東京大学教養学部教養教育高度化機構と博報堂の次世代型コンサルティングチーム「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」が共催する、大学生のためのブランドデザインコンテスト「BranCo!(ブランコ)」。3~6人の学生たちがチームを組んで協力し、課題となるテーマについてさまざまな視点から調べ、考え抜き、魅力的な商品・サービスブランドのアイデアをつくりだして競い合うコンテストです。本企画を主催する東京大学大学院総合文化研究科教授 真船文隆氏と博報堂ブランド・イノベーションデザイン代表宮澤正憲が、2018年度の決勝(ファイナルイベント)を終えての感想、BranCo!を貫くコンセプトや将来像などについて語りました。

総勢168チームの頂点に立ったのは 面白くて勢いのある“理系的”プレゼンテーション

真船:もともと東京大学と博報堂ブランド・イノベーションデザインが連携して提供する大学生向けの授業プログラム「ブランドデザインスタジオ」の企画が動き出したのが7年前。そのプログラムを広く大学生に体験してもらうために、そのスピンアウト企画としてコンテストを開催したのがBranCo!の始まりです。今年でもう6回目になりますね。今年のテーマは「笑い」でした。

宮澤:過去には「嘘」「学び」「平和」などのテーマがありましたが、いずれにしても、皆が当たり前のように知っているけれどもあまり深くは考えたことがないもの、逆に言うと解釈次第でいかようにも表現できるような抽象度の高いテーマにする、という方針なんです。今年のテーマも学生さんたちとも一緒にブレストしながら決めたのですが、いまの日本って先行きが何となく暗い感じがするので、何か明るいテーマにしたいねという話をしていました。「最近笑ってないよね」といった話もあって、だったら少々ダイレクトではあるけど、いまの若い人が笑いというものをどうとらえているのかを考えたい、ということからこのテーマに決まりました。

真船:お陰様で今年は92もの大学から参加がありました。去年は70くらいだったので、かなりの増加です。北海道から九州まで幅広く、イベントのすそ野が広がっていることを実感しています。

宮澤:基本的には口コミやSNSで広がっているようですね。
今年の特徴が、友だちと一緒に来たわけではなくて一人参加の子が増えたこと。九州から来た子が一人だというので、その場で一人参加の人を集め、東京のチームと金沢のチームと一緒にやることになったり。そういうジェネレーションなのか、積極的な子はより積極的になっている印象です。

真船:確かにそうですね。
流れとしては昨年12月にキックオフセミナーとテーマ発表があり、今年2月の予選会では総勢92大学168チームから24チームに、さらにそこから4チームに絞っていきました。

印象的だったのはやっぱり優勝したチーム「ひょっこり班」。ポイントの一つは、SNSなんかでよく使われる「(笑)」はいわゆる愛想笑いに近い物であって、親密度が深くなればなるほど「(笑)」は減ってくるんじゃないかというのが、おそらく彼らの最初の気づきだった。それを深めていって最終的にアイデアにつなげたところがよかったですね。もう一つのポイントは、やっぱりプレゼンテーションの面白さ。京都大学と大阪大学の大学院生で構成されていたこともあって、関西らしい笑いの雰囲気を持ちつつ、しっかりしたプレゼンテーションスキルも持っていて、勢いのあるプレゼンテーションだったなという印象です。

ひょっこり班のプレゼンテーションの様子。
ひょっこり班のアウトプットは、「Waraby」といコミュニケーションアプリ。「(笑)」の使用状況から、新密度を測るというもの。

宮澤:エンターテインメント系のプレゼンテーションで、非常に上手でしたね。審査員も言っていましたが、緩急のつけ方もよかった。過去の例でいくと、テーマに真正面から向き合って勝負し評価されるパターンと、少しずらした視点からテーマをとらえ、インパクトのある内容で評価されるパターンとがあります。今年の優勝チームは後者のタイプで、最初は真正面から来るのかと思いきや、最後でちょっとずらしたところが面白かった。全体が非常にロジカルに構成してあって、グラフやデータを使って説得する感じなど、“理系”的で面白いアプローチでしたね。

