「若者の○○離れ」という言葉が使われて久しい昨今、ありとあらゆる業界が若者ユーザーの獲得に苦労している。2000年代前半から十数年にわたり、若者研究を続け、今や若者研究の第一人者として、さまざまな業界に向けて若者獲得のアドバイスを行っている博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー・原田曜平が、現代の若者攻略のヒントを語る。

若者を観察することで 「未来」のビジネスチャンスが見えてくる

──ここ数年、若者の消費離れが叫ばれることが多いですが、この状況を企業はどう感じているのでしょうか?

2007年頃から、自動車や酒類といった業界で、若者離れが盛んに叫ばれるようになりました。私自身、若者向けの商品開発やプロモーションのプロジェクトに呼ばれる機会が増えたのはちょうどその頃です。
その後、若者離れはさまざまな業界に広がっていきました。これまで若者には強いとされていた化粧品業界やコンビニ業界なども含め、今やありとあらゆる業種が若者獲得で苦労しています。各社かなり強い危機感を持たれている様子です。

私はかれこれ10年以上、若者の研究を行っています。その活動を通して、彼らをじっくりと観察することで「未来」が見えると確信するようになりました。だからこそ、企業が抱くこうした危機感はよく理解できます。
たとえば、自動車や酒類の業界で若者離れが言われ始めたのは10数年前ですが、その後、若者に限らず全世代にわたって消費が減少しています。つまり、いま若者離れが起こっている業種で何も手を打たなければ、いずれ全世代が離れていく未来も予想できてしまうのです。

この現象は、今絶好調に見える業界にとっても他人ごとではありません。
ここ数年、日本ではコーヒーがブームになっています。実際、コーヒーの日本での消費量は、1960年代以降、一貫して伸びていますが、若者視点からみると今後また違った見え方をするかと思います。最近の若者を観察していると、コーヒーを「苦い」と感じ、カフェに行っても甘いドリンクを注文する傾向があります。若い頃に親しんでいないものを、大人になってから積極的に食したり、使ったりすることは少ないでしょうから、今の時点から慣れ親しませる必要があるかと思います。
人には寿命があります。なので、今の若者が消費の中心になっている社会は間違いなく訪れます。そうなった時に、業界として、あるいは企業として生き残れるか否かは、今、若者の支持をどれだけ取り込めているのかが、大きく関わってくるでしょう。

──若者の嗜好や行動などをしっかり観察していくことで、企業は次の一手を探りやすくなっていくわけですね。

先ほど、若者をじっくり観察することで「未来」が見えると言いましたが、同時に、「その時代」もよく理解できるようになると感じています。
というのも、若者は大人に比べて経験も知識も少ないかもしれませんが、一方で「動物的本能」に優れている面があるのではないかと思うのです。
たとえば、「今の若者は恋愛に興味がない」と言われていますが、冷静に考えれば、借金まみれの今の日本で、結婚して、子供を持ったりしたら、将来どうなってしまうだろうと不安に思うのは当然です。恋愛を踏みとどまってしまうのは、実は正しい判断なのかもしれません。まあ、単に恋愛にビビってしまっているだけかもしれませんが……。
いずれにせよ、いつの時代も、若者は「その時代」の温度を感じ取る優れたアンテナを持っているように感じます。

「若者がお金を使わない」 というのは誤解である

──若者研究の専門家の目には、企業の若者獲得の実態はどう映っていますか?

正直言って、若者獲得に向けて、本腰を入れて取り組んでいる企業は、現状で決して多くはないように思います。
私自身、これまでにいくつもの若者向けの商品開発やプロジェクトに関わらせていただき、実際に形になったものも数多くありますが、一方でお蔵入りになってしまったものも少なくありません。そのほうが多いくらいです。そして、その多くが、実現寸前になって「やっぱり投資するなら、すぐに利益の見込める団塊世代に……」となり、ボツになってしまうというパターンです。
つまり、目先の利益を優先させ、長期的な視点に立った若者向けの投資は後回しにされてしまうことが多いのです。

しかし、2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり、彼らの消費が大きく落ち込むのは目に見えています。今のまま、団塊世代頼りのビジネスをしている企業は、10年、20年先、かなりシビアな状況を迎えることになるのは明らかでしょう。
そして、新たな顧客として、「若者」を確実に取り込んでいくには、ここ数年が最後のチャンスになると思います。ここのところ少し景気も上向いているので、若者獲得に本腰を入れる未来志向の企業が増えてくれることを切に願っています。

──そうはいっても、上の世代に比べて市場としてのパイが小さく、しかも財布のヒモも固いといわれる若者は、ビジネスのターゲットとしてかなり手ごわいのでは?

