(株)三条特殊鋳工所の工場に隣接してオープンしたUNILLOY SHOPにて。左から、2代目の内山照嘉社長とブラたま編集長の岡田庄生

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第42回に登場するのは、“世界一軽い、鋳物ホーロー鍋”の「UNILLOY」(ユニロイ)。新潟県燕三条にある株式会社三条特殊鋳工所(サントク)のホーロー鍋ブランドです。もともとは下請け工場として精密機械の部品などを製造しているサントクが、なぜ自社ブランドとしてUNILLOYをつくることになったのか。2代目の内山照嘉社長に、これまでの苦労やブランドづくりに至るまでの変革を伺いました。聞き手は博報堂ブランド・イノベーション、ブラたま編集長の岡田庄生です。

燕三条で磨き上げられた技術が生む、世界一軽い“鋳物のホーロー鍋”。

江戸時代から鍛冶職人の技術が培われてきたという新潟県燕三条。そのモノづくりの町で1961年に創業し、今年で57年目を迎えた株式会社三条特殊鋳工所(以下、サントク)は下請け工場として鋳物づくりをつづけてきました。そんなサントクが自社ブランドとして展開する鋳物(いもの)ホーロー鍋の「UNILLOY」は2014年に販売開始。厚さ2mmを実現し、通常は3~4kg程度の重さとなるホーロー鍋にも関わらず、約2.2kgの軽さと使いやすさを探求したデザインと機能性が好評を得ています。2015年には世界的なプロダクトデザインの賞「レッドドット」の最高賞の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞しています。

7割が不良品のフライパンから、“薄い鋳物鍋”にたどり着くまで。

岡田:本日はよろしくお願いいたします。まず、サントクさんはもともとは機械向けの部品をつくることがメインの仕事だったとお聞きしました。そこから、全く業種の違う「鍋」の自社ブランドを立ち上げることとなったのはどんな経緯だったのでしょうか。

内山:燕三条には自社製品を持つ会社がたくさんあり、父が社長のころから自社商品を出したいねと言い続けていました。今でも下請けとして部品も作っていますが、リーマンショックで仕事が減ったとき、NICO(にいがた産業創造機構)にデザイナーを紹介してもらって、自社製品として鋳物薪ストーブをつくってみたのです。その薪ストーブが新潟県のデザインコンペで大賞を頂きました。

岡田:初めての自社製品で大賞とはすごいですね。

内山:はい、結局商品化はしなかったのですが、それをきっかけに、あるメーカーさんから鋳物のフライパンの注文がきました。経験が全くなかったのですが試しに作ってみたところ、なんと最初は100個中、70個が不良品でした。

岡田:7割も不良品だったのですか…。

内山:はい。がっくりきたのですが、「成功した30個を分析して、成功の条件を見つければできるんじゃないか」と考え直し、何度も試行錯誤を続けました。2013年ごろから鋳物の鍋もつくり始めましたが、技術もまだまだで採算がとれず毎月大赤字で…。そんなある日、鋳物の薄い鍋にホーローを塗るのはどうか?と、外部の方に言われたのが「UNILLOY」のはじまりです。

岡田:UNILLOYの販売に至るまで色々なことがあったのですね。鍋といっても、中華鍋などいろんな選択肢があるなかで、なぜホーロー鍋だったのでしょう?

内山:当時はホーロー鍋が流行しはじめていて、市場が大きくなりそうだったことと、おしゃれで女性にも好まれますし付加価値が高いことですね。鉄の鋳物は、熱効率が良いのですが、錆びてしまう。でもホーローなら錆びずに保存がききますし、鍋を購入してくれるファミリー層は毎年増えるので、市場が絶えることはないと思いました。

岡田:ネーミングやデザインなどはどのように決定したのでしょうか?

