インターネットによって、企業メッセージが瞬時に世界へ拡散されるようになった今、クリエイティブをはじめとしたブランディング戦略を国内と海外で分けることは、果たして得策なのか?これまで、多くの日本ブランドの海外におけるブランディングを日本主導で行う「Inside-Out型」で手掛けてきたTBWA\HAKUHODOのチーフクリエイティブオフィサーである佐藤カズーが、ブランドの本質の捉え方からアイデアの作り方までを語った。

各国ごとに違う企業のブランド像は、経営資源の無駄につながる

――肩書に、「チーフクリエイティブオフィサー」とありますが、まずはそのお仕事からご紹介いただけますか?

佐藤 ごくシンプルに言うと、TBWA\HAKUHODO(2006年に博報堂とTBWAとのジョイントベンチャーとして設立された総合広告会社)が生み出すクリエイティブの品質における、すべての責任を背負う仕事と捉えています。取締役会への出席などマネジメント業務も当然ありますが、軸足は現場に置いています。会議室からクリエイティブの品質管理なんてできませんから。今でもクライアントに絵コンテの説明をすることもありますし、撮影や編集などの制作現場にも行きますよ。

――佐藤さんはこれまでに、「Inside-Out型ブランディング」を数多く手掛けてこられました。改めて、「Inside-Out型ブランディング」について教えてください。

佐藤 経営の文脈でも「Inside-Out」という言葉が使われることがありますが、僕の考えるブランディングやクリエイティブでの「Inside-Out型」は、それとは違います。説明しましょう。
これまで多くの日本企業はいわば二枚舌でした。 国内でマーケティング活動をする際は、日本のエージェンシーとともにクリエイティブを開発し、他方で海外へ展開するときには海外のエージェンシーと全く別のアイデアを開発してきたのです。現地のマーケット事情をよく知る現地のクリエイターにつくらせる。それは至極まっとうな考え方ですが、ひとりの日本人クリエイターとしてはフラストレーションを常に感じていました。そして、客観的に考えても非効率的なやり方ではないかと最近、疑問に思うようになったのです。
本来、ブランドの顔はひとつであるべきですよね。それが国ごとに、国ごとの基準でゼロから作業をするとなると、世界中で違った顔を持つことになるわけです。今まではそれでも問題なかったのかもしれません。しかし、ここまでインターネットが普及した今、クリエイティブは意図しようがしまいが、国境を超えてしまいます。各国で違うブランドの顔を持てば生活者を混乱させるでしょうし、投資する経営者としては無駄を増やすことにもなります。
そこで、ワンクリエイティブ・ワンドロップというカルチャーが生まれてきたんです。1つのアイデアを戦力に、1つのエージェンシーを作り、そこに世界中の人の思いが集約されて世界に発信されれば、それでいいわけです。つまり、Inside-Out型ブランディングとは、日本企業を外に出すときに日本人がハブとなり、世界に向けてのクリエイティブやブランドコントロールを全て行うということです。「In」が日本で、「Out」が世界という視点での「Inside-Out型」なんです。

コモディティ化する世界で差を生み出す、ブランドの本質

――具体的に「Inside-Out型ブランディング」のアプローチの方法としては、どのようなやり方があるのでしょうか。

佐藤 大きく2つのアプローチがあると思います。まず1つ目はチーム方式です。みなさんもよくご存じのとある世界的企業では、5〜6カ国からクリエイターが集まり、全員でアイデアを考え、ベストなものを作っていきます。それを各国でローカライズしますが、あくまで1つの製品はどの国に行っても同じイメージ、印象となるように1つのブランド財産を作っています。
2つ目は、コンセプト方式です。例えば、日産であれば「Innovation that excites」、マクドナルドであれば「i’m lovin’it」のような、ブランドのアイデアを1つに集約する言葉をまずつくるのです。その言葉を全てのクリエイティブのベースとすれば、ストーリーや出演者がバラバラでも、またその国ごとのクリエイティブであっても、1つの共通したブランド像を作ることができます。
これからもっと日本企業が世界に出ていこうというときに、日本人が日本で考えたブランドのアイデアとフィロソフィーに基づいて、世界各国のクリエイティブチームと連携しながら、日本がハブとなってInsideをOutしていく時代を作りたいですね。
その際、大きな弊害となるのはグローバル人材です。日本人は、自分が思ったことをはっきり言えません。気を使うという日本特有のカルチャーは、すごく良い側面でもありますが、言うべきことは強く言う国際的な感覚を持つべきです。その感覚を持てれば、日本人も日本らしさをもっと堂々と外に出していけるでしょう。

――今の日本においては「Outside-In型」経営が依然として根強い印象です。

佐藤 Outside-In型の経営では、結局は株価を上げるために売り上げのみを追求してしまい、製品も少し改良すれば、これくらいの利益が生まれるという数字優先の考えになってしまいます。それではイノベーションは生まれません。

――「Inside-Out型ブランディング」を行う際には、どういうスタンスが必要になってくるのでしょうか?

