連載コラム第5回は、前回に続き、徳島県神山町「創生戦略」から生まれたもうひとつのプロジェクト、将来の世代を育む地域のコミュニティ拠点としての住まいづくり「大埜地(おのじ)の集合住宅プロジェクト」について、神山つなぐ公社の赤尾苑香さん、森山円香さんとお話します。人口減少社会における新たな生活文化と経済(エコノミー)の創出を構想する「生活圏2050プロジェクト」。プロジェクトリーダーを務める博報堂クリエイティブ・プロデューサーの鷲尾和彦が、既に今各地で始まっている新しい生活圏づくりの取り組みを伝えます。

「大埜地の集合住宅」完成予想図 (資料提供:神山つなぐ公社)

徳島県・神山町は人口約5,300人の山あいの町。人口減少と高齢化という課題に向き合う中、2015年に「創生戦略」が策定され、「人が可能性を感じられる状況をつくりだしていく」ことが戦略として掲げられました。その実現のために生まれた事業のひとつが「大埜地(おのじ)の集合住宅プロジェクト」。地域のコミュニティ拠点として育っていく「住まい」づくりの新たな可能性に挑む取り組みを通して、これからの生活圏を豊かにする「暮らし方」について考えます。

「人がいる。いい住まいがある。関係が豊かで開かれている。」

鷲尾:
神山町では、「人が可能性を感じられる状況をつくりだしていく」ことが、町の創生戦略そのものになっています。この神山町の創生戦略から生まれた「フードハブプロジェクト」については前回(連載第4回:「社会的農業」がまちを将来につなぐ)で詳しくお話をお伺いしてきました。もうひとつどうしてもお伺いしたい神山町のプロジェクトがあって、それがこの「大埜地(おのじ)の集合住宅プロジェクト」です。神山町に限らず、今後人口が減少していく時代に、どのようにして「住まう」のかを考えていくことは、極めて重要なテーマだと思っています。生きる糧を得るための「仕事」や「雇用」が重要なのはもちろんですが、何よりその土地に住んで暮らしていこうという人がいなければ、そもそも産業も文化も育んでいくことはできません。これまでも「公営住宅」など、神山町ですすめてこられた住宅政策もあったと思います。この「大埜地の集合住宅プロジェクト」はどのようなことが町にとっての新しいチャレンジなのでしょうか。

赤尾:
「大埜地の集合住宅」は、「子育て世代」を中心とした町の住宅支援の取り組みです。この集合住宅で目指したいことは、子育て世代が常に循環しながら、安定した子育て環境をつくり、生活をしていけるという状況をつくり出していこうということにあります。
これまでも「町営住宅」はつくられてきましたが、所得等の理由のために適切な住まいを得ることに困難が生じている方を地方自治体として支援するというものでした。いわゆる公営住宅法という制度の上で運営されていたものです。今回の「大埜地の集合住宅」は、こうした公営住宅法の対象とは異なるもので、これまでの町営住宅とは違うやり方に町として挑戦してみようとしたことが大きな意義だと感じています。

森山:
もともと今集合住宅がつくられているエリアには、古い寄宿舎があったところで、当初はそれを解体して若者定住住宅をつくるという計画がありました。

第1期の工事が完成した「大埜地の集合住宅」の様子 (写真提供:神山つなぐ公社)

鷲尾:
それが「子育て世代」を中心とする集合住宅の計画に変わったのは、どんな理由があったのでしょう。

赤尾:
神山町に移住したいっていう子育て家族の方々がいらっしゃっても、なかなかそれに相応しい物件がないということも大きな要因なのですが、一方で、昔と比べると子どもの数も随分少なくなって、神山町の広い町域の中で、子ども達は学校には集まるけれども、スクールバスで通っていたりして、家に帰ると一人で過ごしたり、兄弟で過ごすしかない、近所に遊び合える子たちがいなかったり、親たちもそれを助け合える環境にないという課題があったんですね。
特に移り住んできた人たちは、おじいちゃんおばあちゃんに手伝ってもらえるわけではないので、自分たちだけでなんとかしていくしかない。他にも図書館やコミュニティスペースのような子ども連れの親が気軽に利用できる施設がないという課題もありました。
町の将来を考えたときに、やはり次の世代を育んでいくような状況をつくりたい。それも個別に住むだけじゃなくて、コミュニティとして互いに新しい交流が生まれるような状況をつくっていくことが必要だと話しあってきました。
最終的には、この集合住宅は全20戸になる予定ですが、子育て家族のための住宅を中心に、単身者の共同生活用ユニットやバリアフリー仕様の住戸も加わる予定です。住戸の隣に建てられる、「鮎喰川コモン」というまちの人も使える共有施設や緑地を訪れる人も含めて多様な世代が混じり合って暮らしたり交流していくことが大切だと思っています。

