昨年末、SPA博報堂(博報堂のタイ拠点)、クリエイティブ集団SIXがタッグを組んでローンチしたキャンペーン「Obsession for Smoothness」(得意先:タイの製紙メーカーDoubleA社)は、世界初の“ペーパ―プロジェクション・マッピング”を動画で実現し、多数の海外広告賞を受賞しました。
大量のカラーペーパ―が、リズミカルにプリンターから吐き出される印象的な映像をご覧になった方も多いのではないでしょうか? CDを務めたSIXの齊藤迅に、その制作にまつわる話や、クリエイターとしての想いについて話を聞きました。

おもしろいモノ、コトを起こすことで、新たな価値を創り出したかった

―博報堂に入社したきっかけは?
学生時代は、小説を書くゼミと、楽器をつくるゼミにいました。博報堂のクリエイター職につけば、ストーリーやモノを発明することが続けられると思ったんです。

―最初はCMプランナーとしてスタートしたのでしたね
2002年に入社し、CMのストーリーづくりをしていたのですが、モノづくりをしたいという気持ちが徐々に強まっていました。
広告や博報堂をとりまく環境も、CM一辺倒から、モノやコトを起こし、それをニュース化して、価値をつくりだしていく手法が模索され始めていました。デジタル技術が浸透し、面白いできごとやモノがあれば、自然と拡散するようになっていましたね。自分がやりたいことの環境が整備されはじめたと感じました。

―SIXとの出会いは?
間もなく「エンゲージメントビジネス局」という組織が発足しました。多種多様なコミュニケーション領域に従事してて、エンゲージメントで人を動かすことを得意とする人達が集まった感じです。一緒に仕事をするうちに、同世代でグループを作りたいということになり、6人のクリエイター+1人のビジネスプロデューサーで株式会社SIX(http://sixinc.jp/)を2013年に立ち上げたんです。
以来、デジタル領域を武器に、ブランドとユーザーの新たな絆をつくる「クリエイティブエンゲージメントエージェンシー」として、既存の手法にとらわれない新しいコミュニケーションや、コンテンツ、商品・サービスの開発を行ってきました。

「企画」はスムーズ!「実現」までは3年間という年月

―齊藤さんが手掛けた「Obsession for Smoothness」は、昨年末から今まで、博報堂グループに最も多数の広告賞をもたらしました。獲得の背景と制作エピソードをお聞かせください。

2014年まで遡るのですが、「Double A」はタイ発の製紙メーカーで、世界137か国以上でビジネスを展開しています。タイとフランスに工場を持ち、アジアの一部ではトップシェアのプレミアムペーパーブランドです。プリンター等で紙詰まりをしない紙のなめらかさが特徴で、長い間 “No Jam No Stress” というスローガンを通じてアピールし、CMも作っていました。
まずはじめに、「紙の市場全体が低迷傾向な中、紙の素晴らしさや価値を改めて伝えたい、スムーズな紙の質感をもっと世界中に幅広く知ってもらいたい」という課題に基づいたキャンペーンが競合ピッチにかけられました。アジア各地からエージェンシーやクリエイターが呼ばれ、博報堂のタイにおける統括会社である博報堂アジアパシフィックからSIXと、タイの拠点SPA博報堂に声がかかったというのが始まりです。

僕らは、コトバで伝えるより、動画の中で、紙がスムーズにプリンターから出続けることを表現したエンターテイメントを創ろうと思いつき、ミュージックビデオの中で、ダンスとシンクロしながら紙が出る動画をつくってはどうか、と提案したところ、得意先の社長とBranding Committeeが「面白い!」と盛り上がってくださって、採用が決定しました。
ここから 「世界初のペーパー・プロジェクション・マッピングー567 台のプリンターから出力される色鮮やかな用紙が表現する演出が見どころの作品―」実現への長く険しい3年間の始まりでした(笑)。

まずビッグスターであるアメリカのバンド「OK Go」とのコラボとなりました。そして、OK Goから、この実現には真鍋大度さん(Rhizomatiks Research※)とぜひ一緒にやりたいという話がでました。僕個人的にも真鍋さんは以前にもお仕事をしていてとても楽しくいい仕事が出来たので、是非に!という感じでした。
他にも振付にMIKIKOさん、監督はCaviar 田中裕介氏と OK Goの ボーカル・リーダー Damian Kulashという2名監督体制で臨みました。ほんと、豪華なメンバーでした(笑)。

※技術と表現の新しい可能性を探求するRhizomatiksの一部門。
メディアアート、データアートといった研究開発要素の強いプロジェクトを中心に扱い、まだ見たことのないモノ・コトを世の中に発表していく。ハード・ソフト開発からオペレーションまでプロジェクトにおける全ての工程に責任を持つ。また、人とテクノロジーの関係について研究し様々なクリエイターとのコラボレーションを実践していく。
http://research.rhizomatiks.com

―どんなところに一番苦労しましたか?
アイデアまでは比較的スピーディーに、スムーズに行き着いたのですが、そこから実際に稼働させる段階で、果てしない研究に次ぐ研究の日々が待っていたことです。
プロジェクト発足が2014年12月。試行錯誤で実に3年間にわたりました。企画や制作にかかわる打ち合わせ等は日本とタイ間をSkypeで、OK Goとの交渉やすり合わせは日本時間の早朝か深夜に英語で、クライアントへのプレゼンや打ち合わせはタイ語と英語で、という感じ。その間、さまざまな事情で中断したこともありました。

