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アップデートし続ける
「アートシンキング」
のすすめ
―問い続けることで
課題を発見する、
新時代の思考とは

Update

博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 ストラテジックプラニングディレクター 大家 雅広博報堂ブランド・
イノベーションデザイン局
ストラテジック
プラニングディレクター大家 雅広

あらゆる業界で旧来のビジネスモデルが崩壊しつつある今、私たちは新たな視座を手に入れ、未来に向き合う態度をつくり直すことから始めるべきではないだろうか。そのためのメソッドとして「アートシンキング」を取り入れ、独自のコンサルテーションを実践する、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の大家雅広が語った。

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設定した課題そのものが間違っていることもある

──イノベーションを起こすための思考法として、アートシンキングを提唱されていますが、そもそもアートシンキングとはどのような思考法なのでしょうか?

「アートシンキング」とは、ひとことで言うと、未来を創造していくための一つの方法論です。既成概念や固定観念に縛られることなく「新たな課題を発見する方法」で、10年以上先の未来にフォーカスし、異分野を探求することからチャンスを発見しようとするものです。この方法によって、中期的なビジョンと戦略を立てることが可能になります。アートの力によって、未来を問い続ける力を養うこと。それがアートシンキングの本質です。もちろん、私たち含め、世の中で語られている「デザインシンキング」との両立は大事だという前提です。デザインをする上でも、ビジョンを作る上でも「Theme Issue:課題設定」がとても重要となるわけです。

図:Ars Electronica + Hakuhodo

アートシンキングには「Creative Questions」、つまり未来を構想するための「問い」が必要です。私たちは、このCreative Questionsを成り立たせる要件として、「Essential:本質的な問い」「Provocative:挑戦的、挑発的な問い」「Catalytic:触媒となり変化を促す問い」という3つを設定しています。
アートシンキングで重要なのは、Creative Questionsをどれだけ多く持てるか、いかにして「問う力」を常にアップデートしていくかということです。そのアプローチとして、「Inspiration:見たことのないものや作品に出会うこと」「Dialogue:多様な分野の知識を超えて対話をすること」、そして「Making:まだ見ぬ姿をすぐに形にしてみること」が挙げられます。これらを実行することにより、一人ひとりの発想や行動の駆動力となるCreative Questionsにつながっていくのです。

──先ほどアートシンキングを「新たな課題を発見する方法」と説明されましたが、企業が新たな課題をあえて発見しなくてはいけない理由は何でしょうか?

過去の延長線上のままでは、企業が生き残っていくのが難しい時代を迎えているからです。中には、設定した課題や目標が間違っているというケースもあります。だからこそ、アートシンキングが必要になるのです。
たとえば極端にいうと、これまでは冷蔵庫の企画開発の担当者は、冷蔵庫のことだけ考えていれば事足りました。世の中にすでにある冷蔵庫をベースに、より便利にしたり、効率的に冷やしたり、新しい機能を付加するなど、どうバージョンアップするかという思考回路で物事を進めていても、特に問題がなかったのではないかと思います。しかし、今やIoTによってすべての枠が取り払われてしまい、メーカーであっても「モノをつくって売ればおしまい」という時代は終わりました。もはや、過去のビジネスモデルや思考法では太刀打ちできません。

このような時代には、これまでとは全く違った視点や発想が必要です。もともとあった冷蔵庫から発想していっても、新しいものを生み出すことは困難なので、思考のスコープを広げなくてはなりません。
その際に力を発揮するのが、未来を構想するための「問い」です。たとえば、人が食事をするという体験全体を見渡せば、「冷蔵庫や家の中にある食料保管庫とは、どうあるべきなのか?」という問いを生むことが可能です。もしかしたら、「食料を家の中に保管しなくてもいいのではないか?」という問いも生まれるかもしれません。
こうした問いをいくつも立てて、思考のスコープを広げないと、これからのビジネスは創出できないということは周知になりつつあります。だからこそ、アートの力を借りて未来の生活や生活者を描き、そこに向かって進む際の課題を見つける必要があるのです。

