日本は今、「女性活躍推進」「働き方改革」のまっただ中。その流れを受けて、こそだて家族の働き方、暮らし方も大きく変わりつつあります。しかし、そこはまだまだ過渡期。大小様々なトライ&エラー(という名のバトル?!)を、企業や家庭の中で繰り返しながら、ちょうどいい折り合い所を模索しているところではないでしょうか。
ほどよい時間で、ほどよい仕事量で、ほどよくやりがいもあって、ほどよく効率的にできる仕事。
パパやママが働きながら、ほどよく家事も育児もシェアする家庭。
そんな理想の世界が本当にあるのでしょうか?
そこで、こそだて研では世界に目を向けて、ヒントを探してみることにしました。もちろん国が違えば行政の制度も違う、文化的背景も違う中で、丸ごと真似をすることはできないですが、そこには何かしらの発見、学びがあるハズです。
近所のママ友との井戸端会議にも「へ~、ほ~」はあるのですから!
世界のこそだて家族と井戸端会議。
前回のイタリア篇に続き、今回は、上海に22年間在住している、Yokoさんを取材。
一人っ子政策の廃止や、デジタル産業の急速な発展といったうねりの中で、こそだて家族を取り巻く環境も大きく変わりつつある上海。時代に合わせて“大きく変わろうとしている価値観”と、逆にそれでも“変わらない価値観”が見えてきました。

発展目覚ましいデジタル産業!チャイニーズドリームの恩恵はこそだて中のママにも

「ここ数年のデジタル世界での発展には、本当に目を見張ります。アメリカンドリームではないですが、チャイニーズドリームならぬ、新たなサービスや事業がどんどん創造されています」と、上海のデジタル産業の勢いを伝えてくれたYokoさん。実際にこそだてをしている中でも、新しいデジタルサービスを活用する場面が多々あるそうです。
特に頼りになるのは、「デリバリーアプリ」。牛乳1本でも、注文してから20~30分で自宅まで届けられ、オムツ等の日用品も全てデリバリーアプリで購入して、電子マネーで支払って終了と、買い物にかける移動の時間や手間が、大幅に削減されています。小~中学生がいる家族にありがちな、夜、突然子どもが「明日学校でこんなノートが必要」と言いだした!というシーンでも、アプリで必要なものの写真をとって買い物代行をお願いして解決、という事も。もう一つ、子ども達の送迎に便利なのが「配車アプリ」。サービス登録すると、子どもがいる場所がリアルタイムで送られてきて、両親も安心できます。特にここ3年ほどの中国の変化はすさまじい模様で、Yokoさんが日本に一時帰国した際には、「不便を感じるほど」だそうです。

嫁・姑ではなく、祖父母も含めてみんな「家族」

発展目覚ましい上海において、変わらない価値観として見えてきたのは、日本とはちょっと違う「家族観」と、「言いたい事は我慢しない文化」です。
Yokoさんによると、中国では、結婚したら夫婦だけでなく、祖父母も含めてみんな「家族」、という意識が一般的。そのため、嫁姑の距離も近く本当の自分の親と同じ、という感覚のようです。子供の面倒は夫の両親(姑)がみる事が多く、家事も育児も全てお姑さんがして、お嫁さんは働いているのだから何もしなくて良い、ということも多々あるそうです。平日は子供を姑さんの家に預けて週末だけ子供と過ごす、もしくは全日制の幼稚園に入れて週末だけ一緒に過ごす、経済状況が許せば家事や食事、子供の世話などお手伝いさんに任せている家庭も多いそうです。母親一人に家事育児の最終責任が集中しがちな日本とは、全く異なる環境です。
親戚との関係も日本よりとても濃く、従兄弟のことを本当の兄弟のように慕っている人も多いそうです。日本の感覚を持ったYokoさんから見ると、「ものすごく愛情深い」と、羨ましく感じるほどだとか。
夫婦関係においては、「喧嘩してでもお互い言いたいことを我慢しない」というのが中国流。日本人だったら一生修復できないほどの罵倒大会の喧嘩など、見ている方がドキドキすることも多いのですが、終わって納得すれば笑顔で終わり。「家族だから言いたいこというのは普通じゃない?」という感覚だそうです。夫婦問題に限らず、文化の違いという事もあり、日本から来ているYokoさんは「日本人は何もかも我慢して言いたいことも言えずに疲れないの?」と良く聞かれるそうです。

