「少子化」という言葉が世の中に定着して久しい。しかし、企業は本気で少子化に向き合えているだろうか? 『消費者』としての若者はもちろんだが、自社の『戦力』となる若手社員と良好な関係性を築いていかなければ、この人手不足時代を乗り越えられないだろう。
2000年代前半から十数年にわたり若者研究を続け、今や若者研究の第一人者として、さまざまな業界に対して若者獲得のアドバイスを行っている博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー・原田曜平が、企業が取り組むべき、今の若手社員「育成法」を語る。

未曽有の人手不足が日本を襲っている

──最近、企業から若者の採用や育成に関しての相談が増えているとのことですが、どのような状況なのでしょうか?

日本ではかれこれ40年近く、少子化の傾向が続いています。日本に暮らす外国人の数も増えてはいますが、本格的な移民政策をとっている国に比べると、その規模は微々たるものです。実際、政府自身も、海外からの移民の受け入れに積極的ではありません。
その結果、若者の希少価値が「異常」と呼べるレベルにまで高まっているのが、今の日本の状況です。団塊世代の退職に加え、景気がよくなったこともあり、今や人手不足が深刻化し、若者たちの就職状況はバブル期並みによくなっています。
この状況は当の若者たちにとっては喜ばしいことですが、企業にとっては大変深刻な事態です。

宅配便の値上げや、ファミレスの24時間営業の中止など、すでに人手不足の影響が多方面に出始めているのはご存じの通りです。驚くべきことに、人手不足でお米の値段が上がるといったことまで起こっています。
そんな中注目しているのは、「人手不足倒産」と呼ばれるタイプの倒産が急激に増えていることです。
「人手不足倒産」というのは、仕事はあるのに、仕事をこなせる人を採用できないため、倒産するしか道がなくなってしまう、というものです。地方の中小企業では、すでにこの「人手不足倒産」がかなり深刻になってきています。実はここ数年、日本の倒産件数自体は減少傾向にあるのですが、一方でこのような人手不足による倒産が増えているのです。
この「人手不足倒産」という言葉は、近い将来、流行語になると私は確信しています。新語流行語大賞の大賞をとるかはわかりませんが、少なくともノミネートはされるのではないでしょうか。それぐらいこのタイプの倒産が今の日本では切実な問題になってきているのです。
今の日本では、少子化による人手不足の影響で、他の国が経験したことのないすごいことが起こっているわけです。

──では、これほどまでに人手不足が深刻化している中で、企業は若者を採用するために、どうしたらよいのでしょうか?

まず、「自社の社風に合うか」とか、「会社に骨を埋めるつもりがあるか」といった、「企業側の都合」での採用を続ける限り、今の若者には選んでもらえません。そのことは、企業の採用担当者の方々は薄々気がついているのではないでしょうか。
では、どうするかですが、極論すれば、企業側がある程度若者にすり寄っていく必要があると私は考えます。
「これからは皆さん中心の世の中なので、イヤなら無理強いはしないけれど、とりあえずわが社に就職してみませんか?」くらいのスタンスが今の若者と接するのには必要なのです。なぜなら、それほどまでに「若者」の希少価値は高まっているからです。彼らは今や「金の卵」どころか「ダイヤモンド」といっていいくらいですからね。

ところが、採用する側の企業のほうでは、そのことにあまり気づいていません。そのため、多くの企業が、若者に対して旧態依然のアプローチを続けています。企業の採用サイトを見ても、ロマンスグレーのおじ様社長の「グローバル人材求む!」みたいな力強いメッセージが載っていたりしますからね。でも、そんなメッセージは、今の若者にはまったく響きません。
若者は基本的に、「今後数年」の視野で生きている生き物です。なので、彼らが採用サイトで見たいのは、入社3年目ぐらいの若手社員が楽しそうに仕事をしている姿であって、社長の力強いメッセージなどではないのです。こうした企業と若者の間の「食い違い」の例は、いたるところで目にします。
たしかに今の若者の傾向として、安定志向で覇気があまりないというところはあります。なので、同じ会社でのんびり緩やかに会社員人生が送れたらいいと思っている人が多いのは事実です。ただその一方で、イヤなことがあったら、躊躇なくやめるという傾向も強くあります。今や転職市場も売り手市場なので、仕事を辞めても、同じくらいの規模の会社であればすぐに転職できますからね。こうした現状を踏まえて、企業は採用だけでなく、若者を「やめさせないためには、どうすればいいか」「どうやって育てるか」などをもっと真剣に考えるべきだと思います。これは、多くの企業が今すぐ取り組むべき喫緊の経営課題なのです。

青学・原監督&日ハム栗山監督に若者掌握術を学べ

──そんな若者たちの心を捕らえる「秘策」のようなものはありますか?

まず、今の若者の「ある特徴」を理解することです。
今の若者は数自体が減っているので、昔に比べて多くの大人たちに大事にされて育ってきています。たとえば、出版業界はずっと不振にあえいでいますが、絵本市場だけは活況です。これは、「わが子にはスマホではなく、絵本を買い与えたい」という大人たちの欲求が現れた結果といえます。
以前、1人の子供につき、両親と父方・母方それぞれの祖父母の6つの財布があるという「6ポケット」が話題になりましたが、今やそれどころか、子供のいない「おじさん」「おばさん」までもが、こぞって甥や姪に絵本をプレゼントしています。それゆえに絵本市場が活況なのです。
また、今の子供たちは小学校に上がった途端、さまざまな塾からお誘いの声がかかります。有名大学でさえ、日本全国から若者を集めようと地方の隅々にまで生徒を勧誘しに行っています。
このように、今の若者たちは、いろいろな大人たちから求められる環境でずっと育ってきているのです。そのため、一人ひとりが「自分はスターだ」と思い込んでいる。要は、自意識過剰なのです。
これは少子化の一つの現象です。つまり、若者の希少価値を高め、スター化させてしまう。そこに、昨今はSNSの普及が加わり、彼らは「いいね!」を押してもらえることで、プチ自己承認欲求も満たされている。その結果、皆が皆、雑誌の読者モデルばりに自意識過剰になってしまっているというのが、現代の若者たちの大きな特徴だといえます。

