政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

大学生の頃、家庭教師をしていました。
4年間に面倒を見た高校生は、7名。
全員を志望校に入れることができました。

けして教え方がうまかったわけでは
ありません。
数学は解けない問題がたくさんありました。
英語のスペルもしょっちゅう間違えて
いました。
それでも生徒がついてきてくれたのは、
ちょっとしたコツがあったからです。

志望校に行く。

これだけです。早朝の通学する時間に
駅で待ちあわせて、その学校の生徒が
登校する時間の気分を味わいます。
バスに乗って景色を眺めたり、
キャンパスを歩き、空いている教室に座り、
椅子の硬さや
照明の具合を味わいます。

「思ったより、机が小さいんですね」
「ラーメン屋ばっかりだなぁ」

なんて言葉が生徒からでてくる。

「来年ここに通いだしたら、いろいろ
食べられるよ」

というと、

「うまいラーメン屋、見つけます」

と返してきました。
ここまでくれば合格したも同然です。

彼の頭には「こうなってほしい未来」が
ありありと浮かんでいます。
志望校までの道のりがはっきりと
見えています。

同じようなことを自衛隊でもやっている
そうです。

大雨で、生活道路が土砂やがれきで
埋まってしまった。
夜を徹した作業になる。

こういう状況下で、隊長は作戦名を考えます。

例えば、
「暁(あかつき)の太陽作戦」

夜が明ける頃までに土砂やがれきが
撤去され、生き返った道路の上に
朝の光が輝いている。

そんなイメージを全員に共有させます。
すべての自衛隊員がやるわけでは
ないのでしょうが、知人の自衛隊員は
未来の姿を作戦名にすると
「作業効率が全く違う」と語ってくれました。

「こうなってほしい未来」を
ありありと描く。

これはビジネスの世界でも同じ
でしょう。
ビジネスに関わるすべての人に
五感のすべてを使って臨場感
たっぷりに未来を語ることで
同志が自然と増えていく。
経営のコトダマの理想です。

とかく私たちは、過去のデータに
しばられがちです。
昨年の成果と比較して成長度合いを
測っています。
一理はありますが、すべてでは
ありません。
それだけでは多くの人の心が動きません。

また、未来を暗く予想する人もいます。
天国よりも地獄の方が思い浮かべ
やすいように、人はネガティブな話の
方が頭を使わず語れるのです。

未来を悲観的に語る人は経営者の
器ではありません。
たとえ未来を語っても「確かな」
「豊かな」「価値のある」などの
表面的な言葉を並べることしか
できないはずです。
芯を食わない言葉に「未来」が
含まれることはないのです。

「こうなってほしい未来」は、
「うまいラーメン屋を見つけます」

という一言に含まれます。

来年、この町で暮らす学生として
たっぷりに麺のかたさや
スープの濃さを味わっている。
私の生徒は、その臨場感で合格しました。
未来を五感で味わいつくしたのです。

同様に、あなたの語る
「こうなってほしい未来」を聞いて、
多くの人のお腹がぐーぐー鳴った
としたら、あなたの描く未来ビジョンは
本物です。
すでに実現したも同然です。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。