真船:2位になった「くまのおばけ」も良かったですね。家族で笑いあった出来事を振り返ることで、小さい子どもが成長していく姿を記録していく。「笑い」を一種の家族のコミュニケーションととらえたものでした。勢いがあるというよりは、本当にいいものを時間をかけて真面目につくってきたというオーラがありましたね。

「くまのおばけ」のプレゼンテーションの様子。

宮澤:確かにそうでしたね。
それから印象に残ったのは、みなさんの制作物のスキルです。決して僕らには真似ができないセンスがあると思ったし、当たり前のように動画を盛り込んだり、CMぽいものまで作ってくる。また3Dプリンターでプロダクトを作るなど、テクニカルな知識とスキルに感心しました。

真船:あれはすごいですよね。

宮澤:それも、苦労して作ったという感じでなく、「前日ちょっと頑張ったらこんなのつくれちゃいました」という温度感。デジタルネイティブらしさを感じますよね。当初からみなさんプレゼンは上手でしたが、特にここ5~6年は社会人以上に上手。おそらく彼らは、そうやってどんどん世の中のテクノロジーを使って発信したり、自分の言葉で表現していく楽しさを知っているし、本当に好きなんですよね。

真船:そうかもしれませんね。やっぱり大学に入っても、期待するほどアクティブラーニング型の授業が少ないので、何とか機会を探しているといった感じはします。そこにかける情熱と熱量、時間が、年々増えているような印象が確かにある。去年やって予選落ちした子たちが再挑戦するというのもありますし、BranCo!の認知度が高まってきて、すそ野が広がることで、本当にやる気のある子たちが集まってきているという状況だと思います。

博報堂ブランド・イノベーションデザイン代表 宮澤正憲。

プロセスのクリエイティビティを学ぶ場としてのBranCo!

真船:アクティブラーニングということでいうと、中高における2020年に向けての教育改革ということはいろいろなところで言われていますが、大学に関しては実はあまり議論されていません。アクティブラーニングという言葉自体は認知されるようになってきましたが、難しいのが、じゃあそれで何をやるかという点です。すべての大学ですべての授業をアクティブラーニング形式にできるかというと、それも難しい。実際には黒板にチョークを使うような授業もありだし、ブランドデザインスタジオのような授業もやっぱりありだとは思うんです。

宮澤:確かにそうですね。いまはアクティブラーニングという言葉がバズワードのようになっていて、やや独り歩きをしているようにも思えます。アクティブラーニングとはあくまでも手段であって、まずは目的をクリアにすることが必要なのではないかと思います。

思うに、いまの教育には過去に視点を置いた学びが多い。でも本来はその知識を使って未来をどうするかも考えなければならないわけです。文系理系問わず、研究の領域でもビジネスの領域でも、結局必要なのは将来に向けて何かを考えたり生み出したりする視点。その際、いままでの知識を未来へ向けて能動的に再編成していくということがおそらく必要で、アクティブラーニングはその思考法を身につける一手法なんじゃないかと思うんです。

そういう意味で、BranCo!で教えているリボン思考という型はある意味破るためにある型ともいえる。あるいは将棋でいう定石のようなものかもしれません。それを知らなければ勝てませんが、知っていれば必ず勝てるというわけでもない。そういう型=思考法を知り、その適切なずらし方、外し方というものを本当は一番学んでほしいと思っています。

真船:そうですね。「なんでもいいから自由にやってね」というのが実は一番難しい。私自身は、ある程度型をつくって、その中に入りながら自分たちのオリジナルな考えを広げていくというトレーニングがある程度は必要だと思っています。授業では、毎回毎回のファシリテーションを博報堂の方々にお願いして、学生に対して「主役はあなたたちですよ」ということを繰り返し伝えていただきました。あくまでも、ある枠の中で、学生たちが自発的にいろいろと思考を巡らせるというプロセスが重要だと思うんです。

