新聞広告を題材に、クリエイターが公立中学校の授業をつくる。
そんな新しい試みをした、コピーライター山﨑博司とアートディレクター(以下AD)の小畑茜。どのようにこのプロジェクトが始まったのか、どんな授業内容だったのか、授業を受けた生徒たちの反応は?など、プロジェクトの様子をお届けします。前編はこちら

はじめての授業は、2017年3月。
谷本先生が当時在籍されていた中学校の3年生4クラスと1年生1クラスを対象に開かれました。谷本先生1人ではすべてのクラスをみれないため、同僚の岸本先生など他の先生方にも協力いただきました。

3コマの授業の中身は、桃太郎の「現在」「過去」「未来」という構成。僕と小畑はというと、事前に撮影したビデオで授業に参加しました。

1コマ目 いまの桃太郎から学ぶ

1回目の授業のテーマは、他者の視点を持ってみよう、です。

まず導入で、”表彰台で祝福される選手””合格発表”といったいわゆるしあわせと感じる写真をみてもらいます。もちろんその中には、”村へと宝を持ち帰る桃太郎”も含まれています。

そして、授業スタート。
ここで用意したクリエイティブツールは、桃太郎や鬼や犬といったキャラクターが描かれたサイコロです。生徒たちは、さまざまな面を使いながら、「桃太郎」のお話をつくっていきます。この時点では、いわゆる「桃太郎」ができあがります。

そして、ここでもう一人の登場人物を加えてストーリーをつくります。それが鬼太郎です。
ただここでは、このキャラクターが何者なのか伝えないため、チームによっては、鬼の幼少期と捉えたり、仲間と捉えたりとさまざま。

作った物語をチームごとに発表してもらい、最後に僕と小畑が制作した広告をお見せします。
もし、鬼太郎を、鬼の子どもと捉えたなら…。
「めでたし、めでたし」と思っていたお話が、違った見え方になるかもしれない。

つまり、はじめに見た写真も、別の視点や違う人の気持ちにたってみると、違う見え方がする。
普段、自分が見ている視点だけではなく、相手の立場にたってみたら、一歩引いてみたら、社会からみたらどうなるか。
そんなことを一回目の授業では、「桃太郎」を通し考えてもらいました。

2コマ目 さかのぼって考える、桃太郎の選択。

2回目の授業のテーマは、選択肢を増やしてみよう、です。

考えてみれば、僕らは日々さまざまな選択肢の中から選択し暮らしています。受験、就職といったこともそうだし、今日は何を食べようかなという些細なことまで。でも、よほどのことがないかぎり、その選択が正しかったかどうか振り返ることはしません。それを2回目の授業では、桃太郎を題材に考えたのです。

「桃太郎は、鬼退治するしかなかったのか。」
お話の中から、ターニングポイントとなる5つのシーンを抜き出しました。

たとえば、桃太郎がおじいさんおばあさんから鬼の悪さを聞いたシーン。
童話の中では、A.鬼退治に行くことを決意する。でも、ここで他の選択肢B.C.Dはなかったのか。それをチームで話し合っていきます。
普段の生活で言えば、うわさ話を友だちから聞いたとき、テレビや雑誌から聞いたとき、どう自分が行動するかに応用できるかもしれません。
このように5つのシーンを、グループワークを通して話し合っていきました。

3コマ目 みんなでつくる、その先の桃太郎。

3コマ目は、未来の話です。

1コマ目と2コマ目の桃太郎の話を通し、他者の視点や選択肢を増やすことを学んできました。でも、桃太郎の話は基本変わりません。
じゃあ、もし、桃太郎の話に続きがあったとしたら、どんな話になるか考えてみよう、というのが最後の授業です。

生徒一人ひとりが、原稿用紙に向かい筆を走らせます。
読ませてもらった感想を言うと、本当にこれが中学生の書く内容なのかびっくりしました。鬼による反撃があり悲劇は繰り返されるというストーリーもあれば、みんながしあわせになるストーリー、一寸法師がでてくるストーリーなど、視点もみんなバラバラ。
言葉遣いもステキで、いまの中学生はいろいろ考えていることがわかりました。正直、僕が中学生のときはこんな話絶対に書けなかった。
こうして、3回の授業は終わったのです。

互いの専門性をぶつけ合う。

僕らは、教育関連の広告の仕事をすることはあっても、教育の現場に入っていくとことはまずありません。まずその経験ができたことがとても新鮮でした。また、さまざまな職種の人と仕事をすすめていく大切さを分かっていたつもりでしたが、それはあくまで広告の中での話。
教育と広告、という全くの異分野での協働こそが大事で、谷本先生は教育のチカラで、僕は言葉のチカラで、小畑はアートのチカラで、それぞれの専門性をぶつけたからこそ、今回でいえば新しい授業が生まれたり、これまでになかった価値を生むことに気づくことができました。

これからについて

この活動は、2017年12月25日の朝日新聞社会面と12月28日の天声人語に取り上げられたことをきっかけに、世の中で知られることになりました。
いま授業は、岡山県の別の中学校で実施されたり、教師を目指す方たちのワークシップとして使われています。また、全国の学校から問い合わせをいただいていることもあり、チームとしては今後どう広げていこうか絶賛協議中です。

僕らしては、このプロジェクトをきっかけに、社会がもっと教育や授業のあり方などに興味をもち議論が活発になればなと思っています。

山﨑博司
博報堂 統合プラニング局 コピーライター

1983年生まれ。2010年博報堂入社。TBWA\HAKUHODOを経て、現部署。
主な受賞歴: TCC最高新人賞、ACCグランプリ、Cannes bronzeなど。

小畑茜
博報堂 第二クリエイティブ局 アートディレクター

1988年生まれ。2011年博報堂入社。
主な受賞歴:毎日広告デザイン賞 優秀賞 朝日新聞広告賞 審査員賞

(スタッフリスト)
企画制作/博報堂+谷本薫彦+Think The Earth
◯C/山﨑博司 ◯AD/小畑茜 ◯企画/谷本薫彦
◯アドバイザー/永井一史 ◯PR/上田壮一、笹尾実和子

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