内山:ネーミングは、私が考えました。“ユニークなアロイ(合金)”という意味で「UNILLOY」としました。鍋やロゴのデザインは、プロダクトデザイナーの山田耕民さんにお願いしました。取っ手が下がっているから、蓋があいているものを持ち歩いても熱くないようになっていて、さすがのデザインだと思いました。見れば見るほど飽きないデザインで、気に入っています(笑)。

キッチン用品に必要なのは見てくれのレベルをあげること

岡田:従来のような精密機器の部品をつくる仕事と、キッチン用品をつくる仕事は全然違うと思いますが、どこが一番の違いですか?

内山:機械部品で一番大切なのは、中身。材質や強さ、硬さなどですね。見てくれは悪くても使えることのほうが大切です。でも、キッチン用品は逆ですね。視覚に訴えるほうが断然重要で、そこをきれいにすることが機械部品とは違う。これまでの工場では必要のなかった機械が必要になってきたり、人海戦術もしていますね。

岡田:見てくれのレベルをあげるのはどういうことなのでしょうか?

内山:ホーローはピンホールが出たりするので、すべて目視でチェックしています。ずっと改善をつづけてきて、やっと去年、不良品が全体の5%を切ったんです。それまでにいろんな機械を試したり、ホーローを塗る工場への配送もいろんな方法を試しましたが、ホーローは目に見えないミクロレベルで酸化してしまうとだめなんですよ。いろんなテストをしていくうちに、ようやく原因を突き止めました。

岡田:実験して検証して、もう一度実験しての繰り返しだったのですね。

内山:そうですね、ホーローに関しては300~400回ぐらい実験したと思います。いまだにやっていますからね(笑)。一番初めのものから見た目は変わっていませんが、作り方はだいぶ変化しました。UNILLOYには環境に配慮して、不要になった鍋を回収する着払いの送り状をつけているのですが、先日、初代のころのものが戻ってきたんですよ。

岡田:そうなんですか。それは懐かしいですよね。

内山:懐かしいですし、ありがたかったですよ。その方はすごく気に入ってくださっていて、2代目、3代目を購入したので初代をお返ししますと。初代の時代は大変で…100個中、10個できればいいほうでした。工場も拡大させて新しい設備を入れて数億円も投資したので、やめられなかったのですが、フライパンと同じでたった10個でもできるなら何か成功の条件があるはずだと。ホーローが原因じゃないかと、ホーロー工場と喧嘩もしましたけど(笑)、やっぱり鋳物に問題があるんだろうなと。

岡田:難しい原因は、その薄さにあるんですか? 400回ぐらい工程が変わったなかで、ここだけは譲れないということはあったのでしょうか。

内山:薄さもそうだけど、材質かな。薄いので弱い材質だとすぐ割れてしまいます。うちは強靭鋳鉄(きょうじんちゅうてつ)という強い材質を使っていて、それは譲れませんでした。弱い材質のほうがピンホールもできにくく、ホーロー不良につながらないのですが、強靭鋳鉄を使うと、仕上がりは軽くて丈夫なのですが、工程でピンホールができやすく、そこから錆びてしまいます。

岡田:それでも、薄くて強い材質というのは譲れなかったんですね。これまで機械部品をつくってきたことで、御社独自の薄さや軽さの技術はあったのでしょうか。

内山:薄いものは知らず知らずのうちに他社よりは慣れていたと思います。とはいえ、従来の部品と同じようにフライパンも鍋もすぐできると思っていたのですが、全く逆でした。鋳物の基本に忠実に、原理原則通りにしても不良がでてくるので、試行錯誤でしたね。

誠実に、丁寧に。その応えがファンづくりにつながる

岡田:UNILLOYブランドの設定についてもお聞きしたいのですが、雰囲気づくりなどでこだわった部分はありますか?