鷲尾:
「住居をつくる」のではなく、新しい関係が常に生まれていくような状況をこの町の中につくりだすことが目的なんですね。そこは、やはり町の創生戦略につながっていく。あの「人が可能性を感じる状況をつくる」という戦略です。この町に今必要な「住宅」とはどのようなカタチなんだろうか。それをこれまでのやり方にこだわらずに考えてみる。それは、将来においてこの町の望む風景を、その可能性を描いていることで考えられる発想なんでしょうね。

赤尾:
そうですね。現実にその状況をつくり出していくには、日々いろんな課題があることは確かですが。まずは目指している姿ははっきりしていますね。

設計ミーティングの様子 (写真提供・撮影:生津勝隆)

鷲尾:
大都市圏に暮らす人からすると、神山町に限らず、地方の町には少なからずコミュニティがまだまだ機能しているんじゃないか、というイメージが、憧れも含めてあるように思うんです。でもこの町でも、どのようにして自覚的にコミュニティの力を活性化させていけるかということを様々な町の事業の中で意識的に目指されている。生活圏の抱える課題というのはきっと今は大都市でも、地方の町でも根底では共有している、同じ時代の中にいるんだということを改めて感じています。個々人の欲求に応えることで超個人的な生活ができてしまう状況をこの数十年で創ってきてしまったけど、これからの「可能性」はそこから生まれるのだろうか、という問いかけも。

人の循環が、町の可能性を高める

(神山町「創生戦略」資料より)

鷲尾:
今、第1期の入居者が暮らし始められたそうですね。

赤尾:
はい、この夏からですね。「家族夫婦用ユニット」の入居者を、「高校生以下の子どもと同居している世帯」か、もしくは「年上の方が50歳未満のご夫婦」という条件で公募しました。

鷲尾:
こんな人たちに、この場所で暮らしてもらいたい。そんな入居者像も明確にされているわけですね。

赤尾:
これまでに都心部などで開発されてきた集合住宅を見てみると、似たような世代の、似たような家族構成の世帯が入居することで、結果的に時間が経つと、その人たちが同じように年をとって一斉に高齢化していくとか、世代交代や住み替えが上手に行かないといった課題が生まれてしまっているケースが多かったように思います。ニュータウンが総じて「オールドタウン」になるというような。

みんなで暮らしや住まいについて学ぶ「鮎喰川すまい塾」の様子 (撮影:生津勝隆)

鷲尾:
それは、そういうターゲットを絞ったマーケティングをしてきた結果ですよね。多様な世帯が混じり合って暮らしていくというように、時間軸を含めて計画されてきた集合住宅は少なかった。

赤尾:
そうですね。だからこの集合住宅プロジェクトでは、もっと柔軟に絶えず子育て世代が入れ替わっていきながら、居住環境としての新陳代謝が常に活性化している状態を目指しています。時間的な流れも考慮した上で、常に新しい水が入れかわっていくように、人が循環していくような設計ができないだろうかと。ただ移住者の数が増えればいいということではなくて。その代わりに、入居後のことも私たちも一緒に考えていくことが必要になるのですが。

地元の大工さんを中心に「まちのつくり手」でつくる。 (写真:神山つなぐ公社)

