EVERY DENIMの染色を担っているニッセンファクトリー(株)のEVERY DENIM専用スペースにて。右から、EVERY DENIM 共同代表島田舜介さん、ブランドたまご編集部・竹本しおり。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第29回に登場するのは、瀬戸内を拠点に実の兄弟でジーンズづくりを手がける、「EVERY DENIM(エブリデニム)」共同代表、島田舜介(弟)さん。生産者と売り手と買い手が繋がり、共に創っていく、これからのブランドのあり方とは?消費の意識や業界構造の変革に挑む現役大学生(!)に、編集部の竹本しおりが迫ります。

生産現場に興味を持ってもらうために、「商品」をつくった

EVERY DENIM(エブリデニム)は、国産ジーンズの発祥地、瀬戸内で、ジーンズ好きの2人の兄弟が立ち上げたデニムブランド。クラウドファンディングでの資金調達やお客さんとのワークショップ、全国の人に会いに行く移動販売など、業界では珍しい活動に次々とトライし、全国にファンが広がっています。テレビ東京の番組「ガイアの夜明け」を始めメディアにも多数露出している、注目のブランドです。また、この兄弟はForbes誌が選ぶアジアを代表する30人の起業家にも選出されています。

EVERY DENIM の商品。(左)通常のストレッチ素材の5倍の伸縮性を持つ「Relax」19,440円、 (右)「ガイアの夜明け」でも取り上げられた、天然素材シルクの特性を生かした、光沢あるデニム「Brilliant」21,600円。

竹本:島田さんは、兵庫でお生まれになって、現在は岡山の大学に通われているとのことですが、そもそもこのブランドを立ち上げられたきっかけから教えていただけますか。

島田:ジーンズが好きなのは、幼少期からでした。父がビンテージのジーンズや革製品好きで。それをすごく大事にメンテナンスしながら使っているのを見て「かっこいいな」と思いながら育ったので、男の一品的な憧れをもっていました。

竹本:ジーンズは家にある身近なものであり、大切に使われているものだったのですね。

島田:はい。仕事にしようとは全然考えていなかったけれど、岡山に来て、偶然ジーンズのデザイナーをしている人に出会って工場に連れて行ってもらったんです。そこで、技術のすごさを見て、感動と尊敬の気持ちでいっぱいになりました。
でも僕が知らなかったみたいに、殆どの人はこの技術の価値を知らないんですよね。地元の人でさえも。しかも、聞くとコストの安い海外生産が増えていて、国内工場はどんどん潰れている。理屈ではなくて、素直にもったいないな、と思いました。当時驚いたのは、殆どの工場はホームページ(HP)を持っていないこと。情報社会を生きる僕からするとHPやSNSはあって当たり前だと思っていたので衝撃でした。そこで、ブログを通じて僕が工場を取材して配信していく活動を、文章を書くのが得意な兄を巻き込んで始めたんです。2014年12月のことでした。

竹本:工場の情報発信から始められたのですね。反響はいかがでしたか。

島田:僕たちの意図通りにはいきませんでした。僕たちは、地元の人や、一般の人に見て欲しかった。でも蓋を開けてみたら、ブログの閲覧者は業界の人だったんです。それは嬉しいことではあるけれど、本当にやりたかったことではない。今思えば、いきなり工場の取材記事に興味をもってもらうって難しいですよね(笑)。そこで、まず商品に興味を持ってもらった上で、それはどう作られているのか工場ツアー等で伝える方が、一般の人には伝わるのではないか、と考え直したんです。そこで、思い切って自分たちでEVERY DENIMという商品をつくることにしました。

竹本:ジーンズをつくりたい、という想いから商品をつくったのではなく、生産工場の技術を一般の人に知ってもらう手段として、商品を作る、という考え方だったのですね。面白いですね!

