2015年国連総会で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。企業の成長と社会課題への取り組みは相反しない、という新たな潮流にヨーロッパを中心とした海外企業は積極的に向き合い始めている。ところが、日本においてはなかなか大きなムーブメントになってきていない…。
博報堂ブランドデザイン副代表兎洞武揚が、日本企業が本来持つ独自の優位性をベースに、世界に誇れる日本ならではの社会課題解決の可能性を語る。

生活者や企業双方の、SDGsへのリテラシー強化が急務

──経済インパクトと社会インパクトを両立するために、企業はどういう方向に向かうべきなのでしょうか?

兎洞 僕は今のところ企業の社会課題への向き合い方を3つのパターンに分類して整理しています。投資か? 宿題か? あるいは関係ないか? という3分類です。まず“投資”という分類は、社会課題は企業にとっての投資の対象、あるいはこれから取り組んでいくことで伸びていきたいと考えるグループ。“宿題”というのは、本来やらないといけない課題と認識していて、そのまま放っておくとコストとなるから早めに手を打ったり学んだりしようという立ち位置のグループ。そして3つ目の“関係ない”というのは、社会課題に対してインパクトを出すということ自体、パブリックセクターやNPOの役割であって、利潤追求が使命の企業には関係ないと思っているグループ。大体この3つのグループに分かれるなと思っているのですが、僕が今ビジネスとして取り組みたいと思っているのは、“投資”という発想をしている企業です。そういう企業へのサポートを通して、僕らもそのグループの一員でありたいなと思っています。

──企業が社会課題により積極的に取り組む潮流は、世界で同時に起こっているのでしょうか?

兎洞 日本に比べると、ヨーロッパを中心に海外の企業の方がこの分野において先行していると思います。具体的な事例では、ユニリーバさんの「サステナブル・リビング・プラン」です。そこでは、セールスを2倍にしながら環境への負荷を同時に下げていくということを宣言されていて、現在、その目標を順調に達成されています。そもそも、なぜ、このプランが作られたかというと、このままだと自分たちの商材を作っていく先に、資源がなくなるという決定的な命題があったためです。これは、利益追求と社会インパクトが一体化している考えの好例で、こういう発想が今の時代としての自然な流れだろうと思います。売り上げの1パーセントをドネーションしますといった従来の考え方から、利益と社会インパクトをセットにして、どう組み替えていくか、経営とマーケティングをどう変革させていくのかという領域に行き着かれたわけです。利益と社会性の二項対立がますます違和感を持つ時代になってきているんだと思います。経済成長と環境保護と社会格差是正のトリレンマを、解けないパズルのままにするのではなく、解いていこうとする、こうした動きは、海外の企業の方が早く、日本の企業もこういった意識づけを先頭きって走っていくべきと切に思いますね。

──今まで経験されたケーススタディの中での好事例など、ご紹介いただけますか?

兎洞 国連でSDGsが採択された年に、有識者のプラットフォームであるOPEN 2030 PROJECTを日本で最初に立ち上げました。SDGsを宿題ではなく、機会に変えていくことでどんなことができるかという議論の中から持続可能な生産と消費の実現をパーパスとした「未来を変える買い物 EARTH MALL」の構想が生まれ、博報堂が社会実装を担っています。学校と企業と市民を結ぶ教育事業をスタートし、EC展開についてのサービスをリリースしたところ、大手EC企業さんからお声かけがあり、今春から一緒にEC事業に取り組み始めました。買い物の意識や行動が変わるとメーカーや生産者に影響を及ぼします。未来を変えるワクワクを実際のEC事業として展開し、経済インパクトと社会インパクトの両方を生み出そうという理想的なプロジェクトです。海外では企業に対して、監視する役割としてのNPOや一般市民のリテラシーが非常に高い。逆に企業を放っておくと何をするかわからないという意識もあって、ちゃんと監視する中でルールが出来上がっていくのですが、日本は企業に対して信頼度が高いゆえに生活者がちょっとのんびりしている状況だと感じます。せっかくこれだけの先進国で、自然資本もたくさん持っている経済大国ですから、そこに対してのリテラシーをもうちょっと良い形で持って、本当の意味で世界に誇れるようになれるといいですよね。

トランジション・セオリーから自分の役割をマッピングする

──特に国内だと経済インパクトの側面で、やや停滞している感がありますが、そういう時にSDGsに取り組むことが突破口になるということはありますか?

兎洞 SDGsの根源にあるのは“成長の限界”という社会全体のムード。気候変動や、資源が枯渇していくということが、オーソライズされた社会問題として共有されていったわけです。例えば、カナダ沖でタラの漁場が崩壊したことで、ドイツの市場に魚が並ばなくなり、リアルに危機が見える形になる。気候変動の問題もそうです。見えてくる中で“ヤバいよね”という実感。つまり経済成長を遂げている裏側で外部不経済が回っているということを、我々はひしひしと気づきだしている。その状況下で、経済インパクトだけではなく、社会インパクトとセットで考えないといけない、という文脈が徐々に強化されていった。それを当たり前にしていかないとダメだという風潮になってきているのではないでしょうか。企業の評価のものさしが変わり、経済インパクトだけにとらわれてしまうと、逆に利益をあげることができなくなり、経済・社会・環境のトリプルボトムラインのパズルをもがきながら解こうとする企業が利益をあげる時代がもうそこに来ていると思うのです。その文脈上で言えば、教育の改革が今、すごい勢いで進んでいます。“正解というものがあって、知識を伝える一斉学習のスタイル”から、“自分の頭で考え、違う意見や価値観を持つ人と意見をぶつけ合って、未来を創り出す”ということを教育でやっていかなければいけないというわけです。