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アートシンキングは経営者にこそ必要な思考

──実際にどのような形でアートシンキングを使ってクライアントのサポートしているのでしょうか? 具体事例があったら教えてください。

ここ一年ほど、ある大手メーカーのビジョンづくりのお手伝いをさせていただいていますが、この仕事はまさにアートシンキングの考え方を使って進めています。もともとはマーケティングのセクションからいただいた、「長い将来を見据えたビジョンの言葉をつくりたい」という依頼から始まりました。技術ビジョンというのは、その会社にとって将来必要となる技術やリソースは何かを端的に表すものです。2030年、2040年を見据えて、「人間がどう変わるのか」「社会生活のあり方がどうなるのか」という大きな「問い」を立て、その大きな問いをもとに戦略を組み立てる仕事をしてきました。
この仕事が従来の広告会社の仕事と異なる点は、クライアント側に答えがないことにあります。たとえば、従来型の仕事である会社のCI(コーポレート・アイデンティティ)をつくるような場合、クライアントにヒアリングをすれば、CIを作る材料が集まりました。しかし、今回のように未来を見据えた仕事の場合、クライアント側にも答えはないので、その答えを引き出すお手伝いから始めないといけませんでした。
この答えを探すために、その大手メーカーのR&Dに関わるプランナーに世界中から集まってもらい、博報堂からもクリエイターやマーケティングの人間、そして、アルスエレクトロニカ(オーストリアにあるアートとテクノロジーの最先端組織)のフューチャーラボのメンバーにも一緒に参加してもらい、皆でワークショップを行いました。そこで、「こんな2030年があったらいいな」という問いを、「これからあるべき社会のあり方」とか、「あるべき生活像ってなんだろう」という問いにブレークダウンする作業を行いながら、ディスカッションを重ねました。その後、いくつかのプロセスを経て、R&Dの戦略にまで落とし込んだのです。

このプロジェクトだけではありませんが、会社の組織の中でアートシンキングのプロジェクトを始めると、どんどん上層部を対象としたプロジェクトに昇華していきます。未来の人間や社会の問いに対して、自分たちのビジネスを再解釈すると、商品やサービスのつくり方も変えなくてはならなくなります。すると、組織の在り方まで変えざるをえないので、おのずと経営マターになるのです。
実際、先ほどのメーカーの例でも、はじめはマーケティングのセクションからの依頼だったのですが、その後は全社部門横断のプロジェクトになり、現在では社長と直接やりとりさせていただく仕事に発展しています。アートシンキングは経営ビジョンや組織の目指す姿を言葉にすることにつながります。つまり、経営者にこそ必要な思考なのだと思います。

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発想が新しくなったなら、意思決定も変革すべし

──アートシンキングを企業で活用するためのポイントを教えてください。

ひとつは、固定観念を外した、筋のいい問いを立てることです。事業開発のお手伝いもやらせていただくことが多いのですが、そのとき問い自体が間違っているケースをよく目にしました。そのビジネス自体が終わっているのに、「いかに自分たちの今の事業を延命させるか」という問いを立ててもうまくいかないのは当然ですが、このような問いを立ててしまうケースが少なくないのです。
先ほど冷蔵庫の例を挙げましたが、日本企業の場合、専門特化しすぎていて、狭い視野での問いを立てがちになります。その場合は、外部の力を借りて問いを立てた方が、思考の枠組みを外しやすいように思います。
もう一つは、思考方法だけでなく、意思決定の方法も新しくすることです。多くの企業にとってアートシンキングは、新しい発想の方法だと思います。そこで出てくる答えは、未来のものを価値として発見した答えなので、未来を見る力で肯定しなくてはいけないものです。しかしながら、意思決定機関が従来通りの会議体では、ついついそのことを忘れがちになります。発想の方法が変わったのなら、意思決定の方法も刷新すべきです。でなければ、何も変わりません。新しい発想をむやみにつぶすことなく、社員一人ひとりの問い続ける姿勢を肯定する組織への変革が求められているのではないでしょうか。

大家 雅広
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。博報堂入社以降、企業のマーケティング、新商品・サービス開発、ブランディング、イノベーション支援、空間開発などの業務に従事。自動車、通信、家電、ITサービスなどの業務経験が多い。大学や企業向け講座でのファシリテーター講座での講師を務める。世界的クリエイティブ機関Ars Electronicaとの共同プロジェクトArs Electronica Tokyo Initiativeを推進。デザインプロジェクトやアートプロジェクトで受賞歴メディア掲載歴多数。

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