佐藤 やはり大切なのは、どういう意志を持って自分たちの企業が生まれ、なぜ今この製品をつくっているのかというパーパスやビジョンを明確にすることです。ブランドの本質はつねにブランドのInsideにあります。クライアントの社員の皆さんの中で、きちんとブランドのエッセンスを言語化して磨き上げるべきです。内なるものを社外へ発信していくことこそが、ブランドをつくっていくことの本質ではないかと思います。

――改めて、しっかりとしたブランドをつくる意味とはなんでしょう。

佐藤 現代とは、世界中のカルチャーが1つの大きな流れに統合されていく時代です。インターネットの発達によって、流行や面白いものは国や文化に関係なく、世界のどこでもリアルタイムに盛り上がっています。世界が1つになっていく先では、あらゆるものがコモディティ化していく。差を付けづらい世界になっていく。その中で本質的な差異を生み出すものは、やはりブランド固有のストーリーでしょう。ブランド本来のフィロソフィーから生まれた製品の強いストーリーがあれば、コモディティ化する群の中でも戦えると思います。それとは反対に、経営的なことだけ考えていると、他社と比較してばかりになる。「うちもコストを下げろ」という圧力がかかり、それこそコモディティしかつくれません。

ブランドの本質を捉えた言葉が世界で戦う力となる

――ここからは具体的に、佐藤さんがどのようにブランドの本質を捉え、それをどうクリエイティブに落とし込んでいるのかについてお聞きしたいと思います。

佐藤 ブランドを捉える際、僕は創業者の社是を見ます。結構、そこに全てが詰まっているんですよ。創業者や社長の社是やインタビュー記事を読むことで、そのブランドがどういうフィロソフィーを持っているのかというぼんやりしたイメージが出てきます。その後は、今、その会社を実際に動かしているキーパーソンの方々とセッションやワークショップを行い、自由な雰囲気の中で「10年後どういう会社になってほしいか」とか、「仕事における思い出話」などを語ってもらいながら、それらをブランドエッセンスにまとめていく作業をします。

――そういった、クライアントを巻き込んだ作業をすることは、クリエイティブにとってどんな意義があるのでしょうか?

佐藤 クライアントの中で何か物事を判断する際、それまでは責任者の主観や役員の決裁で承認するといったプロセスだったところに、ブランドとしてisかis not、doかdo notといった視点が加わるんです。「自分の査定に関わるからやろう」というような判断ではなく、自分たちの会社、ブランドを背負った感覚で判断していくという変化が、クライアント内で起こるように感じています。そういうブランド視点の発想はマーケティングだけの話ではなくて、会社のあらゆるセクションに浸透していくべきです。余談ですが、そういうことが圧倒的にうまかったのがスティーブ・ジョブズだと思います。Appleの社内を歩いていると、壁に「simple,simple,simple……」と書いてあります。製品もデザインも広告も、プラットフォームのUXをデザインする方々も、全てをとことん削ぎ落とすというジョブズ的DNAをあらゆるセクションで共有しているんです。

――ブランドエッセンスをまとめてから、それをクリエイティブに落とし込むには、どのようなプロセスをとるのでしょうか。

佐藤 いくつもあるブランドのエッセンスをひと言で表現する言葉をつくっていきます。そこが一番大事なことで、そのひと言が、「Inside-Out型ブランディング」におけるクリエイティブのベースになります。その言葉があれば、クリエイティブに限らず、製品開発の人であっても、共通のゴールが見えてきますからね。
ただ、日本人って“スーパーのビニール袋に詰められるだけ詰め込む”というような文化というか、全部言いたいという考え方が強いですよね。幕の内弁当のように全部敷き詰めて、それがきれいにまとまることを喜ぶという感覚です。あれもこれも、ではなく、言いたいことをひとつ選ぶなら何か?とシンプルに削ぎ落とす勇気が必要です。不安になるかもしれませんが、情報を増やすことで伝わらないことの方がよっぽど弊害ですからね。
勇気を持って不要なメッセージを削ぎ落として、ブランドの本質をしっかりと捉えることができれば、きっと世界でも戦えます。そもそも日本企業には、クラフト的な品質の良さや、製品に対するおもてなしの配慮といった強みがあります。その強みを伝えることのできる「Inside-Out型ブランディング」によって、これからは日本らしさを持った世界で戦える強い企業がどんどん生まれてくるのではないかと思います。