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原田曜平の提言。若者を知りたければ、いますぐ昔を懐かしむノスタルジーを捨てよう

2018.04.16
「若者の○○離れ」という言葉が使われて久しい昨今、ありとあらゆる業界が若者ユーザーの獲得に苦労している。2000年代前半から十数年にわたり、若者研究を続け、今や若者研究の第一人者として、さまざまな業界に向けて若者獲得のアドバイスを行っている博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー・原田曜平が、前回に引き続き現代の若者を理解するための方法を語る。

世間で言われている流行を信じてはいけない

──若者の支持を獲得するためには、現代の若者の実態を理解する必要があると思います。現代の若者を知る上で、気をつけるべきことはありますか?

単刀直入に言うと、世間で言われている情報を鵜呑みにしないことです。
「新語・流行語大賞」という、年末にその年に流行ったとされる言葉を選ぶ賞があります。昨年2017年は「忖度」と「インスタ映え」が大賞に選ばれました。そう聞くと、昨年、若者の間でもインスタグラムが流行っていたと思いがちですが、若者の間でインスタグラムが盛り上がり始めたのは、実は5年も前のことです。
「インスタ映え」が大賞に選ばれたのは、インスタグラムが広い世代に浸透し、大賞を選ぶ審査員の年代でもようやく認識できるようになったからであって、若者の流行とは関係ありません。

このような誤解はいろいろなところで起こっています。
たとえば、NHKの朝の連続ドラマ「あまちゃん」が大ヒットした後、「バブル期のカルチャーが再ブームか!?」という話をよく耳にしました。「あまちゃん」は、全世代平均では高い視聴率を上げていましたが、若者だけ見れば視聴率はかなり低く、若者のほとんどは見ていなかったのです。
「あまちゃん」大ヒット後も、バブルの頃の女性のスタイルを模した女性芸人がブレークしたり、赤いリップが流行ったりと、バブル期のカルチャーが復活したかのような出来事はありました。しかし、赤いリップが若い女性の間で流行ったのは、歌手で女優のテイラー・スウィフトの影響です。バブル期のリバイバルではなかったのです。

結局、「バブル期のリバイバル」なんて話は、昔を懐かしがりたがる中高年達のノスタルジーでしかないのでしょう。
こうした誤った情報が信じられてしまう背景には、メディアが真実であるかのごとくに伝えていることが大きいといえます。しかも、そのメディア自体が、若者の感覚ではなく、オジサンたちの感覚で情報発信をしているのが実態です。だからこそ、メディアが伝える「若者情報」に関しては、特に注意が必要です。

観察調査しないと本当の若者像は見えてこない

──では、今の若者を知るためには、具体的にどうしたらいいのでしょうか?

もうすでに多くの企業がやっていると思いますが、SNSを通じた情報収集は、一つの有効な手段です。
現在、若者がもっとも使っているSNSはLINEです。なので、本当はLINE上での彼らのやり取りが見られるのが一番いいのですが、LINEでのやり取りは外部者には見られません。
ただ、これからも新しいツールは次々と開発されるでしょうから、企業はそれらを積極的に情報収集の手段として取り入れるべきです。

SNSは大変便利なツールで私も重宝して使っています。しかし、それだけでは今の若者の実態を知るのには十分ではありません。
私自身かれこれ十何年も若者研究を続けていますし、今も毎月何百人という若者たちに接触しています。その経験から言うと、本当の意味で彼らを理解するには、結局のところ、地道な対面接触がどうしても不可欠です。

そうした話をすると、「グループインタビュー」を行うケースが少なくありません。たしかに、「直接、若者の声が聞ける」方法ではあります。しかし、形式的なインタビューだけで、若者の本音や実態を完全に理解できるとは思わないほうがいいでしょう。なぜなら、若者は言葉の使い方が上手でなかったり、まだ十分な自己分析ができていなかったりします。周りの目を気にして、つい誇張してしまうこともあるでしょう。そうした彼らの発する言葉をそのまま真に受けてしまうのは、企業にとって非常に危険です。若者の発言を、性善説でそのままレポートにしてしまうと、本質を捉えていないマーケティングになってしまうことがあるのです。

私は、国内だけではなく中国はじめアジアの国の若者の研究も行っていますが、これらの国でグループインタビューをすると、自分自身を大きく見せようとする、いわゆるビッグマウスの子も少なからず紛れ込んでいたりします。日本企業の方は真面目すぎるのか、そのことに気づかぬまま、彼らの発言一つひとつをそのまま信じ込んでしまうことがしばしばあります。まあ、日本の若者の場合、そうしたビッグマウスの子は多くはありませんけど……。

いずれにせよ、若者を本当に理解するのには、たった1回のグループインタビューではまったく不十分です。何度も何度も接触して、深くつきあう。つまり「観察調査」に近い状態を作り上げていかないと、彼らを本当に理解するのは難しいのです。これが、十何年も若者の研究を続けてきた私の結論です。

企業は「若者攻略」を大きな経営課題と捉えるべき

──ただ、多くの若者と深く付き合うというのは、企業のマーケティングリーダーにとってはハードルが高いように感じるのですが……。

もちろん容易なことではないと思いますが、人任せにするのではなく、自ら深く関与すべきだと思います。自社のマーケティングリーダーだけが考えることではなく、経営者自らが「若者攻略」を大きな経営テーマとして捉えるべきでしょう。
それは「マーケティング対象としての若者攻略」という話だけでなく、採用や社員教育にも関わってくることです。今のこの時点で、若者攻略をおろそかにしている企業は、5年先には必ず大きな問題を抱え込むことになると思います。

一方で、若者を理解する上で、自分自身の年齢がハードルになることも忘れてはいけません。
私は今40歳ですが、そろそろ若者たちのことを肌感覚で理解するのが厳しくなってきたと感じています。年齢的には30代がおそらく若者を理解する限界だと思います。なので、この年代までの人たちが若者に関する情報を報告できる体制を社内につくるといった工夫が、今後、企業には必要になると思います。

もう一つ、若者攻略のためには、企業内の「意思決定」の方法についても変えていく必要があります。
先ほど、メディアからの情報発信がオジサンの感覚でのものになっていることが、若者に関する誤った情報が広がる原因だと述べましたが、同じようなことはいろいろな企業の意思決定の場面でも起きているように感じます。
日本では今、メディアにしてもメーカーにしても、多くの企業で50代以上の人たちが権限を握っています。そして、彼らが今の若者のことをきちんと理解できているとは到底思えません。むしろ、若者たちのことがまったく見えていないと言っても過言ではないでしょう。

人間はそもそも自分の感覚でしか、物事の判断をできません。そのため、せっかく若い社員が提案してきたプランも、自分たちの感覚に合わないという理由で没にしてしまうということも起きがちです。
いい例が、これだけ若者の「恋愛離れ」が叫ばれているにもかかわらず、相変わらず若者の恋愛をテーマにしたドラマが次々とつくられていることです。これは、つくり手側にいるオジサンたちが、「自分たちが若い頃に親しんだものだから、今の若者にも受ける」と勘違いしている結果でしょう。

50代以上といえば、若者たちから見れば「おじいちゃん」「おばあちゃん」と感じてしまう世代です。その人たちが企業において権限を握っていては、若者攻略はできなくて当然です。若者攻略に関しては、思い切った権限の委譲も必要だと感じています。

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