映像や画像をくっつける必要があります。そのためにはまず空間や地形をスキャンして認識することが必要になるのですが、これをスマホで簡易に出来るアプリなども登場しています。

目黒:もしかしたら、将来は一人一人が見るARの世界が変わるかもしれません。現在でも例えば検索は、個人の過去の検索の傾向によって結果が変わりますよね。同じようにAR上でも、その人の嗜好によって見える世界が変わるように出来るかもしれません。

プロトタイプ段階で外に出して触ってもらう

木下:AR/VRのような先端テクノロジー領域でプロジェクトを推進していく上でのポイントは、今までのように「全てを自社で作る」という方針を止めることだと考えています。技術が未知数で不確実性が高く、先端テクノロジーであるが故に理解を得られるまで時間もかかることから、AR/VR領域単体の事業で利益を上げている企業はとても少ないと認識しています。また、他社もテクノロジーの研究開発を始めている中で、自社でゼロから作っていくのはスピード的に遅れてしまうことから、外部のプレイヤーとアライアンスを組んだり、業務提携することで、新しいサービスを作っていこうと考えています。次世代顧客接点を担当する我々のチャレンジの一つとして、「NYC Media Lab」への加盟があります。

目黒:NYC Media Labについて簡単にご説明します。背景としてまず2008年にアメリカで起こった金融危機から話は始まるのですが、そのダメージがとりわけ大きかった金融の街ニューヨークでは、テクノロジーを軸に街を活性化しようということになりました。前ブルームバーグ市長、現デブラシオ市長の二期を通じて、テクノロジー/スタートアップシティへのシフトが進められ、例えばFin-TechやEdu-Techなどの「ハイフンテック(-Tech)」と呼ばれるテクノロジーとその他の分野の掛け算に力が入れられるようになったのですが、今では全米2位のベンチャー投資額を集めるまでになっています。
スタートアップといえばシリコンバレーが有名ですが、シリコンバレーはスタンフォード大学がその中心にあって、そこの学生が大学の周囲にある地価の安い土地で起業する、という自発的な動きから盛り上がっていきました。

一方でニューヨークでの動きは官が主導したものです。テクノロジー企業や大学を誘致したり、分野ごとにイノベーションハブと呼ばれる施設を作って、スタートアップにはオフィススペースを安価で提供し、そこにビジネスを成功させるために必要なインキュベーターやアクセラレーターを集めて、メディアや研究期間・学生と企業をつなげるいわば産官学連携のエコシステムを構築することで、テクノロジーをビジネスに変えていく動きを早めています。
NYC Media Labはそんな動きの中から生まれてきた組織で、我々のような加盟企業の研究したいテーマに合わせて、必要な人材を召集し、チーミングもサポートしてくれるという機能を担っています。我々が取り組むAR/VR分野以外にも、ライフサイエンスやサイバーセキュリティなど様々な分野でプロジェクトが動いています。日本の企業がNYC Media Labへ参加したのは、我々が初めてです。

※加盟企業一覧
※活動を通じた成果の発表、デモ展示の様子

木下:NYC Media Labと同様のことを、日本国内でどうやって進めるかも考えています。その皮切りとして、外部のベンチャープレイヤーと協業し、彼らが持っている技術やサービスを使って、次世代顧客接点が作れないか、検討しているところです。

私はAR/VRのような分野では、ローンチまで秘密裡で進めていくよりも、「新しい情報はプロトタイプの段階で外部に出して、触ってもらって良くしていく」という方が、より良いイノベーションが生まれると考えています。日本ではこれまで、ナショナルクライアントがオープンイノベーションの旗振り役になり、最初に事業計画書を出すところから始める、という流れだったので、どうしても大企業の力学に引っ張られてしまい、道半ばで止まってしまう、ということが良くありました。これを乗り越えたいと考えています。

我々は生活者発想でUXがどうか、顧客接点はどうあるべきか、ということを昔から考えてきました。そのような面を活かして、テックプレイヤーや民間企業と協力し、未来のシナリオを考えていこうと思っています。

目黒:広告会社がこのような領域にチャレンジしているということは、まだまだ知られていませんので、積極的に情報を発信し、様々なベンチャー企業の皆様と協力して、次世代の顧客接点のあり方を考えていきたいと思います。

木下 陽介
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター
開発1グループ グループマネージャー

目黒 慎吾
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター
開発1グループ

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