ご質問の「若者たちの心をとらえる秘策」とは、こうした若者たちの特徴をうまく活かしていく、に尽きるのではないでしょうか。
たとえば、若者のこうした性質を見抜いて、うまくコントロールしているのが、青山学院大学陸上部の原晋監督です。
原監督とは一度対談本を出させていただき、若者の人心掌握術に関して、非常に勉強させていただきました。
(【著者インタビュー】青山学院大学陸上競技部、原晋監督に若者研の原田曜平が聞く「力を引き出す~『ゆとり世代』の伸ばし方」)
原監督は大学陸上部の監督の中では、突出してたくさんのメディアに登場されています。もちろん、弱小青学を常勝軍団につくり上げたということで、メディア側からの要請も多いのだとは思いますが、監督本人からも「ワクワク大作戦」とか、メディアが喜びそうなネタを提供している側面があります。
その際、原監督ならではの方法が、ご自身だけがメディアに出るのではなく、選手たちも積極的に表に出していくことです。
実はこれが、自意識過剰な若者たちを鼓舞する監督の指導法の一つになっています。つまり、「ほら、テレビもキミらを注目しているぞ。頑張らなきゃ!」「キミらはスターだ」と言いながら、選手たちを煽っているのです。

同じく、もう一人、若者の人心掌握術に長けていると私が感じているのが、プロ野球日本ハムファイターズの栗山英樹監督です。
以前、栗山監督とも対談させていただいたことがあるのですが、おっしゃっていることが原監督と共通していて面白いと思いました。
とくに、お二人とも強調されていたのが、「『For the team』では、今の若い子たちはついてこない」ということ。
たとえば、栗山監督がおっしゃっていたのですが、「今年の日ハムの方針はこうだ。ついては、君はこういう役割が期待されているので、バントを練習しなさい」といった言い方をしても、今の若者は絶対にその通りにはしないといいます。なぜなら、今の若い選手は、一人ひとりが「自分はスターだ」と思っているし、また同じ組織に長くいようと思っていないので、「チームのため」と言われても、感覚的にわからないからだそうです。
そこで、「上からの押し付け」ではなく、選手一人ひとりに寄り添い、選手自身が描く「なりたい選手像」と、それに近づくために「やるべきこと」を議論し、その積み重ねの結果として、チームの総力を高めていくというやり方が重要なのだと、栗山監督はおっしゃっていました。

また、青山学院の原監督の場合は、選手選考の際、「自分の言葉で語れるか」を重視し、言葉がうまく出てこない選手は、仮に運動能力が高くタイムもよくても採用しないのだそうです。なぜなら、自分の目的を、自分の言葉で言語化できる選手のほうが、目標も自分でつくっていけるからだといいます。
今の若者は、押し付けられた目標は基本的に受け入れません。しかし、自分で納得して立てた目標に対しては、結構頑張れる。原監督は、そのようにして一人ひとりの考えを引き出しながら、ボトムアップでチームの総力を高めていっているのだそうです。

「ケア型育成法」にシフトできない企業に、若者は集まらない

──大変興味深いお話ですね。では、両監督のこうしたやり方を、企業内ではどのように応用していけばいいとお考えですか?

原監督と栗山監督に共通しているのは、今どきの若者の心理をよく理解している、ということです。このことは非常に重要で、企業の経営者もやはり若者の気持ちを知ることが不可欠だと私は考えます。
先ほども話しましたが、基本的に今の若者は上からの押し付けを極端に嫌う傾向があります。ですので、従来、日本企業でよくみられた「『兵隊』として若者を採用し、会社の論理や考え方を押し付ける」というやり方は、根本的に間違っています。
また、多くの企業では、たとえば中期経営計画のようなものを経営陣が立て、それを各部署に落として目標を立てさせ、それにしたがい、個々の部員に役割を振るといったやり方が日常的に行われていると思いますが、これすらも今の若者には通用しません。「経営のことは、経営者が考えるべきことで、自分たちには関係ない」と今の若者は考えるからです。

こうした話をすると「それでは、会社が成り立たなくなる」とおっしゃる経営者の方が少なくありませんが、しかし、企業が今後生き残っていく上で、若者の変化への対応は避けて通ることはできません。それほど、若者の希少価値は高くなっているのです。
原監督や栗山監督が実践されている、選手一人ひとりのやる気を喚起するといった指導法が目覚ましい効果を上げていることはすでに皆さんご存知の通りでしょう。企業もそれに習った若者育成法に真面目に取り組む時期に来ているのです。

「異動だ!」の一言で、若手社員がおとなしく従ってくれた時代はすでに終わりました。若者を社員として獲得し、自社の戦力として成長していってもらうには、彼らが納得しうる対応を常にとっていくことが重要です。そのためにも、若手社員一人ひとりが今後、どう伸びていきたいのかを把握する面談などを、これまでとは比較にならないレベルで実施していく必要があります。
若手社員への緻密なフォローは、大企業になればなるほど社員数が多くなり、大変ですし、労力もいります。しかし、やる以外の選択肢は、企業に残されていません。それが、少子化が進む今の日本の現実なのだということを、我々は肝に銘ずるべきです。