様々な領域で技術革新が同時多発的に発生し生活者の価値観の多様化がこれまでにないスピードで進む時代の中、企業単独での成長が難しくなりつつある。博報堂で様々な戦略立案を経験した実績から“共創”というコンセプトにいきついた上地浩之は、企業活動に多様なステークホルダーを巻き込み価値創造を推進する、株式会社VoiceVisionを立ち上げた。これからの時代にあるべき“共創”とはどんなものなのか。

大事なのは共創に取り組むことではなく共創体質へと変革すること

──VoiceVisionではどのような共創を提供しているのでしょうか?

上地 VoiceVisionはコアスキルとして“ファシリテーション”を掲げているので、「ワークショップをする会社?」という勘違いを受けることが多いです。もちろん様々な位置づけでワークショップを実施することや、ファシリテーターの研修をさせていただくことも多いです。しかしそれらはいち施策にすぎません。私たちが提供しているのは“プロジェクトファシリテーション”であり、その領域は多岐にわたります。
VoiceVisionを立ち上げた2013年当時は、CRMやファンマーケティングを目的にコミュニティを企画運営する案件や、生活者を巻き込んだ共創型のプロモーション等、企業活動やブランドに対して生活者を巻き込むコミュニケーション領域の仕事が中心でした。
最近では、企業の活動を外部に開くことでいかに新しい領域にチャレンジできるか?という仕事が増えてきたように感じています。いわゆるオープンイノベーションの領域です。
オープンイノベーションというと企業間の提携や協業をイメージされる方が多いかもしれませんが、私たちが提供しているのは企業間にとどまらず、地域、教育機関、生活者、様々な立場の方を巻き込んで新しい可能性を生み出す活動です。
その中でも単に事業創造だけを目的にするのではなく、そのプロセスを通じた人財育成や文化創造といった企業体質の変革までを見据えて取り組むケースが増えてきています。

──最近のVoiceVisionの共創の事例を教えてください。

上地 ある総合エンターテインメント企業のプロジェクトでは、IP(Intellectual Property)を活用した新事業領域の開拓に挑戦しています。それまでの事業開発のプロセスでは、クリエイターがアイデアを考え、そのアイデアをビジネスプロデューサーが事業に広げていくという方法が採られていました。そこに生まれるのは“おもしろい”をカタチにしたいクリエイターと、事業として早期収益化を求めるビジネスプロデューサーの対立です。企業である以上、事業を成功させなくてはなりません。しかし事業としての成功に立脚すると、既存のやり方にとらわれ新しいアイデアにたどり着くことが難しい。これは多くの企業がイノベーションに対して抱えているジレンマだと思います。このプロジェクトでは“クリエイターからビジネスプロデューサーへ”という構造から脱却し、川上の領域から一緒に考える方法を採りました。
“一緒に考える”といっても簡単なことではありません。視点も違えば考え方も立場も違うわけですから。そこでこのプロジェクトではそれぞれの立場にとらわれずフラットに議論できる問いを起点にしました。「アソビとは何か?」というエンターテインメント事業の本質を見つめ直す問いです。クリエイターであれビジネスプロデューサーであれ、どこかのタイミングで「アソビを仕事にしよう!」と思い立ったわけで、一人ひとりの中にはそんな「アソビ」に対する思いがあるはずだと考えたのです。
さらにアソビの可能性を広げる“触媒”としてアーティストに協力していただきました。アーティストはビジネスという枠組みにとらわれずに未来の可能性を世に問う存在です。“アソビって私たち人類にとって何なんだろう”というところからアソビの可能性をプロトタイプし、アーティストが集まるあるフェスティバルへの展示を通じて多くのフィードバックをいただきました。そこから創出した事業開発の方針に対して異業種のパートナーを募り、現在未知の事業領域への理解を深めながら事業化の可能性の議論を進めています。
このプロジェクトでも事業開発は手段であり、一番の目的はイノベーションを生み出す企業体質への変革です。

──今のお話の中で、2つ共創がありました。1つは社内での共創。もう1つは外部との共創。この共創において、何が問題になるんでしょうか?

上地 問題となるのは、同一線上に機会と文化がないということだと思います。機会とは、どうしても効率化という発想になりがちで、過去の成功体験に縛られて、最初から考え直す機会がないということですね。文化とは、常にアソビって何なんだろうっていうのを考え続ける人たちになりましょう、といった風土でしょうか。先の事例では、ビジネスをまったく考えていないアーティストたちの世の中に問いかけるスタンスや視点が、議論をブーストしました。

──会社横断型プロジェクトなどで新しい事業を考えようという場面でテーマを決めるのが難しいですよね。あんまり事業から離れすぎても「それでいくら儲かるんだ」となるし、とはいえお金のことばかり気にしてたら、効率化に吸い寄せられていく…。

上地 大事なのは、自分たちのコアに持っている価値から逃げないことだと思います。そして時代性ですね。今の時代、どんどんテクノロジーが進化して、価値観が多様化していく中で、そのコアに持っている価値の可能性も広がっている。自社の持つ本質価値を見据えて、多様な価値観の中でその可能性を広げてみるという視点で、テーマを設定すべきだと考えています。

