政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

少し前の話になりますが、箱根駅伝に
ついて語ります。

誰もが勝つと信じていた青山学院大学を
抑えて東海大学が初優勝とした今年の駅伝。
「変化の亥年」を印象づける1年の始まり
となりました。

学生スポーツですから、選手は入れ替わります。
「常勝」なんて言葉があてはまらない世界の
中で、それでも常に強いチームがある。
その理由のひとつを私は学生に送る監督の
掛け声に見出しました。

自分が大学生になる以前から駅伝ファン
だった私からすると以前はもっと「襷」が
強調されていたように思います。

諸先輩たちの汗と努力が染み込んだ襷。
伝統の重さと精神的な重圧に耐えてきた襷。
仲間から仲間へとチームの紐帯となる襷。

監督もアナウンサーも、今よりもずっと
「襷」による連帯感を強調していたように
思います。

だから、選手を並走する監督が発する
言葉も、

「伝統の襷をお前で絶やすな!」
「ひとつでも順位をあげて襷をつなげ!」

と言ったちょっと浪花節的なものが
多かった。チームの連帯感、大学のコミュニティが
選手のモチベーションをあげる大きな役割を
果たしていました。

しかし、青山学院が優勝したあたりから
でしょうか。
監督の学生に関する激励も少しずつ変化
してきました。

テレビを通してわずかに聞こえる監督の声を
聞いているだけなので、全体的な傾向なのかは
わかりません。

東海大学、青山学院大学、東洋大学の
コーチの声を聞くと、

「いいぞ、いいぞ、いいぞ!」

がやけに聞こえる。

さらには、

「自己ベストを狙えるぞ!」
「区間新記録になるぞ!」

と駅伝までに出してきた数値を超える
走りをしていることを選手に伝える
ケースが増えたように思うのです。

「襷」を通して、連帯感やチームの中の
個人の責任で学生を叱咤激励することはしません。
それよりも「昨日の自分の成績」を今日の自分が
どれだけ超えることができるか。
連隊で走ってはいますが、激励はあくまで学生
一人のデータに基づくもの。
連帯責任でお尻に火をつけるのではなく、
「自分の力で、昨日の自分」を超えていくことに
昨今の激励は口調を変えてきた。
そんなことを感じながら今年の駅伝を見て
いました。

これはきっと経営にも言えるでしょう。

日本の企業の強みが「チーム力」であることに
変わりはありません。

しかし、チームを強調するばかりに、
個が、チームの責任を一人で被ったり、
重圧を感じたりするようではむしろ逆効果です。

ゆるやかな連携は保ちつつも、
個々が、いかに「昨日の自分」に打ち勝って
いくのか。それを考える人の多い企業、
それにアドバイスできる人材が揃っている
企業こそが、速く、高く、そして強い企業
になれるのではないか。

一人ひとりがもっともっと粒立って、
昨日よりも強い自分になっていく。
こうした運動を促す風土をつくっていきたい
ものです。

破れた青学も、3位にとどまった東洋大も、
個々を伸ばす風土は十二分に兼ね備えています。
来年正月の東海大との決戦が今から楽しみです。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