THE CENTRAL DOT

日本トコトコッ / #2 75の島

2016.11.24
#地域創生

深谷 信介
スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表 / 博報堂ソーシャルデザイン副代表

「島、行こうか?」

尊敬する人望の厚い上司から声を掛けられたのは、出発数日前。
なんだかよさそうという直感が動いて「ハイ、行きます」と2つ返事で、当日朝早い新幹線で西に向かう。
待ち合わせは中国_山陽_岡山駅。そこから先の切符すら持ち合わせていない私。そこには、ステキな女性とステキな先輩が佇んでいて、わたしは来てよかったのかと勝手に思いつつ(スイマセン…)、乗り継ぎ電車に飛び乗った・・・

初めて訪れる地は、何も調べずにふらっと行く。
わたしの大切にしているトコトコッ・ルールである
本を読んだりネットで検索すれば、いまの世の中大方のことは知り得るし、写真や動画はまるで自分がその地に立ったかのようなリアリティ感満載だけれど、事前情報で自分のアンテナがそっちの方向に引き寄せられていく、それが自分にとっては結構な違和感なのだ。
せっかく初めていくところなのだから、ちょこっとの探険・探索気分がとっても愉しい。

「岡山市内にあるこの島は、市内唯一の有人島なんですよ〜」
アテンドしてくださった方から道すがらいろいろなお話を聴く。これがいい。たまらなくいい。少しずつ近づきながら、少しずつその地のイメージが広がってくるこの感じ。これこそ旅だ(あっ出張視察です)五感を刺激されながら得る情報は、確実に腹に入る からだが覚える。

港を後に島へ向かう

一周約4Kmのその小さな島は、宝伝(ほうでん)というご利益高そうな地名の港から、船で約10分のところにある。
石材業・銅の製錬工場・化学工場・・・
大きな産業が、時代の変化とともにこの地で生業をつくり、最盛期には5,000人とも6,000人ともいわれる人がこの地に住み・働き・暮らしていたそうだ。
長崎の軍艦島に象徴されるように 日本の島々・瀬戸内海の島々は、そんな(割と過酷な)産業・工場が集積していた場所でもあったようだ。
時代に向き合い、いろいろな産業で栄えたこの島は、
現在は、なんと25名。
そして平均年齢はなんと驚愕の75歳。
そう75歳の島なのだ。
ここでは、わたしも、超若手でひよっこだ。

空き家が点在する街並み

あと数年経つと日本全体の平均年齢は50歳の大台に乗る。
そんななかその5割増しを快走するこの島の名前は、犬島(いぬじま)。

年間3万人〜5万人が訪れる、この島。人口の1,000倍2,000倍の交流人口がある、倍返しどころではない(古い?)。

島にはいくつかの赤茶けた煙突がいまでもそびえ、当時の繁栄のあとを感じながら、港へ停泊。
島につくと、本日島を案内をしてくださるひとのお出迎えだ。ドラマっぽいシーンに思わずドキドキッ。
まずは、島の生業だった製錬所跡をリノベーションした美術館から視察。
建築推しのわたしが気になっていたひとり、三分一博志氏設計の犬島精錬所美術館がそこにあった。

犬島精錬所美術館

当時の高度な精錬製造技術が美術館内の設計と自然空調システムが巧みに活かされ(エアコンなしです!)、
かつ日本の近代化に警鐘を鳴らしたアート作品が展示されて「遺産、建築、アート、環境」という要素を一体的に体感できる素晴らしい施設だった。
これこそ、この地にしかできないアートインレジデンス=真のアートなまちづくりだなと痛感した。
歴史と地形に学ぶ という我が師の教え通りの、都市計画的な遺構。
まずここ産業機構の美術館に足を踏み入れることから、島の地形歴史と日本の歩んできた道を体感できる、すばらしい装置である。

五感フル動員でこの美術館を堪能したあと、集落内のアート作品=犬島「家プロジェクト」を拝見。

犬島「家プロジェクト」

「風景とともに楽しむアート」
をコンセプトに、空き家や廃墟のとなりに、圧倒的に斬新なランドマーク性を帯びかつそのテーマ性から思考を刺激する複数の家作品に圧倒された。
古民家ヨコに、超先端アート。

正直超高齢の住民の方々に受け入れられているんだろうか? そんな疑問を持ち合わせたところ、
7、8名のおばあちゃんが、超現代的屋外アート作品の周辺の草むしりのおしごとを、毎日毎朝せっせとおこなっているんだそうだ。
訪れたひとびとに「ステキな島ですね」って言われるのが、とても嬉しいのだそうだ。
馴染んでいる、もとい一体化しているこの包容力、ひとの年輪は創造力を遥かに超える。

加えて、毎朝みんなが草むしりに集合することは、ある種の見まもりサービス。
みんな今日も集まれたね、元気に草むしりできるねという証。終わったらいつものカフェで話に花を咲かせて、三々五々帰っていく。

カフェでくつろぐおばあちゃんたち

小さいながらも、この島に大切な、つぎの産業(おしごと手仕事)と福祉サービスがすてきにインストールされている。
こんな感じの島に、移住者がポツリポツリと増え現在5名になった。

あるものを活かし、ないものをつくる
あるものを受け入れ、自然体でくらす

地域は、ほんとうに宝の山。
島は、もっともっと宝の山。
ビックデータに格納されないアナログな資産が、静かに確かに眠っていました。
日本中島なんだから、もっと島のことを知らないと!
島巡り、これからのあらたなトコトコッの定番になりそうだ。

島にカニが・・・

次回は、こうえん です。

* 写真:公益財団法人福武財団さまにご提供いただきました

日本トコトコッ
トコトコカウンター:ただいま73トコトコッ

*トコトコカウンター:今年4月より訪れた場所ののべ数

犬島

住所:岡山県岡山市東区犬島
アクセス:JR岡山駅から電車・バスを乗り継ぎ西宝伝バス停より徒歩5分の宝伝港から船に乗り約10分で犬島港へ
URL:https://www.okayama-kanko.jp/setouchijikan/setouchi03.html

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日本トコトコッ / #1 金持(という名の・・・)

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