──テーマ自体は新しく見つけるというより、既にその会社が持っていると。当たり前すぎて社内ではみんながあまり語らないところ、そこから始めると良いということですね。

上地 そうです。そこに「それっておもしろいよね」と気づきをくれる外部の人を入れていくんです。そこで、誰と一緒にやるのかという目利きは重要だと思っています。僕たちは最初にビジョンとして、企業としてどんな社会を作りたいですかという視点でディスカッションします。自分たちの会社とかブランドがやるべきこと、やりたいことをまず考えましょうと。できることで考えていても、自分たちが今までやってきたことから大きく進化できません。そうじゃなくて、すべきこととかしたいことって考えた時に、初めて自分たちのリソースだけじゃできないなとか、こんな人の力を借りればもっと大きいビジョンにしていくことができるかもしれない、ということが見えてきます。それこそがその企業が共創に取り組む意義なんです。

──まずは自分たちがやるべきこと、やりたいことを明確にすることが大事ということですね。逆にいうと、そのビジョンに合わなければ、共創すべきではないのでしょうか?

上地 場合によるとは思いますが、それこそ社会に大きく影響を与える領域って、明確になっていることが多くて、既にいろんな企業がもう目をつけています。そこを自分たちも例えば「じゃあAIだ」って優秀なAIのスタートアップに投資をしたとしても、結局、他の企業と同じようなものが出てくることが多いんじゃないでしょうか。そうじゃなくて、自分たちのやりたいことという視点を持って、その技術にスポットライトを当てた時にはじめて、未来に向けた自社の可能性が見えてくるはずで、その上で社内で進めるのか?共創するのか?誰と共創するのか?を設計していくべきです。つまり共創に取り組むことよりも、共創しうる企業体質であることが重要なのではないでしょうか?

──『共創しうる企業体質』とはどういうことでしょうか?

上地 まずは大きなビジョンを描けるか?ということです。企業活動の多くの局面において、“できること”を考えてしまいがちだと思います。その方が効率的ですし見通しが立てやすいですから。しかしそれでは既存の提供価値から脱却して新しい価値創造に至ることは難しい。“すべきこと”“したいこと”の視点に立った時に、新価値創造の可能性が広がり、共創という選択肢が生まれるのです。
その先で重要になってくるのが、全てをリソースとして捉えることです。例えば新たな領域での事業開発を考えた時、先行する企業を脅威と感じ競争するのではなく機会と捉え協業の可能性を探ることができれば、より速く事業を立ち上げることができるかもしれませんし、人を市場と考え攻略するのではなくパートナーと捉え関係性を構築することができれば、より強く事業を広げることができるかもしれません。
そういった視点を企業と一人ひとりの社員がしっかりと持っていることが大切です。
VoiceVisionでは「リソース・ポートフォリオ・マネジメント」という手法で共創をサポートしています。それは、多様なステークホルダーを社会におけるリソースと捉え直し企業や社会の抱える課題に対して最適な活動体を設計しその活動を活性化する、というやり方です。社会にとって企業として、どんなビジョンを掲げるべきか?から発想し、そのための最適なパートナーをキュレーションします。“未来の社会を発想するために、社会に対する強い課題意識を持ちそれを世に問うているアーティストを発想の起点としてプロジェクトに巻き込む” “観光まちづくりにおいて、地域外の生活者を来訪者として捉えるのではなく、地域内の資源を見つけ出してくれる触発者として捉え、戦略策定からジョインしてもらう” “社員を働き手としてではなく、未来の経営者として捉え、全社員と共に企業の方針を策定する”等そのカタチは様々です。

高度に共創を行う社会のその先でVoiceVisionが担うもの

──共創の先に生まれる社会には何が待っているとお考えですか?

上地 僕たちがVoiceVisionを立ち上げた時は、まだそこまで共創という考え方は広がっていなくて、当時は共創の取り組みを増やしていくことが自分たちの使命だと感じていたのですが、今や共創は普通なことになりつつあります。これからはどうやって共創の質を高めていくかが大事になるはずです。そのためには関わる人がどれだけ強いモチベーションを持って関わるのか?そもそもどれだけの人が関わりたいと感じるのか?企業の吸引力が問われるのではないでしょうか。
人が所属して働く箱としての企業から、人が応援したり、共感して一緒に動けるような、旗印としての企業に変わっていくということがすごく大事になってくるのではないかと。

──なるほど。そういう意味では、企業がもっとチームっぽくなるというか、プロジェクトっぽくなっていくかもしれないですね。

上地 最近の「ブランドパーパス」という考え方も、まさにそういうことを示唆しているのではないかという気がしています。旗印がちゃんと魅力的であれば、どれだけ人が流動的になったとしても、そこにジョインするっていう人は多分なくならないでしょう。それは所属するっていう形もあると思いますし、それ以外にもいろいろなカタチで協力することができるようになってきているわけですから。企業を箱として捉えていては、そういった協力を受けることが難しくなってきていると思うのです。企業がしっかりと旗印を立てて、そこにみんなが自由に協力できるような、そういう社会がやってくるのではないでしょうか?
その時にそれを推進することができる存在でありたいと思っています。