THE CENTRAL DOT

日本トコトコッ/#23 こめのくに(後編)

2019.02.14
#地域創生

ニューヨーク滞在も残り少なくなったある朝
晴れている
地球中、何処にいってもほぼそう
本当に有難い

<写真1|朝ホテルより>

実感が湧かないんだよな。クルマ移動はなんかもやもやする
「そうだ、徒歩しよう」
モビリティの坩堝にいながら、
歩くという、移動の原点へ
未知と無知はひとを強くするもの
そして今日は、珍しくどうしても訪れたいところがある

<写真2|こめのくに国旗> 

ニューヨークは島だ
地図をみながら、今更気がついた
じゃあ端っこまで行ってみよう
こういう時はなんとなく北からだなっ
碁盤の目は、方向音痴なわたしを相当力強くサポートしてくれる

駅ナカで超小型モビリティ、道端で前輪カゴつき自転車。
やけに長いシェアサイクルステーションは、みんな出払っている。
ポケットなパトカーに、電気バス。そして、まちを彩るイエローキャブ。
まちのそこここに立つひとびと、ススっと運び去る配車サービス。

<写真3−1~7|まちなか> 

う〜む不思議だ、この馴染み方
ものは単品ではなく、環境まるごとで成り立つんだ
日本だと何かぎこちないモビリティサービスなのに、
使い勝手も、風景でも、うまく結合して成り立っている
海外は、昔っからなんかかっこ良いな

黄金のまち(金沢)生まれだからか、
あの黄金に輝くタワービルに吸い寄せられ、屋外広告看板を堪能し、
中央公園、もとい、セントラルパークでひとやすみし、
なんだかんだで辿りついたそこは200丁目、ほぼ北の端
自分の知ってるアメリカ感とは一線を画したステキな美術館と公園が、そして日本の下町のような住民のざわめきが、そこにはあった

<写真4−1~5|まちなか> 

あっ、気づけばお昼過ぎ。
こんなペースじゃ行きたかったところに辿りついけない
慌てて南下、飛び乗る地下鉄
ゆったり座って、車内観察
多様な様相・肌の色・ファッション・・ごちゃまぜのなか、
整然と乗り降りするひとびと
危なげさが、全くなくなっている地下鉄

珍しく、ひとの噂は本当だったな
などと思いつつ、ここら辺かな?と、地下鉄を後にする

さあ
今回の初上陸に合わせ、是非行ってみようと思っていたところへ、足を運ぼう。

<写真5−1~2|ハイライン・入口>

薄暗い先の少し頼りなさげな階段をあがると、
ふわーっと、左に景色がひろがった
右手に高層ビルをまといながら続く歩道を小走りに進むと、
今度は右手もスカッと視界が広がり、まるでアトラクションの入口のよう

<写真6−1~2|ハイライン・スタート>

まさしく高線、ハイラインだ。
廃線跡地の高架橋上を公園に転用したこのハイラインは、2009年頃から順次オープンしてきた超縦長の高台公園。現在年間500万人近くのひとびとが訪れる、歩いて座って楽しむ、まちのリノベーション施設、以前はどちらかというとまちの裏・影のエリアだったことは微塵も感じられない。

緩やかに右に弧を描き、前へ先へと伸びている。
整然と敷き詰められた石畳に目を奪われながら、
手すりの質感と色合いに関心していると、急に緑に囲まれていた
ほどよく腰高の緑が連なり、今度は道の一部に芝生が・・・
緑が小気味よく変化していく

<写真7−1~3|ハイライン・緑>

すっきり感が心地よいな、こういう合理性なんだよな、こめのくには
なんて変に納得しつつ進んでいくと、今度は広めの緑地帯、ポケットパーク?
今度はあまり手を入れていない自然体な雰囲気
傍にベンチ
休みませんか?と誘う空間があり
ねっいいでしょココっと手招きする木陰があり
ほらみてみて、と誇らしげな会場席がある
ピアニシモからメゾピアノ、フォルテ・フォルテシモへ
人工工作物が声をかけてくるアナログなIoT*1
「歩」を自然と導く、粋で繊細な計らいに良きジャパン的感性が伝わってきた

<写真8−1~4|ハイライン・座る>

思わず腰を下ろして、手を伸ばし、足を大の字にして、ぐるりと見渡してみる

来た道・行く道・広がる風景
朝方たち寄った広大な自然感に身を任せるセントラルパークとはかなり違う
出過ぎず、控えすぎず
足しすぎず、引きすぎず
人工と自然、それぞれと対話するきっかけを意図して設計しているのを
かなり心地よく感じることができる高台公園、ハイライン。
さりげない繊細な超高質こそが、この全体空間を素晴らしきコトにしている
これぞ、ひとの叡智なんだ

横丁の商店街のような建物下の路地を抜けると、その先には水面が・・
水遊びをするこどもたち、おとなたちも混じっている、さすがアメリカンな感じだ
程よく進むと、おやすみスペースへ。憩いのマックスへ