「誰とつくるか」がブランドの血液になっていく

竹本:そうして始められたEVERY DENIMですが、岡山のベンガラ(歴史的建造物の瓦などに使用されてきた顔料)で染めたジーンズやシルクのジーンズなど、商品自体もユニークですよね。商品開発のアイデアは、どこから生まれているのですか。

島田:僕たちは、工場の人やお客さんと一緒につくっています。商品開発の流れが、基本と真逆なんです。
普通は、デザイナーが全て製品企画をして、工場が言われた通りにつくる。でも僕たちは、ノウハウがすごく溜まっている工場の人と、技術起点で一緒にデザインを考える。お客さんともデニムってそもそも何なのか一緒に考える場を設けて、商品づくりに繋げています。
みんなを巻き込んでつくった方が、楽しいブランドになるんじゃないかと思うんです。

竹本:作り手、売り手、買い手みんなで商品をつくられているのですね。
今のお話を聞いて、直接の対話をとても大切にされているなと感じたのですが、何か意識されているのでしょうか。

島田:そうですね。ビジネスだとしても、僕は全て「人と人とのやりとり」だと思っているんです。殆どの企業は、工場を条件で決めていて、人付き合いをしてないんですよね。でも僕は、判断基準が人なんです。規模は小さくてもしっかり対話出来て、ものの作り方から自分たちの想いまで共有して歩んでいける方が、良いブランドをつくることが出来ると思っています。

対話を大切にする原点は、幼少期に覚えた違和感

竹本:人の顔が見えた付き合いは、大切だとは思っていても、強い意志がないと貫き通せないのではないかと思います。何か決意する出来事があったのでしょうか。

島田:なんだろう。あれかな、僕が子どもの時にすごく思い出に残っていることがあって。友達のA君は、10人の友達と一緒にいる時と、僕と2人で会った時の喋り方とか、性格が全然違ったんです。それが当時すごい衝撃で。その頃から、本音でのやり取りには1対1が大事だなと思っているので、今でも、工場の人やお客さんに対して、意識しているのかもしれないです。

竹本:それは、大きな企業にも示唆になる気がします。1対多というか、顔の見えない大勢に発信するんじゃなくて、目の前のあなたと会話するという意識をもつということですよね。

島田:そうです、そうです。意外とそこって抜けているんじゃないかなと思います。僕たちも、最初ターゲットを読み間違えて、痛感しましたから。
僕たちの作る商品は22,000円のジーンズだったので、立ち上げ当初のターゲットは、ジーンズにこだわりのある30-40代男性でした。だけど、全然売れなかったんです。むしろ買ってくれていたのは、僕らと同じくらいの若い世代で、ちょっと背伸びをして、良い一本が欲しいという人たちでした。自分たちの近い年代の方が、消費の仕方も、気持ちも理解できる。その時、いわゆるタ―ゲット設定といったマーケティングの理屈でやっていくよりも、目の前にいる人や、目に見えることにもっと重点を置いていこうと思いました。

竹本:理屈では正しいけれど、顔が見えていない人には届かない。子どものころのご経験とも繋がって、今のEVERY DENIMのお客さんとの向き合い方が生まれているのですね。

一体何にお金を払って消費するのか。買い物体験ごと変えていきたい

竹本:顔が見える人たちと対話していくのがEVERY DENIMらしさだということが分かってきたのですが、移動販売や、ゲストハウスでの販売など売り方も面白いですよね。売り方の工夫についても教えて下さい。

島田:最初は、僕たちメイド・イン・瀬戸内を売りにしていたんです。でも、そんなこと言われたって、単純に品質だけでモノを判断するのって難しいってことに気づきました。例えば、生産地は違うけど、同じ様なジーンズを並べて、どっちがいいとかって一般の人は判断つかない。でもそのジーンズがつくられるまでのストーリーが可視化されることで、一体何にお金を払っているのかがちゃんとわかれば、その価値を感じてくれる人っているんじゃないかって思うんです。だから、製品の品質だけを価値にして売らないということは意識しています。

竹本:たしかに、何にお金を払っているのかって、ようやく食材とかは少しずつ見えるようになってきましたけど、服は作られている過程が価値として見えていないかもしれませんね。
とはいえ、品質以外の価値を伝えるのはかなりハードルが高いと思いますが…。

