政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

赴任は、大阪でした。
商いの街で仕事を始められたことを
感謝しています。

小さな工場の社長さんが、
新人の私に語ってくれた言葉が
あります。

「ええか。
名古屋人は、0円から10円を稼ぐ。
大阪人は、50円出して100円稼ぐ。
東京人は、100円出して100円稼ぐ。

損得勘定いうんは、国や街や人によって
それぞれや」

と言って、東京の同期が名通りのいい
大きな仕事をしても、焦るな。
せっかく大阪で働くのだから、
50円だして100円稼ぐやり方を
覚えて帰れと言ってくれたのでした。

0円から10円稼ぐには、
まず金を全く使わずに現状を打破
しなくてはなりません。
店を掃除したり、接客の態度を変える
ところから始める。
脚下照顧に徹することが大切です。

50円から100円を稼ぐには、
創意工夫が必要です。
常に「かけた金の倍を稼ぐ」と
心に決めて、損得勘定の「得」を
地道に積み重ねていく。
まさに「商い根性」が試されます。

100円出して100円稼ぐ。
労多くして益少なし。
そんな感じがします。

しかし天下にブランドを知らしめるとき。
大きな信用を勝ち取ろうとするとき。
未来に向けた投資をするときには、
こうしたビジネススピリッツが
ものをいいます。

たった一人の意見なので、これが
正しいとは限りません。大阪生まれの
社長の偏見もあるでしょう。

しかし「商いの価値観」は、
世界に出ればもっと複雑に、
大きな差となって現れるはずです。
グローバルな時代になればなるほど

「郷に入りては郷に従え」

という言葉を頭にいれておく必要が
あります。

先進国を追いかけていた時代は
はるかに遠くなりました。
「グローバルスタンダート」と
世界の価値観を統一する時代も
今は昔です。

各国が「○○ファースト!」
と声をあげ、世界より自らの
選挙民にとって優位となるように
経済政策が決めていく時代。
そこにAIの進化が絡んできます。

こうしたディールに勝っていくには、
その国の、その地域の、その人々の
商売気質を深く理解することが
ますます大事になるでしょう。

その小さな工場の社長さんは、
50円から100円を稼ぐ戦略として
私にこう教えてくれました。

「徹底的に戦いを省け」

無駄な戦いほど無益で金のかかる
ものはない。
戦えば、疑心暗鬼になる。
メンツを守ることに金を使う。
「相手に勝ちたい」
という思いから、何事も
オーバースペックになって本質を
忘れる。
これでは到底、50円から100円
を生み出すことができない。

「東京の商いは、結構これが
多いんや。武士の街やさかいな。
戦いが、好きなんや」

と、安酒をちびちびやりながら
語ってくれた社長。

「戦いを省け」というコトダマを
今でも大切に、心におさめています。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。