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連載【私の生活定点】第12回ー昔のオタクと今のオタク

2015.11.26
#生活総研#生活者調査

ニッポン放送アナウンサー

吉田尚記

避けられないオタク化

ある女子高生リスナーと話していておもしろかったのは「ウチのクラスには、もう、ふつうのコはいません。ギャルとオタクしかいません」っていう話です。これ、昔と全然違う状況なんです。何が違うのかっていうと、インターネットの情報環境の有無。今のコたちは、「なんか好きだな」と思うと、現場に来る前に検索しちゃうんですよ。で、検索してしまうと情報に異様に詳しくなるじゃないですか。そうするともうオタク化は避けられない。昔は、すっごい詳しいわけじゃないけどテレビとか雑誌とか見て「なんかいいよね」っていうレベルでやり過ごすことができてたのに、今は「なんかいいよね」で止まれない。やり過ごせない。何かを好きになっちゃった時に、ちょっと検索するだけでものすごい情報にガーっと押し流されてしまう。僕らの時ってクラスにオタクって2人か3人でした。でも、今はそういうふうに「ふつうのコ」がどんどんオタクになっていっているんだと思います。

だから、「オタク」という言葉は「そのジャンルにちょっと詳しいよ」ぐらいの意味で使われるぐらいにすごく変容したし、自分のことを「オタク」って言いたい人も増えました。ちょっと前の人たちが自分のことを「オタク」って言う時、そこにはレジスタンス的な意味合いがあったと思うんです。それが今、そのレジスタンス的意味合いも込みで、自分のことを「オタク」って言っておきたいっていうのが多分あるんですよね。そういう意味合いを含めて、「オタク」であるということにアイデンティティを求める人も多いように思います。

昔だったら「大学生だったらホイチョイプロダクションズでしょ、スキーでしょ」みたいな感じで、今は「オタクだったらラブライブでしょ」ってなったりしてるようなところがあります。スキー行かなくなってラブライブ行ってるんでしょうね、ふつうの人たちが。そんな感じはしますよね。

昔のオタクと今のオタクの人達は、マインドセットがかなり違うと思います。

昔は、同じジャンルのオタクが集まってても、そのジャンルとは全然別の趣味を、それぞれが、ひとつ、発症してることが多かったんですよ。たとえば、アニメオタクの先輩に「いま何ハマってんすか」って聞くと、刀剣乱舞のずっと前ですけど、「日本刀♪」って返事がかえってきたりする。「知ってる?日本刀って教育委員会に登録するんだよー」「え?持ってるんですか日本刀?」「うん」みたいな会話があって。そういうよくわからない知識にたどり着くのが本来オタクのおもしろいところなんです。でも、今のオタクはそうじゃなくて、オフィシャルの出してるものを反芻してるだけの人が多いんですよね。そのジャンルの隣にあるものとか、そこから透けてみえる前提の知識とかは関係なくて、誰かがやってくれた教条主義的なものに従って行くっていうスタイルが多いんです。もっとも、昔は、その教条主義的なものを追いかけたくても追いかけづらかったのもあるんですけどね。今は検索すると一発で本人のツイッターとかブログとか出てくるから、状況は全然違いますが。

ネットによって作りやすくなった「閉じた経済」

それで最近すごく気になっていることでいうと、ネットがあることによって、情報が拡散しなくなったということです。ネットで情報が拡散しやすくなったってよく言われますけど、あれはウソです。逆です。ネットがあると自分の好きなことを延々と追いかけていられるので、ブームが終わらなくなりました。顕著な例がAKBです。昔だったらもうブームは終わってる頃なんです。ところが、AKBブームは5年で終わるところが10年続いてる。これはAKBのことが好きな人には情報が延々供給されるシステムが出来てるからです。

つまり、閉じた経済を作りやすくなってるんですよね、ネットがあることで。

AKBだったらAKBのグーグルプラスとブログとツイッターと755見るだけで一説によると1日に4時間かかると言われています。そんなの全部チェックできるわけない。だからもう閉じちゃうんですね。AKB以外のものを追いかけることできなくなる。本当は、もっと自分の感覚に正直になって、「なんか物足りないな」と思ったらハロプロを見に行くとか、exploreすることがあってもいいと思うんです。でも、しない。できない。両方を追いかけてる人はとても少ないですね。今、このexploreするっていうことが、アイドルに関してに限らず、すごく減ってると思います。

それと関係あるのが、この「友人は多ければ多いほどよいと思う」っていうデータですね。

友人は多ければ多いほどよいと思う

友達が多い方がいいっていうのが減ってる。友達は多くなくていいっていうのは、他をあえて見に行かなくてもいいやっていう感覚と近いですよね。みんながexploreしなくなってきたのはこのデータにも表れてると思います。(談)

(次回に続く)

吉田尚記(よしだひさのり)氏プロフィール

1975年、東京生まれ。ニッポン放送アナウンサー。「マンガ大賞」発起人。2012年に『ミュ~コミ+プラス』のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。11月27日、電子書籍『ニッポン放送アナウンサー吉田尚記の1時間でわかる「コミュ障の会話術」【音声付】』(honto)をリリース。

連載【私の生活定点】バックナンバー

第11回「夢と希望の地獄」
第10回「リア充はリアルか」
第9回「データと偶然に出会う装置」
第8回「お父さんの背中は小さくなったか」
第7回「生活定点」は「日本人の心のガイドブック」
第6回「調査と妄想」
第5回「料理好きな男は転職を考えてるかも」
第4回”科学技術が進歩しすぎて不安である”という設問を”科学技術の進歩”を用いて解析
第3回「友達」と「金髪」と「ソーシャルメディア」
第2回「愛」より「カネ」か?日本人。
第1回「引っ越しをしたい30代は、焼肉・ぎょうざ好き?」

『生活定点』調査とは、1992年から22年間にわたって隔年で実施している生活総研のオリジナル定点観測調査です。同じ地域(首都圏・阪神圏)、同じ対 象者 設定(20~69歳の男女)に向けて、 同じ質問を継続して投げ掛け、その回答の変化を時系列で観測しています。項目数は約 1,500項目に及び、衣、食、住、健康、遊び、学び、働き、家族、恋愛・結婚、交際、贈答、消費、情報、メディア接触、社会意識、国際化と日本、地球環 境など、生活者のありとあらゆる領域を網羅しています。2014年、最新調査結果の公開にあたって「生活定点」特設サイトを開設しました。
http://seikatsusoken.jp/teiten2014/(時系列データのエクセルファイルもダウンロードできます。日本語版と英語版をご用意しています)
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