前列左から:酒井 順子さん(エッセイスト)と、「博報堂キャリジョ研」のメンバー:戸澤 和(第一プラニング局) 後列左から:長谷川 佑季(広報室)、松井 博代(アクティベーション企画局)、信川 絵里(第一プラニング局)

社会現象にもなった『負け犬の遠吠え』の著者である酒井 順子さんは、男女雇用機会均等法施行から3年後の1989年に総合職として博報堂に入社しました。いまどきの働く女性の実態を、バブル全盛期のキャリア女子 酒井さんと「博報堂キャリジョ研」との対談から探ります。

今回博報堂キャリジョ研を代表して参加したのは、25歳〜34歳(松井 博代、長谷川 佑季、戸澤 和、信川 絵里)の独身女性4名。中には『負け犬の遠吠え』を卒論の参考文献にしていた、というメンバーもいて、「憧れの芸能人に会う感じ!」と少し緊張気味に対談がスタートしました。

バブリーな買い物より、「チルしよう」

松井 博代(キャリジョ研)

松井:
私はあらためて『負け犬の遠吠え』を読んでちょっとドキッとさせられたというか、いろいろ考えるところがありました。

長谷川:
少し前に出された本という印象だったんですが、今でも全然変わっていない状況だなと、あらためて名著だと思いました。

酒井:
ありがとうございます。まぁ、変わってなくていいのかという話はありますけど(笑)。みなさんが研究されているキャリジョには、年齢の定義があるんですか?

松井:
目安として20~34歳の働く女性で、子どもがいないこと。あと、調査をする場合は年収200万以上というのを基準にしています。

酒井:
その層を「キャリジョ」と定義して調べようと思ったきっかけというのは?

松井:
消費ターゲットとして考えたとき、ある程度自分のために時間とお金を使えるこの層が狙い目なんじゃないかというのと、我々自身がそうだというのもありました。みんな何らか女性ターゲットの仕事を抱えていたので、その知見を生かしていこうということでスタートしたのが経緯ですね。

酒井:
実際、その層は結構購買力ある感じですか?

松井:
そうですね。時系列で比較しているわけではないので、昔に比べて高まっているかどうかはちょっとみえていないのですが。

酒井:
購買力といえば私たちバブル世代というイメージがあるじゃないですか。ブランド物を買うとか、何かというとホテルに行くとか、そういうバブル消費みたいなことを延々とやって、消費の牽引役をずっと担わされているという感覚が‥‥。

戸澤:
私の周りはブランドバッグとか高級スポーツカーとか、わかりやすいバブリーなものを買うというより、どちらかというと買い物よりも「チルしよう」みたいな体験が流行っています。

戸澤 和(キャリジョ研)

酒井:
「チル」って?

戸澤:
CHILL OUT(チルアウト)の略で、ゆったり、まったりするという意味です。

酒井:
氷河期時代からのまったりの動きは、今もずっと続いているのね。

信川:
そうですね。ただ、それしかできないから仕方なくまったりするというよりも、自ら進んでまったり過ごす、みたいな。例えば海に行っても、ワーッとテキーラ飲むとかではなく、恋人とか少人数で無理しない程度にお酒を飲みつつ、何か語り合うのがクール、みたいな消費がきていると思います。

長谷川:
気取らなくてもかっこよく見せられるっていう余裕を見せたいんですよね(笑)。

頑張りすぎず、全部ほどよくやりたい

エッセイストで博報堂OG、酒井 順子さん

酒井:
でも、例えば家の中ではダサイ服、ではないわけでしょう?

松井:
やっぱりそこはSNSの影響が大きいですよね。以前キャリジョの消費行動で取り上げたものに「ごっこジュアリー消費」というのがあって。ホテルで女子会とか、リムジン女子会とか、ラグジュアリーで写真映えもする遊びをやるんですけど、やっぱり日常じゃなくて「ごっこ」なんですよね。決して贅沢が楽しいわけじゃなくて、堅実な普通の生活、丁寧な生活みたいなのが大事にされているんじゃないかと。

酒井:
20代で丁寧な生活…(笑)。

長谷川 佑季(キャリジョ研)

長谷川:
バブルへの憧れが強いというか、バブルリバイバルみたいな生活をする人も一部残っている気もしますね。最初の車に高級車を買うとか、何かといえば「ホテルでアフタヌーンティー」をしたりとか。

酒井:
ベースはまったりだけど、たまにはバブルプレイをして、ということなんですかね。

戸澤:
たぶん、全部「ほどよくやりたい」と思っているのかなと。頑張りすぎないし、欲も見せすぎない。そこそこ全部やるけれども、どこか余裕のある人が“イケている人”何だと思います。

いまも根強い、いわゆる「三高」意識

酒井:
働く女の腹の底』でもおもしろいなと思ったのが、インスタにあげる写真は、すごく派手なものよりも、後ろ姿とか自然体なものがいいという…。それが今っぽいという感じですよね。でも、今でも商社マンと結婚するのが憧れなんだというのが意外でした。

松井:
志向性もかなり多様化していて、どこを目指すかは人それぞれだと思うんですけど、それでもちょっといい人をねらいたいみたいなのは根強くあると思います。いわゆる「三高」的なものも、なくなっているようで、まだまだ根強い。本の中にマッチングアプリの話を書いたのですが、そういうニーズがあるということは、ある程度の条件をみんな必要としているからだと思うんですよね。今はもうビッグデータの時代なので、職業も年収も身長も効率的に絞り込んで探してしまおうみたいな流れが。

酒井:
「三高」って私たちの時代からあった言葉ですけど、何でも自分よりちょっとでも上の男性がいい、という感覚はみなさんにもありますか?

信川:
総合職女子はやっぱりそうですね。ちょっと前の世代は、何とかして玉の輿という意欲だったかもしれないのですけど、今の私たちは高学歴化も進んでいるし、最低限自分たち以上は当たり前という意識があるかもしれません。

信川 絵里(キャリジョ研)

酒井:
本当なの!?衝撃(笑)。

松井:
いくら女性の社会進出が進んでも、家計の主軸は男性、という価値観はやっぱり変わってないのかなと思って。私たちも仕事は頑張るけど、家に帰ったら何となくごはんをつくってあげたいみたいな。酒井さんが書かれた『男尊女子』は、わかるなぁ〜と思いました。

長谷川:
対等に稼ぐというよりは、生活費は男性が稼いで自分たちが働いた分はほぼ全部お小遣いにしたい!というような意見も周りではよく聞きますね。

酒井:
そうなんですね。今日ここに来る前に思っていた仮説とは全然違う…。
私はみなさんのようなイマドキ女子は、男性にまったく三高なんて求めていなくて、「男なんて私が食べさせてあげるわ」ぐらいの価値観だと思っていました!

後編に続く!
後編ではキャリジョの恋愛観・結婚観をさらに深掘りします。

酒井 順子(さかい じゅんこ)

1966年東京生まれ。学生時代よりエッセイを執筆し、立教大学観光学科卒業後、博報堂勤務。1992年に退職後、執筆に専念。2004年「負け犬の遠吠え」で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。「男尊女子」「地震と独身」「子の無い人生」「源氏姉妹」「ユーミンの罪」など著書多数。
最新作「百年の女 – 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成」が好評発売中。

働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方

著:博報堂キャリジョ研
ページ数:226ページ
定価:972円(税込)
発行:株式会社光文社
書店発売日:2018年4月16日(月)
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