アクティブラーニングや2020年の学習指導要領改訂の基本的なところは、確実にそっちの方向を向いています。経産省もそれを思い始めていて、単純に経済を伸ばすための教育ではなく、本来の教育がどうあるべきか、という問いかけが必要だと動き出している。自分の頭でちゃんと考えることのできるプロフェッショナル同士がダイバーシティの中で、既存の世界に無い未来のイメージを創り出す状況は、まさにイノベーションが起きうる条件ですよね。これをより大きなシステムで発想できるかが問われてきます。経済をよくしていく短略的な対症療法はいろいろあるかもしれないですが、本質的な話としては絶対に教育改革だと思います。知識を一方的に暗記してテストで合格してなんとなく大企業に入って……ということが、今この日本で経済インパクトを出せない最大の理由だと僕は思っています。これは経産省だけや文科省だけでは実現できないし、常に利益を出さないといけない企業だけでもできない。ましてや自治体だけでもできない。だから、政治、行政、企業が連携して推し進めないと実現できないでしょうね。
日本の社会や経済をよりよくしていく根幹の社会課題は、まずは教育、そしてジャーナリズムのあり方、政治参加にあると思っています。お上に任せて安定している時代じゃないし、右肩上がりの時代ではないという中で、この3つは非常に重要だと思っています。

──そこに企業はどうコミットできるとお考えですか?

兎洞 勝手な妄想ですが、日本の大企業は多くの財団を持っているじゃないですか。それぞれの理念で社会貢献をされていると思いますが、もう少しだけ視座を上げて、企業財団連合みたいなものができないかなと考えたりしますね。日本の重要課題はこうだ!といった共通認識を持って、教育とジャーナリズムと政治参加の仕組みに関して、この企業財団連合でやろうというような動きになれば素晴らしいと思います。
世の中が大きく変わる時に何が起きているかを研究した「トランジション・セオリー」というイギリス発祥の理論があって、例えば帆船から蒸気船に変わった時に何が起きたかとか、世の中が大きく変わる時の構造がどうなっているかを研究したものです。その中で、ニッチ、レジーム、そしてランドスケープという3つのレイヤーが存在して、これを人の役割に置き換えると面白いです。ニッチは何か新しい取り組みをやっていく人たち。例えば、ベンチャーやNPOの人たちに多いですね。レジームは社会的なシステムに関わっている人たち。官僚や企業の経営、文化など、社会のシステムに関わっている人たちです。最後のランドスケープは世論という概念で、代表的なのがメディアに従事する人たちです。世の中が変わる時は、ニッチの中で動きがいろいろあって、それがレジームに影響を及ぼし、ランドスケープからの影響を受けたときに、レジームが既存のシステムから新しいシステムに変わるという考え方です。そう考えると自分がどの立ち位置に存在しているかっていうことを意識できますよね。「僕は全体の中でニッチの活動をやってるね」とか、「俺、今新しいルールメイクをしようとしている」とか。そういうことを意識していくのと同時に、それらのレイヤー間をつなぐ人が必要だと思っています。3つのレイヤーと、そしてそこをつなぐ明治維新の時代の坂本龍馬みたいな役割の人との、4つの役割があるんだと思います。それを個々人がどう意識するかで、やみくもに頑張るのではなく、もう少し効率的に個々人の地図を持った形で動けるのではないでしょうか。

日本が誇る仲卸の発想がマーケティングを変える

兎洞 “日本的な強み”と“つなぐ”の機能を飲食の世界でわかりやすく考えると、築地市場の仲卸が浮かびます。彼らは、漁師から卸の水産会社を通過して届く魚を素晴らしい料理人につなぐのだという矜持(きょうじ)を持って仕事をしていますよね。彼らが面白いのは、この料理人にはこの食材だという目利きができるという誇りと、リレーの中でつなげているという仕事に対しての責任感を持っているところです。鮮魚を扱うという事情もあるとは思いますが、リレーで的確に次につなげないと、これまでの苦労を無駄にしてしまうという使命感。つながりとリレーって、企業活動の根本的なバリューチェーンですから。リレーの中で誇りを持つだけで、意識が全然変わってくるんだと思います。そういうことって、絶対にAIでは代替できないですよね。つなぐということは、そういった可能性をいっぱい持っているんです。

──それは、マーケティングも社会にとってのその仲卸みたいな存在にならないといけないってことですよね。

兎洞 確かにそうですね。こっちに課題やニーズがあり、あっちにも課題やニーズがあり、それを右から左という今までの考え方では全然ダメだということです。今までは売れるってことだけを考えた目利きでよかった。これからは売れることは大前提として、外部不経済も出さないということまでを考慮できる総合的な目利きの時代に入ってきてますね。そういうことが可能な存在がマーケティングの人たちだというわけです。また、逆にマーケティングの人たちもソーシャルな目線を持たないといけない時代になってきていると思います。

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