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【博報堂マーケティングスクール】Executive Marketing Forum 第一回デザイン思考の本質

2018.01.18
#マーケティングスクール

このページでは、2017年12月8日(金)に行われた「Executive Marketing Forum 2017-2018~ 不確実で、不確定な時代を切り開く、思考、意思、ものづくりからの考察~第一回」の模様をお届けします。
第二回、2018年2月6日(火)のレポートはこちら

基調講演

「機会発見」──生活者起点の市場の作り方

博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局
岩嵜 博論

「デザイン思考」という言葉に接する場面が増えています。
デザイン思考とはすなわち「機会発見」の思考であると私は考えています。
では、「機会」とは何でしょうか?
従来の製品・サービス開発は、まず事業領域に応じて製品企画の要件が決まっていました。
それに対して、イノベーティブな製品・サービス開発には、事業領域のこれまでの常識をリフレームするような、「機会」の創出というプロセスが必要になると考えられます。
例えば、事業領域が「カメラ/写真」である場合、従来は、「画素数」「センサーの性能」などが製品の開発要件でした。
一方、「自分撮り」という「機会」と特定すると、「自分撮りのしやすさ」「画像加工のしやすさ」「シェアのしやすさ」といった新しい開発要件が生まれます。

何かを創り出す際には、大きく二つのアプローチ方法がありえます。
「分析的アプローチ」と「機会発見アプローチ」です。
分析的アプローチは「既存市場の最適化」を目指す方法です。一方、機会発見アプローチは「未知の市場の創造」を実現する方法と言えます。
不確実で先の見えない時代、また成熟した市場では、これまでの延長線上にはない価値を創り出すことが求められます。そのために必要なのが「機会発見アプローチ」です。
真にイノベーティブな製品やサービスは、既存市場の分析からは生まれません。
機会を発見するためには、従来の思考プロセスを変革していかなければなりません。
ポイントは3つです。

1つめは、「枠内発想から枠外発想へ」です。
イノベーションの兆しは、常に従来の「枠」の外からやってきます。
たとえば、タッチパネルとアプリが携帯端末の標準仕様になると考えていた人がどれだけいたでしょうか。

2つめは、「定量情報から定性情報へ」です。
定性情報とは数値化が困難な質的データであり、アンケート調査の自由回答、インタビューの発言、写真や映像などがこれに当たります。
これらの情報を「フィールド=現場」から見つけ出さなければなりません。
定性情報は、認識を「アンラーン(un-learn)」するのに役立ちます。
「ラーン(learn)」は既存の考え方をより深めていくことですが、アンラーンは、外部情報を取り入れることで、既存の考え方をいったんリセットして、新しいものの見方を獲得することです。

3つめは、「分析から統合へ」です。
『アイデアのつくり方』という著書でよく知られているジェームス・W・ヤングは、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と言っています。
実際、これまで多くのイノベーティブな製品やサービスは、異なるものの統合/結合によって生まれてきました。
定性情報の断片を「結合」させ、新しい「概念」を生み出し、それを「構造化」することによって、「機会」を見出す。
それが機会発見の方法論なのです。

ゲスト事例講演

富士フイルムにおけるオープンイノベーションの取り組み──「融知・創新」活動から「共創」へ

富士フイルム株式会社 経営企画本部 イノベーション戦略企画部 Open Innovation Hub館長
小島 健嗣氏

富士フイルムが化粧品事業に参入したのは2006年のことです。
デジタルカメラが完全に普及し、フィルム時代のビジネスモデルを見直さなければならないという事情がその背景にありました。
フィルムの成分の50%はコラーゲンです。
一方、人間の肌も70%がコラーゲンによってできています。
したがって、技術面で高い親和性がある化粧品開発に応用できたのです。
その発想はまた再生医療の事業にもつながっています。
成長戦略を一からつくろうと考えた時、ポイントは「成長市場か」「技術はあるか」「競争力をもてるか」の3つでした。
当社には写真事業で培ってきた12のコア技術があります。
それを組み合わせて、成長市場で競争力ある事業をつくることを目指す中から「第二の創業」に向けた事業ドメインが生まれました。

しかし、新しい事業を生み出すには、自分たちのアセットを組み合わせるだけでなく、足りない要素を外部に求める必要があります。
すなわち、オープンイノベーションです。
そのベースとなったのが「融知創新」、つまり「知を融合して、新しい価値を創る」という考え方でした。
オープンイノベーションに必要なのは、何よりも社内と社外を結ぶ「共通言語」です。
それを生み出すために、社内の各研究発表会、社外のナノテクノロジー展、常設技術展示の三つの場でコミュニケーションのスキルをステップアップしていく連携・循環させることにしました。
社外のパートナーや顧客との共通言語をつくり、対等な共創関係を生み出し、互いの強みを認識し、リスペクトしあう。
オープンイノベーションに求められる、その土台をつくることが目標でした。
2014年には、共創による新規事業創出を目指す「Open Innovation Hub」を開設しました。
現在まで約1800社、10000人の方に来訪いただき、そのうちのおよそ15%の企業とNDA(秘密保持契約)を結ぶなど、次のステップに進みました。
中にはすでにビジネスになっているものもあります。
機会発見とは、「問題を解決するために何が課題かを発見すること」であると言ってもいいと思います。
自社がもつコア技術があり、一方に顧客が必要とする価値がある。
その間に共通言語をつくり、問題解決の課題を見つけることが機会発見であると私は考えています。
ただし、「問題解決の罠」に陥ることは避けなければなりません。
それは、現在の課題を解決するだけで満足してしまい、新しい価値を生み出していくことができないという罠です。
必要なのは、「未来の課題」を見出していくことなのです。
「社会」と「企業」と「自分」が交わる場所に課題を見つけ、そこから未来に向けたまったく新しい価値を生み出していくこと。
それがオープンイノベーションの本質であると、私は考えています。