宮澤:そうですね。プロセスの設計とかプロセスのクリエイティビティって、意外と学ぶ機会がない。社会においても決まったプロセスに沿ってやるというケースが多いと思います。でもおそらく、いま研究でもビジネスでも問われているのは、プロセスそのものをどう設計するかということ。その点でのクリエイティビティが求められているのだと思います。

目指すは「企画の甲子園」! 駒場をアクティブラーニングの聖地にしたい

真船:これだけの数のやる気のある学生に対し、専門家が真剣に向き合っていくBranCo!のような取り組みは、大学単体では絶対にできないことです。その点で、これからも博報堂と協力し、継続的に進めていきたいプロジェクトです。宮澤さんも言われているけど、「企画の甲子園」として、「駒場を目指そう!」となってくれると嬉しいなと思います。

宮澤:本当ですね。BranCo!の輪がどんどん大きくなって、社会的なムーブメントにまで成長し、甲子園ならぬ駒場というアクティブラーニングの聖地にたくさんの人が集まるようになればいいですね。
本来的には、広告業界のような企画が当たり前の業界とは縁遠い方々に学んでいただくことを理想としています。学部や業界のジャンルに関わらず、一つの型を学んでいただき、それぞれの持ち場に帰ったときに何か新しいものを生み出してくれれば、とても意味があるのではないかと思います。それが広がれば、大げさかもしれませんが、世界に対してもクリエイティブでイノベーティブな日本というものを発信できるでしょう。

真船:今回優勝したのが京大と阪大の修士1年生ということも意味深いと思いますね。今後アカデミックに残ったり、研究者になっていくという中で、ああいった経験を経てから将来社会に出ていくのだと考えると、とても期待が持てる。

宮澤:本当にそうですね。将来的には中学の部や高校の部、社会人の部があってもいいと思う。ここから巣立っていった子たちが指導側に回るようになれば、また違った展開も考えられるかもしれません。これからも非常に楽しみですね。

なお、宮澤はブランドデザインスタジオでレクチャ―している思考法について、昨年書籍にまとめている。(『東大教養学部「考える力」の教室』)

真船文隆(まふね・ふみたか)
東京大学大学院総合文化研究科教授/教養教育高度化機構社会連携部門長

東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。液体の表面、原子分子の集合体であるクラスターを研究対象として、ナノ構造体のかたちと動きを原子レベルで明らかにすることを目的として研究に従事。2003 年に東京大学教養学部・大学院総合文化研究科に着任後は、東京大学の教養学部生の教育にも力を入れている。主な著書に『量子化学-基礎からのアプローチ』(化学同人)、『物理化学』(共著、化学同人)、『反応速度論』(共著、裳華房)、など。同時に教養学部附属教養教育高度化機構社会連携部門長として、博報堂との特別教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」のコーディネーションや大学生を対象にした発想コンテスト BranCo!を共催している。

宮澤正憲(みやざわ・まさのり)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局長/東京大学教養学部特任教授

東京大学文学部心理学科卒業。(株)博報堂に入社後、多様な業種の企画立案業務に従事。 2001 年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、ブランド及びイノベ ーションの企画・コンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーション デザイン」を立上げ、多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。同時 に東京大学教養学部に籍を置き、発想力とチーム力を鍛える授業「ブランドデザインスタジオ」 や大学生を対象にした発想コンテスト BranCo!を企画・運営するなど高等教育とビジネスの融合 をテーマに様々な教育活動を推進している。成蹊大学非常勤講師。 主な著書に『「応援したくなる企業・組織」の時代』(アスキー・メディアワークス)、『ブランド らしさのつくり方-五感ブランディングの実践』(共著、ダイヤモンド社)、『「個性」はこの世界に 本当に必要なものなのか』(編著、アスキー・メディアワークス)、など。