若者はたしかに少子化で人口も少なく、ターゲットとして攻略するのは難しいと感じるかもしれません。しかし、多くの企業が見逃していますが、実は若者のほうが一般の社会人より可処分所得が多いという見方もあります。
東京の大学生であれば、中にはアルバイトで月10万円以上を稼ぐ子もざらにいます。また、非正規で働いている若者の月給が十数万だとしても、親と同居していれば、そのほとんどを自分で使えます。
一方、サラリーマンのお小遣いの平均は、ここ十何年、月4万円にも達しない状況が続いています。意外に思うかしれませんが、社会に出て数年を経た世代より、若者のほうが自由に使えるお金を持っているとも考えられるのです。

そして、企業にぜひ注目していただきたいのが、若者を中心に成長した市場が実はたくさんあるということです。

たとえば、ここ数年で「ハロウィーン」のイベントは日本でもかなり定着しています。今でこそ、若者だけではなく、その上の世代も巻き込んで、さまざまな消費を生んでいますが、当初は明らかに若者たちが中心でした。
余談になりますが、ハロウィーンが若者にこれだけ受けた背景には、ハロウィーンが性別に関係のないイベントだから、というのが挙げられます。最近の若者は男女の区別なく友人関係を築く傾向が強く、その点でもこのイベントとの相性がよかったのではないでしょうか。
一方、カップルのためのイベントである「バレンタイン」や「クリスマス」の市場は、かつて若者の間でおおいに盛り上がりましたが、現在、明らかに縮小傾向にあります。これはまさに、過去と今とでの若者の男女関係の変化を映し出していると言えます。

ハロウィーンの他にも、「エナジードリンク」など、若者中心の市場はまだまだたくさんあります。若者の消費が「モノ消費」から「コト消費」へ移行していたり、使われる金額が低額になっていたりするため、インパクトが弱く、見えづらく、気がつきにくくなっているだけなのです。そのため、若者たちは実像以上にお金を使わないイメージが持たれやすいのですが、実はそれは誤解なのです。

堅実でビビりな今どきの若者の 「低額チョコチョコ消費」

──最近の若者の消費行動の特徴を教えてください。

昔の若者が「高額単品消費」だったのに対し、今の若者は「低額チョコチョコ消費」が特徴です。
高額単品消費というのは、たとえば、車を買うために、他の出費を切り詰めたり、一生懸命アルバイトしてお金を貯めたりして買うといった行動を指します。一方、今の若者の低額チョコチョコ消費は、必要な時に、高額なものではなく身の丈に合ったものを買うという行動を指します。

こうした消費行動は、彼らが30代、40代、50代と年齢を経たときにも、ある程度、継続されると考えられます。経済学においても、不景気な時期に思春期を過ごすと、その時のメンタリティーが大人になっても抜けないという研究結果があります。これと同じような現象が、今の日本の若者にも現れるのではないでしょうか。

もちろん、社会人になって、結婚をし、子供ができたときには、車を買う人も出てくるとは思います。しかし、それはあくまでも必要性と、ある程度の金銭的余裕が出てきた結果としての行動といえます。
そもそも大人になったら車や家を買うのが「当たり前」という、かつての若者のような感覚が、今の若者においては大変希薄になっています。同様に、「高ければ高いほうがいい」とか、「ブランド品がほしい」という感覚を持つ若者も、きわめて少なくなっています。
よく言えば「堅実」、ネガティブに表現するなら「ビビり」な消費スタイルが、今の30歳くらいまでの若者には染み付いているのです。

こうした嗜好やメンタリティーを経営者は理解しておかないと、若者の支持を獲得するのは難しいでしょう。
経営者は景気がよくなると、高額なものが売れ出すと期待しがちですが、その発想のまま進んでしまうと、判断を大きく間違えます。
そもそも、今どきの若者が、景気が良くなったからといって、スポーツカーやブランド品を欲しがるようになるとは思えません。なにせ、今の若者は、自分にとって必要なものにはお金を使いますが、「ミエ」のためにお金を使うのは「ばかげている」と考えているのですから。