どのような家庭でも、産後のママは絶対に1人にしない「月嫂(ユエサオ)」の存在

上海のママ達はどのような子育てサポートが受けられるのでしょうか?Yokoさんによると、中国には「坐月子(ズオユエズ)」という風習があり、出産後1ヶ月、産後のママ達は水に触らず、家事も何もしないで、鶏肉や魚など栄養のあるご飯を食べて、ひたすらベッドで静養する習慣が今でもあるそうです。日本でも「産後の肥立ち」など同様の考えがありますが、中国の方がより徹底している印象、との事。産後のケアが、その後の女性の健康にとって一番大事という考えが、子どもを産む母だけでなく社会全般に定着しており、授乳以外は全て姑さんか「月嫂(ユエサオ)」という出産直後の赤ちゃんのお世話をする人にしてもらうのが、一般的だそうです。ここでも、存在感を発揮するのが「姑さん」。日本では妻だけが実家に帰省して出産し、実母に産後1カ月ほどお世話になるというケースはよく聞きますが、姑さんにお世話になるというのはまれではないでしょうか?また、「月嫂(ユエサオ)」という、産後のサポートを専門としている人の存在も、日本にはあまりなじみがありません。中国のこそだて環境を知ったYokoさんは、「日本でも、もっとサポートを受けられる体制があれば、ママの精神衛生上どんなに良いことか。中国では、産後のママのサポートだけは絶対に誰かがしてくれる環境が整っています。」と、力強く教えてくれました。

世界を向く上海のママ達

中国では、人口に対して大学の数が少ないので、とにかくまずは良い大学に入ることが目標とされ、競争は熾烈を極めています。特にこれまでは、貧しさから脱却するには、良い大学に入って良い条件で働くことしかなかったのが現状でした。ただ最近は、学歴だけが絶対という風潮は日本と同じく揺れてきているそうです。良い大学を卒業しても就職できない若者の存在や、一方で学歴に関係なく、ゲーム業界などで起業して大成功している若者の存在が浮き彫りになり、「学歴だけが全てではない」、という考えも拡がりつつあるそうです。
裕福な家庭の子どもは、アメリカやイギリスの一流大学を目指しており、小学校や中学校を卒業すると子どもの教育のために海外へ移住する、もしくは母子だけで海外へ行くといったご家庭も多くいるそうです。「教育に関しては、グローバルな視点を持っている親が日本よりはるかに多い印象」とYokoさん。子供の未来を考えると、急成長中の上海でダイナミズムを感じながら、グローバルに視野を開いて子育てできる事に、魅力を感じているそうです。

上海で未来へ羽ばたく子供達

日本のママ達も「楽(らく)」して「楽(たの)しんで」ほしい

最後に、日本のママ達へのメッセージを求めると、「日本のママ達も「楽(らく)」して「楽(たの)しんで」ほしい」と答えてくれたYokoさん。
上海は特に女性が強く、男性が優しい文化という事もあり、パパはママが楽になるように自分も手伝うし、自分ができないのなら積極的に外部に頼むそうです。日本だとどうしても両親や外部に頼むことにパパが抵抗があったり、女性も自分でやれることをやらないことに後ろめたさを感じがちですが、上海では「子育てはママ一人が行う」という概念がそもそもないので、ママ本人がそれで後ろめたさなど感じることさえないとの事。そういう環境ですので、上海でお子さんを2人、3人連れて一人で頑張っている日本人ママの姿は街でとても目立つようで、日本のママは本当に何もかも一人でしてえらい!すごい!私には無理だわ。」という反応をされるそうです。
上海在住直後は、日本式こそだてが頭にあり、罪悪感を持つことも多かったというYokoさんですが、やがて「楽(らく)=楽しい」、と同じ文字ですので、積極的に楽をして楽しめばいいんだ!と思い始めたそうです。

いかがでしたでしょうか?今の上海のエネルギー溢れる様子と、日本とは一風異なる中国ならではの「家族観」が垣間見えたのではないでしょうか?少しでも日本のママ達も楽になれるように、知恵を絞っていきたいと思います。

牧 志穂(まき・しほ)
博報堂 PR戦略局コーポレートPR部・こそだて研究所主要研究メンバー

2000年博報堂入社。2004年よりPR職として、多数のマーケティングPRや企業広報活動サポート、トップエグゼクティブ向けのコミュニケーショントレーニングに携わる。2009年に長女、2014年に長男を出産。2回の産休・育休・職場復帰、育児と仕事の両立・小1の壁など、育児を中心とした様々な経験を活かして、こそだて関連ブランドのPRにも多数関わっている。