メディアの見方とソーシャルインサイトの導き方が理解できたら、いよいよ、マーケティング戦略を立てていくことになります。(前回までの記事はこちら。第一回・第二回)今回は、そうした分析を踏まえ、マーケティング戦略を策定するという時に、担当者がよく陥るトラブルと、その回避方法を紹介していきます。
では早速はじめます。
のっけから大問題ですが、実はマーケティングがうまく機能しない場合、ほとんどこの状態に陥ります。ですから、もっとも一般的なトラブルだと言えるでしょう。目的がわからなくなるトラブルは、原因毎にケース分けが可能です。順に見ていきましょう。
例えば、新商品を市場に投入する際などによく起きます。
目的は、数年以内にNo.1商品になることなのか、それとも新ジャンルとして今後じっくり育てていくための橋頭堡として、とりあえずは棚落ちしないことなのか。いつまでたっても定まらないというようなケースです。
わりと多いですよね。商品・サービスのローンチまでのスケジュールだけが組み上がっており、その他すべてがブランクのままという状態もよく目にします。
マーケティング戦略を考えながら商品開発をするのではなく、とにかく商品が先に出来上がってしまうプロダクトアウト型の場合に起こりがちな、「目的が書きにくい」というパターンです。
こういったケースでは、研究・開発を進めて行くにしたがって当初の目的やターゲットが変わってしまいがちになります。
そのため、製品ローンチのタイミングで、商品のポジショニングやターゲット、場合によっては商品の開発目的を再構成しなければならなくなります。
目的は「売れること」とされているのだけれど、具体的なマーケティングプランを検討するにあたっての数値目標や「どういう売れ方をしたらいいのか」という手掛かりになるような具体的な情報が何もない。そこで行き詰ってしまう、そういうケースです。
KPIおよびKGIの設定にかかわる問題です。もう少し突っ込んで言うと、KPIやKGIが大切なのはわかるけれど、それらをどう設定すればよいか見当が付けにくい場合と言い換えてもいいのかもしれません。新規事業や新商品など、新しい取り組みの場合は特に難しいと思われる方も多いと思います。
なぜか?それは、自社にも他社にもベンチマークすべき過去事例がないからです。
ですが、皆さんには今や「メディア分析」という武器があります。
メディア分析を通じて自社の過去の実績や潜在競合など、ベンチマークすべき情報に目星がついているはずです。
もちろん全く同じ条件の過去事例というものは物理的に存在しませんから、ベンチマークするべき過去事例と全く同じ結果は求められませんが、参考にすることはできます。
もしも数値目標や、どのような売れ方をすることが理想なのかというゴールイメージを具体化せずに先を急ぐと、良し悪しの判断基準がないまま闇雲に施策を考えることになります。
その場合、施策の採択基準は決裁者の「好き/嫌い」や「過去の経験」に強く引っ張られることになってしまいます。もはやマーケティングではないことは誰の目にも明らかですよね。
目的や目標を達成するために立てられた施策が、目的や目標から離れていってしまうことによって起こります。
目的→目標→戦略→戦術と順を追ってプランニングしたとしても頻繁に起きます。
例えば、「新商品を売るためには、ブランド認知や好意度を上げなくてはならならず、そのためにバズ施策を実施するのだが、バズ施策を実施することだけが決定事項となってしまい、商品を売ること自体がなおざりになってしまった」というようなプロモーション施策策定のタイミングで陥りがちなパターンです。
この場合、「ブランド認知や好意度の向上」→「バズ施策」という部分に問題があります。
確かにバズ施策は、認知や好意度を高めてくれるのですが、商品が売れるために上げなくてはならない認知や好意の中身に関して全く検証がなされていません。
どこのコンビニやスーパーでも手に入り、単価も安い商品であればよいのですが、そこそこの価格であるが故に購入に際して検討が必要な商品の場合、認知や好意は購入を後押ししてくれる材料となる必要があります。
どんな内容の認知が必要なのか、どんな要素に好意を抱いてもらえればよいのか、これらを踏まえずに立てたプランが目的や目標から乖離してしまうのは当然といえば当然なのです。
少し細かい話になりますが、割と見落とされがちかつよく目にするケースなので、敢えてケースの一つとして取り上げておきます。
担当商品のマーケティングプランとしては完璧なはずなのに、いざプランを実施してみると全然ターゲットが設計通りにコンバージョンしてくれない。というようなケースです。
第一回の時にも説明しましたが、生活者がある商品を評価する場合、その商品の情報だけでなく、発売元である企業に関する情報と併せて商品を評価します。
例えばA社がXという商品を出している場合、Xに対する評判は、A社の評判と切っても切り離せない関係にあります。仮にA社がYという商品でトラブルを起こしていたりすると、Xに対する世の中からの風当たりも強くなりますし、逆にYという商品が大ヒットしているならば、同じ企業の商品としてXに対する評価も高まるでしょう。
また、XがA社の主力事業とは異なる領域の商品であるならば、A社にとってXを発売・展開するビジネス上の意図を問われることになります。自社のビジネス構造を理解した上で、担当商品が自社のビジネスにとってどんな役割を果たすのか理解しなければ、いつまでたっても目的や目標が明確に定まらないまま時間だけが経過してしまいます。
さて次に、起こりがちなことです。
理論的にプランを組み立てていけばいくほど、至極当たり前な、提案性のないプランになってしまう。
これもよくありますが比較的簡単に解決できます。
マーケティングの4Pすべてに、打つべき対応策をしっかりと打った。でも、よく見たら、いつものマーケティングプランの焼き直しにしかなっていないことに気付いた。これまでのマーケティングプランの反省点を活かしたつもりなのに。というようなケースです。
最後は、きちんとマーケティング戦略を考えれば考えるほど先鋭化してくる頭の痛い問題です。
効果的なマーケティング施策がプランニングできるようになってきて、いざ実績を作れるようになってくると、「もっと良い結果が出せたはずなのに」という欲がでてきて、結果に対していい意味で妥協ができなくなります。Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)に関しては手を尽くしたのに、開発部門が主導権を握っているProduct(製品)の部分を詰め切れなかった不満や後悔が残る。というようなケースです。
マーケティングのためにソーシャルインサイトを探れば探るほど、潜在ニーズが見えてくるようになるのですが、潜在ニーズが見えれば見えるほど、商品として実売する際に製品に足りていない要素が目につくようになってきます。
プロダクトアウト発想の開発部門とマーケットイン発想のマーケティング部門との、哲学の違いによる摩擦と言い換えてもいいでしょう。
今回は、マーケティング戦略を立案する時に起こりがちなトラブルとその回避方法を、トラブルシューティングの形式で紹介させていただきました。
なお、3C分析、5C分析、4Pをどう考えるか、目的とはなにか、戦略とはなにか、など、マーケティングに関するそもそもの体系的な知識を補完したい方には、森岡毅(2016)『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』KADOKAWA/角川書店.を読むことをおすすめします。
次回は、なぜPR発想のマーケティングがワークしやすいのかについてご紹介し、この連載を終わろうと思います。
コピーライターとして2003年博報堂入社、2009年からPR戦略局所属。
ソーシャルインサイトを読むことで、課題の見えにくい新規事業やサービスの立ち上げ、定番商品のリバイタライズを行う。
広報、PR、広告、メディアプランなどのコミュニケーション領域だけでなく、販売戦略や商品ライナップ戦略に至るまで、PR発想のマーケティング施策を立案・実施。2004年TCC新人賞、日経BP広告賞受賞。
(PHOTO by 馬場道浩)