博報堂行動デザイン研究所では、年中行事・歳事の消費行動についてリサーチを続けています。
その前提には人の行動に関する二つの知見、①「人は一度定着した習慣を自分からは中止しにくいもの」、 ②「人は出費などコストの伴う消費行動にいちいち言い訳を求めるもの」、があります。
生活に定着した行事歳事は、不要不急の支出行動に格好の言い訳を与えてくれます。「みんながやっているから」は非常に強い行動の動機です。特に日本人は年中行事歳事を「ご馳走を食べる」など物質的快楽享受の機会ととらえる傾向が強いことがわかっています(参照:行動デザイン研究所自主調査「各種行事に対するアジア人の意識/行動調査」2015年10月15日)。ハレの日にはちょっと贅沢なご馳走がつきもので、逆にご馳走と結びついていない行事は祝われる率が低く、他のもっと楽しい行事に淘汰されていく可能性があります。

近年、日本でハロウィンやイースター、あるいはブラックフライデーといった西洋輸入型の行事が目立ちます。様々な企業が消費活性化の機会として仕掛けてきた効果が出ているとも考えられますが、大きな意味で生活文化が不可逆的に洋風化しているという見方も可能でしょう。一方で、生活者の財布と時間は有限ですから、こうした新しい催事が盛り上がると昔からあった行事習慣はそれに座を奪われ、衰退していきます。日本古来の農耕暦と結びついた二十四節季なども「絶滅危惧種」です。特に若い世代にとってその意味がぴんとこなくなっているのだと思います。

もうすぐ土用の丑の日です。今年は7月20日と8月1日の二回。二回あるのは夏の土用(例年約18日間)の間に、12日ごとに巡ってくる「丑の日」が重なるからです。土用は五行思想(木火土金水)の「土」から来ており、四季の最後の五分の一が「土」に当てられているため土用なのですが、現代人にとっては五行も毎日の干支ももはや意味を理解している人は少ないのではないでしょうか。それでも、これだけ夏の土用の丑の日の認知が高いのは、鰻というちょっと贅沢な「ご馳走を食べる日」になっているからです。

夏の土用に日本のほぼ半分の世帯が鰻を食べると言われています。家計調査でも鰻の需要は夏の土用の丑の日に集中しています。この習慣は江戸の平賀源内が普及させたという説が有力です。もともと鰻の旬は冬でした。非需要期であった夏場に新しい需要をつくり出すのは並大抵のことではありません。
そういう意味では平賀源内は元祖「行動デザイナー」だったといえます。ただその行動デザインが効きすぎて、ある一日に需要が一極集中してしまっていることは、持続的な資源保護という観点からもあまり健全とはいえないでしょう。「春土用」「冬土用」など他の時期に鰻を訴求して需要を平準化することも一つの対策になるかもしれません。近年、鰻の資源危機が報道されていますが、もし鰻が食べられなくなってしまったら一緒に「土用(の丑の日)」も早晩、忘れられしてしまう可能性が高いと思います。

もともと日本には梅干しや瓜、牛肉など「う」のつくものを食べる、「丑湯」といって薬草を浮かべる、海水を汲んだお風呂に入るといった健康行動習慣が存在しています。こうした四季折々の生活を健康に楽しむ日本古来の知恵も、西洋輸入型の行事に負けずに頑張って欲しいものです。もう一歩踏み込んで考えれば、年4回ある「土用の丑の日」を、美味しく食べたりお風呂につかって健康を楽しむ季節催事(商戦)として復活、再活性化することも、消費活性化の一助になると思います。鰻以外の食材や、丑湯用の入浴剤などにも年4回の新たな販促チャンスが生まれるでしょう。

こうした趣旨で、行動デザイン研究所でも年4回の土用の丑の日を未来に伝え、消費行動活性化に結びつけるべく「土用の丑の日プロジェクト」を研究所の自主取り組みとして進めることにいたしました。ご興味のある方は行動デザイン研究所のホームページをご覧ください。