―企画はすんなり、実現するのは何倍もの苦労、というプロジェクトだったんですね。
アイデアと実現性、それをどのように効果的に撮影するか、その3つの視点がつねに兼ね合いとなっていました。紙の制御、人の動き、音楽、その中の何か/誰かのタイミングが狂っただけですべてがダメになるというものすごい緊張の中で、緻密な計算と、観る人を飽きさせないための膨大なアイデアをとりいれて実現しなくてはならない。それでもとにかくダミアンからの指針である「映像の面白さがどんどん加速していく感じで、5秒に1回新しい驚きを与えよう」というのを実現しようと頑張りました。真鍋さんが担当したシステムづくりが本当に大変だったと思います。

受賞でさらにDouble Aのグローバルの知名度UPに貢献

―この映像はカンヌライオンズで金賞になりましたね。
得意先はとてもクリエイティブが好きなので、まず受賞に喜んでくれました。また、Double Aはカンヌライオンズというグローバル規模の広告祭で受賞したことで、アメリカへの進出のさらなるブースターになったようで、とても良かったと思います。

―広告賞だけでなく、「サウス・バイ・サウスウエスト※1」でも「Lyric Speaker(リリック・スピーカー)」で、アジアで初となる賞を受賞なさっています。このスピーカーについて改めて教えてください。
自社製品をつくる構想はずっとあり、リリックスピーカーはそのひとつでした。エンタテインメント性が高い一方で、社会課題を解決するテーマ型ビジネスであるという点が、ブランドとユーザーの新たな絆づくりをめざすSIXらしい業務だと思っています。
音楽はダウンロード時代が到来して、昔に比べて聴くこと自体はすごく簡単になっている。しかし一方で歌詞カードが消えましたよね。でもミュージシャンとしては、歌詞をもっときちんと伝えて、リスナーと深いコミュニケーションをしたいという想いがあり、歌詞をもっと知りたいというリスナーもいる。そういった潜在的な欲求を叶えるため、クリエイティブとUXで新しい音楽体験を提供するプラットフォームのつもりで作りました。
音楽=データだから、聴き方に様々な掛け算があり、それぞれ全く違う感動の仕方がありますよね。だから昔から聴いている曲でも、リリックスピーカーで聴くと、今までにない全く違う楽しみ方をして貰えるんです。

Lyric Speakerは、音楽と同期して歌詞が表示される次世代型スピーカー。
モバイル端末から好きな音楽を選曲して再生すると、スピーカー・一体型透過スクリーンに、歌詞が自動生成された美しいモーショングラフィックで表示される。 音楽のデジタル配信の浸透の一方で、これまでのレコードやCDにあったような歌詞カードの需要が減り、“歌詞をじっくり楽しむ”機会が減少している昨今、歌詞をより楽しむためのプラットフォームとして博報堂から販売され、好評を博している。
(2015年販売開始)

リリックスピーカーが、サウス・バイ・サウスウエストのアクセラレーター・コンペティションで「Best Bootstrap Company」※2を受賞したことで、客観的に評価され、製品そのものへの期待値はすごく上がり、実際の販売に結びついたことはすごく大きかったです。海外のお客さんからの信頼を得る一歩にもなったと思います。

※1 テキサス州オースティンで開催される、音楽祭・映画祭・インタラクティブの3領域を中心とした世界的なアートイベント・カンファレンス
※2 起業して間もない世界中の企業が革新的な製品やサービスを観客の前で披露し、審査員によって公開審査される。べンチャービジネス投資家やテクノロジー専門家である審査員が、クリエイティビティや独自性、製品化の実現性、収益構造などの観点で審査する。

―今後、齊藤さんが何か取り組んでみたい領域はありますか。
歌詞のビジュアライズの深堀りを今後もしていこうかなというところですね。たとえばリリックスピーカーのソフトをミュージシャンにライブで使ってもらうとか。いずれにしても、引き続き音楽とデジタルを掛け算し、新しい音楽の楽しみを作っていけたらいいなと思います。

~「Obsession for Smoothness」主な受賞~
◆ニューヨークフェスティバル2018

【フィルム-CINEMA / ONLINE / TV部門】サブカテゴリー:Business Equipment & Services 金賞
【ブランデッド・エンタテインメント部門】サブカテゴリー:Best Production Value 銀賞
【ブランデッド・エンタテインメント部門】サブカテゴリー:Business Equipment & Services 銀賞
【デジタル(サイバー)・コミュニケーション部門】サブカテゴリー:Video 銅賞
【フィルム部門】サブカテゴリー:Art Direction 銅賞
【フィルム部門】サブカテゴリー:Best Production Value 銅賞

◆アドフェスト(アジア太平洋広告祭)2018
【フィルム・ロータス部門】サブカテゴリー:INTERNET FILM: FINANCE, COMMERCIAL PUBLIC SERVICES, BUSINESS PRODUCTS & SERVICES 金賞
【フィルムクラフト・ロータス部門】サブカテゴリー:SPECIAL EFFECTS: IN-CAMERA 銀賞
【インタラクティブ・ロータス部門】サブカテゴリー:VIRAL VDO 銀賞

◆カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2018
【デザイン部門】サブカテゴリー: Digital Installations & Events 金賞
【デザイン部門】サブカテゴリー:Social Engagement 銀賞
【フィルム・クラフト部門】サブカテゴリー:Production Design / Art Direction 銅賞

齊藤 迅(SIX)
Creative Director / Music campaign director

広告の枠をとっぱらい、商品やサービス開発、最近では音楽を中心としたブランデッドエンターテイメントキャンペーンを得意とする。また、ギタリストとして横浜のアーバン&メロウなレーベル、PPPことPAN PACIFIC PLAYAに所属。