「いや〜っ、スゴイ・素晴らしい」
思わず大きな声が出てしまった。もう、お手上げです
そしてその先右手に視界がぱっと開けて、ハドソン川が煌めいている
ステキな時間を過ごすふたり

<写真9−1~6|ハイライン>

ゆっくり眺めてたら、すっかり日も傾いてきていた
もっと歩いてみたい、佇んでいたい
おおらかな気持ちに、おおらかな街区が広がりはじめた
広いデッキ・こんもりとした植栽・幅広なビルトンネル

<写真10−1|ハイライン>

晴れ晴れとした気持ちでますます歩幅を広げていくと、
急に終点にたどり着いた・・

<写真11−1~2|ハイライン・終点>

えっ
あっけないおわり方に呆気にとられながら、全長2,300米の空中庭園が終了。
どこまで歩けるかな〜と思いつつ、からだと気持ちを預けてみたら、
どこまでも歩いている自分がそこにあった

路面が、手すりが、勾配が、
木々が、草花が、建物が、
ひとが、光が、匂いが、
自分を取り巻く景色と歩き心地が、
少しずつ軽快に
変わる、変わる、変わる

まるで本日オープンしたかのように、
どのエリアもなんだか新鮮味で溢れている、活き活きとしている
そこを通る多くのひとびとの、気配と心持ちを確かに受けとめながら。

そう草木は生きている、日々変化する
ひとも生きている、日々変化する
それが自然だ

オープン当初、ひとは集まる・メディアが伝える。
いつの間にか、情報社会から忘れ去られる。
出来た時が一番輝いていて、あとはだんだん朽ちていく。
そういうものをたくさんみてきた。
けれど、ここにあるキラリと光る手すり、路面、フェンス、ビル壁といった人工工作物たちは、自然と溶け合い、混じり合い、活きている、語りかけてくる。

<写真12|ハイライン・見上げる>

ひとは五感で生きている、ひとそれぞれの五感がある
ちゃんとわかって創っている、ちゃんと大切に育んでいる

な〜んだ、やっぱり。
やれば出来るんだっ笑

今日歩いてよかったな
ここに移動の神さまがいた

AIとかMaaS*2と世の中やけに騒がしいけれど、
歩くことの価値を再構築しようと思う
富山に教わった、歩いて暮らせるまちづくり

認知と情動は、別回路。
理詰めの先にひとのこころを動かすものは、できにくいんだ

どうして、こめのくには、こんなにも素晴らしいものを創り育てていけるんだろう

自然は億年単位、
ひとは100年単位、
まちは1000年単位で構想しよう、活かしていこう
藻谷さんからもらった言葉が息づいていく

<写真13|ニューヨーク・マンハッタン島全景>

くらし総体に向き合った瞬間、
じぶんは相当の片端であることを思い知らされ、
つかいものにならないことがよくわかり
夜討ち朝駆けで歩き回り、走り続け、転がりつづけてきて
気がつけば、ニューヨークに、なぜかいる

おっさんになってから、ここに初上陸してよかったな
無用な憧れ・期待感だけを背負って、このまちにこなくてよかった

ニューヨーク・マンハッタン
ここは島、大きな島
水という自然のハザードという地の利が、域内のひとびとの営みを見守ってきたようだ

日本も島
なんだ、同じだ
できるってことだ
あ〜よかった、よかった

<写真14|日本のある島に佇む建物と自然>

帰国して少し経ったある日、こめのくにの同級生から「心を入れ替えて働いているから、お互いこんなカタチで元気に会えているんだよな」なんていうメッセージが届いた。その時、わたしは日本のとある島で、先人の素晴らしき営みの足跡を前にして、目を潤ませ佇んでいた。

地域連載エッセイ「日本トコトコッ」は、地域連載対談「日本タイダン。」との豪華2本立てで進めていくことになりました
引き続きご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。

次回は、おわりのはじまり です。

にっぽんトコトコッ
トコトコカウンター* ただいま268トコトコッ

*トコトコカウンター:2016年4月より訪れた場所ののべ数

米国ニューヨーク
https://www1.nyc.gov/
ハイライン
https://www.thehighline.org/

IoT*1 Internet of Things 物のインターネット化。様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み
IoTのコンセプトは、自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出すというものである

MaaS*2 ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイ. カー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ. 新たな「移動」の概念である。

深谷 信介(ふかやしんすけ)
株式会社 博報堂
博報堂ブランドデザイン副代表、スマートx都市デザイン研究所所長、地域事業統括局兼務
富山市政策参与、総務省地域人材ネット地域力創造アドバイザー、千葉県地方創生総合戦略推進会議委員、神奈川県茅ヶ崎市景観まちづくり審議会委員、島根県雲南市地方創生アドバイザー 他
名古屋大学未来社会創造機構客員准教授、茨城大学社会連携センター顧問 他

メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシーなどを経て、博報堂入社。
事業戦略/新商品開発/コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やプラットフォーム型ビジネス開発に携わり、都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究/実践を行っている。

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