内山:高級品ブランドとして、例えばメインカラーを黒・白と決めて、販売スタッフの服装もモノトーンに揃えたりしました。また、問い合わせやクレームがあっても、スタッフの言葉づかいは誠実に対応するようにしたり。企業向けの機械部品しか作ってこなかったので、一般の方に対応する機会がありませんでした。地元のデパートで働いていたスタッフに対応を学びながら、かなり気をつけていますね。

2014年にグッドデザイン賞、2015年にはred dot awardのベスト・オブ・ベストを受賞。4サイズ展開、カラーは全5色。写真は左から、22cm鍋の「くちなし」「くろがね」「さくら」

岡田:そういった意識は急には変えられないものだと思いますが、どのように変化していったのでしょうか。

内山:このブランドを立ち上げる際に、ブランディングやマーケティング、プロモーションなどは、外部のパートナーに依頼しており、「チームUNILLOY」というプロモーションチームがありました。はじめはそのパートナーの方に指導されて、意識が変わっていきましたね。機械部品だったら相手もプロなので通じますけど、一般の方はからお問い合わせいただく内容も多岐にわたります。例えば、IHの汚れ防止マットと一緒に使ったら、鍋の色がマットについてしまったというクレームがあって、製造工程を丁寧に説明したんです。お優しい方だったので最終的には「頑張ったね」と、そのままお使いいただけるようになりました。

岡田:予想外のことを言われるご経験がたくさんあったんですね。

内山:そうですね。それで、丁寧に誠実に応えることで、ファンになっていただけると学びました。すぐに「しょうがないんですよ、交換しましょうか?」と言ってはだめなんですよね。先代のころから、誠実に対応することが会社の信念でした。外注先に対しても誠実にやってきたので、そこは継承しています。BtoCでも強い責任感が必要です。高い金額をいただいて使ってくださるのに、責任を持ったものづくりではないと申し訳ないですよね。

岡田:BtoCをやるようになってから、BtoBでは感じなかった喜びはありますか?

内山:それはもうたくさんありますね。先ほどの初代の鍋を返却してくださった方からは、手紙が入っていて。「本当に素敵な鍋をありがとうございました」と書かれていました。機械部品ではそんなこと言っていただけないので、そういうお声はうれしいですね。鍋は家庭の中心で、だからこそそのまま食卓に出される鍋は愛されるものがいいですよね。アルミやステンレスの鍋より、ホーロー鍋ならハッピーな感じがします。UNILLOYのコンセプトは、家庭にハッピーを提供したい、ということです。

岡田:たしかに、鍋を囲む家庭は幸せそうな気がしますね。そのコンセプトに至るきっかけはどんなことだったのでしょうか?

内山:うちでも毎日鍋を使っていて、私自身も色んな鍋料理を楽しんでいます。社員たちでも鍋をつかって料理をつくるようになって、会社の雰囲気が変わったんですよね。しばらく大赤字で迷惑かけていたので、社員にものすごく冷たい目でみられていましたが(笑)、いまでは、社員もみんな鍋をつかってくれて、だんだんとそういう雰囲気もなくなってきました。幸せを売ろうとしているのに、つくっている現場が幸せじゃないとだめですからね。

いろんな声が聞こえてくるなか、変化していった「ブランド」への意識

内山:ただし、2~3年前から鍋が売れない時代に入ってきています。当初は比較的裕福な富裕層向けにデパートで販売していたのですが苦戦しはじめています。今はネット販売もはじめて、30代の比較的若いお客様にも買っていただいています。
また、「チームUNILLOY」に頼りきりだったブランディングやマーケティングも、開発メンバーを増員したり、販売もWEBも自社の社員で行うようになりました。デザインやマスコミ取材の対応ができる人材が自社でも育ってきたので、もっとWEBに力を入れたいし、店舗をどう周知させるかを考えていますね。近所に工場見学ツアーがきたりするので、「我々も近いですよ」とコースに入れてもらったりしています。

岡田:主体的になったことで、内山さんご自身にどのような変化がありましたか?