島田:そうですね。一つの工夫として、モノとの出会い方の設計に力を入れたいと思っているんです。ジーンズって、食材やティッシュみたいに、なくて困るものじゃない。だからこそ、店舗を持たず、買ってもらいたい人に会いに行くというスタンスで移動販売を始めました。足りないから買うではなくて、僕たちと出会って、話してみて共感したから買うとか、地域を回っているえぶり号(移動販売キャンピングカー)に出会って買うってすごい思い出になるじゃないですか。記憶に残る、買い物体験を作りたいなと思っています。

クラウドファンディングで、移動販売のためのキャラバンの購入資金として約776万円の資金調達に成功。

応援してくれる人を見える化して、コミュニティを作っていきたい!

竹本:最後に、EVERY DENIM の今後の展望を教えてください。

島田:今後は、もっとコミュニティをつくっていきたいなと思っています。僕たちを気に入ってくれて、今まで繋がってきた人たちはみんな個性のある人たち。そういう人たちを見える化したらすごく面白いと思うんです。例えば今年の6月に、今まで買ってくれたお客さんに対して、感謝祭を実施しました。でも僕たちがもてなすというよりは、みんなで一つのイベントをつくる感じ。飲食も、コーヒー屋とかカレー屋をやっているお客さんが出してくれるなど、みんながそれぞれの特徴を生かしてくれました。僕たちが個々のお客さんとの関係が濃いから、出来たイベント。それがとっても楽しかった。EVERY DENIMを通じて、知らなかった人たちが繋がっていく。コミュニティができることで単純な服を買うという消費以上の価値が生み出していけるのではと思っています。

竹本:EVERY DENIM の輪がどんどん広がっていくのが楽しみですね。今日のお話は、ファンづくりに悩む企業にとって多くの学びがあると思います。ありがとうございました!

■ご参考■
EVERY DENIM http://everydenim.com/

織物生産販売を行う、株式会社ショーワ・平井さんに工場を丁寧にご案内いただき、織物の歴史やジーンズができるまでについて、お話を伺いました。
その後、染色を行うニッセンファクトリー株式会社を訪ね、この道50年の岩崎さんに工場をご案内いただきました。工場の中には、EVERY DENIM専用スペースが。岩崎さんと島田さんの会話には、互いへの信頼が感じとれました。

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「属」の視点で、「EVERY DENIM」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【属】絆づくりは、“目の前の一人”との対話から始める。
「ジーンズは生産現場を知ってもらうための手段」。
当初、EVERY DENIMはジーンズ好きの兄弟のこだわりを集結したブランドなのかと考えていた私は、島田さんのこの発言に大変驚きました。
逆転の発想から始まったものづくり。EVERY DENIMは、お客さんとの向き合い方もユニークです。その方法とは、お客さんをターゲット化せず、一人の個人として扱い、対話することでした。
立ち上げ当初、EVERY DENIMは「ジーンズにこだわる30,40代」を“ターゲット”にして展開していたといいます。でも、彼らには売れなかった。実際に買っていたのはちょっと背伸びしていいものを身につけたい同世代でした。ビジネスだって人のやり取り。島田さんの「本音のやり取りは1対1で」という原体験と相まって、以降お客さんを集合体ではなく、個々対話の対象と捉え、目の前の一人のお客さんに重点を置くようになりました。以降、商品づくりや売り方が変わったそうです。
お客さんと対峙する時、彼らを「属性」や「嗜好性」で捉えるのは、マーケティングのセオリーです。ただ、時に便利なフィルターと化してしまい、本音やニーズをつかみ切れず、正しく商品価値を伝えられなかったり、届けるべき人に届かない可能性もあるのではないでしょうか。
時に立ち止まって、大勢のお客さんを、一人のお客さんの集まりだと捉え直してみる。まず目の前のお客さんと対話してみる。そうした積み重ねが、お客さんとの強い絆を生み、良質なブランディングへと繋がるのではないかと感じました。

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