鷲尾:
日本の住宅って「持ち家」信仰で、しかも何故か「30年」の寿命とかっていうのが、まるで定説のように言われてきたわけですが、もっとライフステージに合わせて、移動や移り変わりがしやすいような、そんな生活者の人生の「トランジット(移り変わり)」を前提とした住まい方の可能性ってあるはずですよね。そのためには制度面での見直しも必要になってくるとは思いますが。しかし、そうして人が循環していくことって、社会全体が循環していくことであって、結果的に社会資本としての様々なタイプの住宅が生かされ、中古住宅や空き家なども上手に無駄なく生かされていくことが可能になるのだから、全体としては合理的ではないかと思います。

赤尾:
この集合住宅は、手を加えながら100年以上は使えるような町の社会資本として継いでいける住宅を目指しています。長い時間に耐えていけるものであること、そしてメンテナンスがしやすいなど、もっと柔軟に人の「移動」や「移住」を支えるハードの設計も大切だと思います。そして、こうしたハード面に加えて、移動をしやすくする「生活環境」づくりも。住まい単独ではなくて、その周囲にある関係性が豊かになっていくことも、人が循環していく上でも重要なことだと思います。例えば、この集合住宅の敷地内には、「鮎喰川コモン」という、居住者だけではなくて、町内の方々にも開かれた広場のような草地や、子どもや大人も使えるまちの読書室もつくる予定です。集合住宅といっても、住宅地だけにしないということは当初の計画時から考えてきたことでした。

鷲尾:
住まいのあり方から、地域やコミュニティの可能性を考えていくことが、この「大埜地の集合住宅プロジェクト」の意義なんですね。

完成した第1期家族・夫婦用ユニット住宅 (撮影:生津勝隆)

※参照:
神山町「大埜地の集合住宅プロジェクト」
http://www.town.kamiyama.lg.jp/co-housing/
神山町「大埜地の集合住宅プロジェクト」 第二期入居者募集のご案内
http://www.town.kamiyama.lg.jp/co-housing/
城西高校神山校「地域創生類 環境デザインコース/食農プロデュースコース」
http://www.town.kamiyama.lg.jp/josei/

後編につづく

プロフィール

一般社団法人 神山つなぐ公社
https://www.in-kamiyama.jp/tsunagu/
2015年12月に、神山町が策定した地方創生戦略を実現していくために設立された、一般社団法人「神山つなぐ公社」。いくつもの「まちを将来世代につなぐプロジェクト」が神山つなぐ公社と神山町の皆さんとの共同で日々動いています。

赤尾苑香さん
(住宅プロジェクト担当)

徳島県神山町出身。一級建築士。徳島市内のアトリエ系事務所で住宅や店舗の設計を学びながら、建築団体を通じてまちづくりや高校生の建築教育などに従事。2015年の独立を機に、改めて自分のまちを知り、地域の建築士としてまちに関わっていきたいと思うように。人々のすぐそばで、人々と共に生きていく、そんな暮らしのうつわをつくっていきたい。

森山円香さん
(教育プロジェクト担当)

岡山県岡山市出身。教育委員会および町営塾でのインターン経験を経て、福岡で教育NPOの支部を立ち上げ、教育プログラムの企画・運営に従事。神山の地方創生戦略策定を契機に神山へ。豊かな自然、営んできた歴史、培ってきた文化を受け継いでいく中で、人が健やかに育つことのできる環境づくりをしていきたい。

鷲尾 和彦(わしお・かずひこ)

博報堂クリエイティブプロデューサー /「生活圏2050」プロジェクトリーダー。
戦略コンサルティング、クリエイティブ・ディレクション、文化事業の領域で、数多くの企業や地方自治体とのプロジェクトに従事。プリ・アルスエレクトロニカ賞「デジタルコミュニティ」「ネクストアイデア」部門審査員(2014〜2015年)。主な著書に『共感ブランディング』(講談社)、『アルスエレクトロニカの挑戦~なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか』(学芸出版社)等。現在、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻「地域デザイン研究室」にも在籍。

博報堂「生活圏2050プロジェクト」
経済・社会・環境・文化。ときに矛盾をはらむ四相を統合しながら、私たちはいかに豊かさを実感できる暮らしと社会を目指すことができるのでしょうか。グローバリズムや技術革新がもたらす「生活圏」の変化を見極めながら、新しい生活文化と生活空間、そして新産業創出の可能性を構想します。

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