富士フイルム株式会社 経営企画本部 イノベーション戦略企画部 Open Innovation Hub館長 小島 健嗣 氏(写真、中央)博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 HUX部長 岩嵜 博論(写真、左)博報堂マーケティングスクール 代表 岡 弘子(写真、右)
質疑応答

ファシリテーター: 博報堂マーケティングスクール代表 岡 弘子

: 新しい事業を生み出す力がある人をどう評価すればよいのでしょうか。

小島 オペレーション力とユニークな発想で新しいことにチャレンジできる力。
その二つを均等に評価できるのが理想であると言われています。
しかし、その評価システムの運用は簡単ではありません。
やはり、評価する側とされる側の双方が納得し、対等な関係になれるような運用方法が望ましいと思います。

岩嵜 新規事業を生み出すには「パッション」が必要です。
しかし、パッションをもった人が評価される仕組みが一般の企業にはなかなかありません。
往々にして、単なる「変わり者」ということになってしまいます。
ですから、パッションを評価できる制度づくりが課題だと思います。

: 失敗やダイバーシティを受け入れる企業文化を生み出す方法をお聞かせください。

小島 失敗をマイナス評価とするのではなく、「小さな失敗はたくさんしてもいい」というルールをつくることが大切です。
また、「一度始めたことでも、うまくいかないと判断した時点でやめていい」というルールも必要です。
そういったルールがないと、新しいものはなかなか生まれません。

岩嵜 海外のデザインスクールに行ったときに、プロトタイピングには「Low Fidelity, Early Failure.」が必要だとよく言われました。
完璧を求めるのではなく、ある程度の品質の段階で世に出してしまい、早めに失敗することで大切な気づきや学びを得るということです。
その思考法を根づかせていくことが必要だと思います。

: イノベーションにつながる「兆し」の見極め方を教えてください。

岩嵜 兆しの確からしさを見極めることに労力を費やすよりも、兆しをサービスや製品にして、その確からしさを検証すべきだと僕は思います。
重要なのは、兆しから生まれた「形」が魅力的かどうかだからです。

小島 便利になっている世の中にも、まだまだマイナスの要素はたくさんあります。
兆しがそのマイナスの解消につながりうるかどうか。それが一つのポイントだと思います。

: アイデアを上手に共有する方法を教えてください。

岩嵜 アイデアを「ストーリー」として語ることだと思います。
物語には世の中にないものをあたかもあるように感じさせる力があります。
その力を活用するということです。

小島 まさに重要なのはストーリーで、それをつくるためには、「出会いの場」を用意することが必要だと私考えています。
アイデアを生み出した人に、適切な人や企業を紹介し、アイデアが具体的な形になる道筋をつくる。
そんな仕組みづくりに取り組むのが一つの方法だと思います。

: イノベーションにもはやり「フレーム」が必要なのではないでしょうか。

岩嵜 先に小島さんから「共通言語」というキーワードが出されました。
共通言語はまさしく一つのフレームと言えると思います。

小島 アイデアを事業にするには、それがビジネスとして成立するかどうかという検証が必要です。
その過程が一つのフレームになる。そう考えています。

講師プロフィール

富士フイルム株式会社
経営企画本部 イノベーション戦略企画部 Open Innovation Hub館長 小 島 健 嗣 氏

1986年入社。デザインセンターにてプロダクトデザインを担当し、インターフェース、ユーザビリティ、ソリューションの各デザインを導入。その後、研究所で知を融合するために、デザイン思考を活用したワークショップを実践。
2011年より技術戦略部でオープンイノベーションを担当。2014年Open Innovation Hub開設。

岩嵜 博論
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局HUX部 部長/ストラテジックプランニングディレクター

博報堂においてマーケティング、ブランド戦略立案業務に携わった後、米国シカゴのデザインスクールを修了。
米国デザインファームでのインターンを経て、現在はUX起点の新規事業開発、製品・サービス開発プロジェクトをリードしている。
著書に『機会発見-生活者起点で市場をつくる』(英治出版)などがある。

岡 弘子
博報堂マーケティングスクール 代表

1993年慶応義塾大学大学院 社会学専攻科社会心理学 修了
2013年グロービス経営大学院 経営学専攻 修了
1993年博報堂入社。
以後、2010年まで、 食品、トイレタリー、教育、金融のコミュニケーションの新市場創造業務に従事。
1997年博報堂子育て家族プロジェクト「BaBU」発起メンバーとして活動開始。
2002年NPO法人CFFCにて、マタニティマークを開発。全国自治体へ配布活動を実施。
2011年に対外的な博報堂ソリューションの情報発信サービス「Consulaction」を立上げ。
2014年イノベーター育成支援プログラム「Consulaction Academy」を立上げ。
2016年博報堂マーケティングスクールを立上げ。
博報堂マーケティングスクール 代表
博報堂MD統括局ナレッジマネジメント部 部長

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