政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

サービスとホスピタリティ

今年の正月に母が老人ホームに入りました。
昨夏から体調を崩したのが長引いていました。
まだまだ元気なので悩みもしましたが、
兄と相談を重ねて、決めました。

大きな公園が近くにある瀟洒な施設です。
スタッフもよく気がついて、サービスも
万全です。

しかし、しばらくすると母の様子が
おかしい。

「ここは、生魚はでないし、醤油の量も
限られている。
のどに詰まるといけないからって、
おうどんも短く切られている」

と声に力がありません。
見ると随分やせている。しかし、それが
「適正体重」なんだそうです。

正しいものを食べて、
適正体重になる。

どこにも問題はありません。
しかし、母の言葉は私に「サービス」
について考えるきっかけになりました。

「ホスピタリティマネジメント」の
第一人者 目白大学教授の吉原敬典氏は
サービスの概念を

「サービス提供者がサービス享受者に対して、
一方向的に効率的に役立つ活動・機能を
有形財と組み合わせて提供し、
サービス享受者はサービス提供者に対して
対価を支払う経済的動機に基づいた経済的な活動」

と定義しています。

つまり、「サービスしてあげる代わりに、
その代金をちょうだいね」

ということです。

母を健康にする。そのために適正体重にする。
塩分をコントロールし、嚥下障害があっても
喉につまらない食事を提供する。
このサービスに対して、対価をもらう。

正しいことです。感謝しかありません。

しかし、母の様子を見ていると、
やっぱりどこか間違っている。何かが違うと
考えざるをえませんでした。

私が立教大学で行われている
「ホスピタリティマネジメント研究会」の
門を叩いたのはこんな想いがありました。
ここで教えている吉原教授に、

「サービス」と「ホスピタリティ」の
違いについて、しっかり聞いてみようと
考えたのです。

先生の「ホスピタリティ概念」に基づいて
母の例を書いてみます。

「ホスピタリティとは自分の利益ばかり
を求めるのではなく、他者の利益によって
自分も活きること」

つまり、サービスする側が勝手に母の
願いを健康で適正体重になる食事と
決めて、うどんを切り刻むことをせず、
母の嗜好やこれまでの生活から
生きる喜びを感じられる食事を
共に考え創っていく。

そのためには母も我慢することが
必要にもなるし、施設にもさらなる
創意工夫が求められます。

しかしこうしたホスピタリティを
マネジメントしていくことに、
来るべき少子高齢化社会における
経営のあり方があるのではないでしょうか。

「活私利他」
(相手に利益を与えることで、自分が活きる)

というホスピタリティ精神が
今回の「経営のコトダマ」です。

「サービスしてあげる代わりに、
その代金をちょうだいね」から
「何を目標にするかをお互いよく
考えて、そこに向かっていっしょに
歩いていきましょう」という
ホスピタリティの世界へ。

世界より一足早く高齢化社会を
迎える日本は、この分野でも
新しいマネジメントを創造して
いきたいものです。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第4回 文学は、実学。