内山:実は、はじめはUNILLOYが「ブランド」である、という意識はあまりなかったんです。パートナーから色々な提案を受けても、「ブランディングってお金かかるんだね」という感覚でした。今年に入ってからUNILLOYの組織を充実させることにして、私がブランドマネージャーとしてすべて決めて、パートナーが必要なくなるぐらいにやろうと考えを変えました。いまはブランドマネージャーとしてぐんぐん成長していますよ(笑)。
一番の変化は、私自身がブランドのコンセプトを語れないと、直接お客さんに商品説明もできないので、お客さんの気持ちに近づいて語れるようにならないとだめだと思うようになったことですね。たくさん売れてきていろんなお客様の声が聞こえてくることで、意識が変わりました。「ブランド」とは何か、言葉では聞こえるけど何なのかはわかっていませんでした。

岡田:今となってみると、「ブランド」ってこういうものと言えるものはありますか。

内山:人に与える「イメージ」だと思っています。「UNILLOY」も「サントク」という言葉もブランドだなと。サントクの部品は品質がいいとか、サントクは誠実であるとか、会社自体もブランドです。なので、部品もブランドを意識してやってみようかなと思いますし、UNILLOYはモノのブランドとして、人に受け入れられやすいイメージを崩さないようにしたいです。商品もそうですし、お客様への対応もすべてイメージにつながるので。

岡田: お客さんへの対応はBtoBの会社がBtoCに挑戦するとき、一番戸惑うポイントのような気もします。例えば、BtoCをはじめようと思ってる方にアドバイスするとしたらどんなことですか?

内山:まずは「お客様を考えること」ですね。BtoBは受注なので、頼まれたことをやれば売れますが、BtoCはお客様のことをどう思うか、どう言うかを考えないと売れるものはつくれないと思います。だから、とても大変です。とはいえ、BtoBの仕事で、特定の得意先に依存したことで、会社がつぶれそうな危機も経験してきました。だから、BtoCで新規開拓をするようになったんです。

岡田:BtoB時代の「お客様」と、BtoC時代の「お客様」は、やはり違うのでしょうか。

内山:BtoBでは、固定のお客さんですし、お客さんを受け身で待つことが多いと思います。でもBtoCでは待っているわけにはいかないから、自分たちでどうにかしないと良くならない。例えば、UNILLOYのサイトも、ものづくり色が強くて、スペックのことばかりなので、もっと使うシーンをだしたほうがいいと女性社員にいわれています。まだまだ周知もたりないので、SNSにも力を入れて色々試していきたいですね。

岡田:これからが本当の勝負のときなんですね。これからの展開も非常にたのしみです。今日はとても参考になるお話をありがとうございました!

■ご参考■
UNILLOY
https://www.unilloy.com/

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「志」の視点で、「UNILLOY」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【志】BtoB企業の胆力は、ブランドの強みになる
この記事を取材したのは、まだ夏の暑い時期でした。熱した鉄を扱う工場を見学させていただいた私たちは、インタビュー前にすでに汗だく。そんな私たちに、内山社長は新潟名物ご当地アイス「もも太郎」をくれました。イチゴ味の真っ赤なかき氷アイスバー。「これでも食べて、まずは体を冷やしてから、話をしましょう」という内山さんの優しい言葉に、サントク(三条特殊鋳工所)が先代から培ってきた「誠実さ」の一端を感じました。
そんなサントクが生み出した新ブランド「UNILLOY」には、3つの力強さがあります。1つ目は、原理原則を大事にすること。2つ目は、検証と改善を続けていること。3つ目は自分たちでやるという意識を強く持っていること。一つ一つに派手さはありません。海外の最新のブランディング理論というわけでもありません。むしろ、「商売の基本」ともよべるこれらの3つの動作を、地道に、粘り強く、あきらめずに追求し続ける強さが、このブランドにはあります。
日々、かっこよくておしゃれなスタートアップ・ブランドが生まれるこの世の中で、自分たちがブランドを作るなんて難しいんじゃないか。BtoB企業が新しいブランドを立ち上げる時、ついそのような弱気な気持ちになってしまうのではないでしょうか。しかし、BtoB企業には、胆力があります。原理原則に則って、より良いものを、自分たちの手で作り続けることは、それだけで才能であり、強みです。それは、表面的なかっこよさには表れないかもしれない。しかし、50年、100年の時代を経て残るブランドとは、そうした胆力があるブランドだけだと、私は思っています。

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