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【Consulactionセミナー】成長を促す、イノベーション・ドライバー 革新的な人材とプロジェクトを生み出すための仕組みづくりとは?

2017.02.09
#Consulaction
2017年2月9日(木)にConsulactionセミナーが開催されました。
このページでは、当日の講演内容を要約した、セミナーレポートをお届けします。

市場の成熟化や技術の進化にともない、従来通りのビジネスモデルや商材で現状を突破することはますます難しくなっています。
今やイノベーションは、すべての業界、企業、ブランドにおける共通テーマになっていると言っていいでしょう。
しかし、イノベーションを起こせる人材はまだまだ不足しているのが実情です。
この日のセミナーでは、イノベーションを実現し、その仕組みを継続していくための「人材育成×プロジェクト」のアプローチが具体的に紹介されました。

「イノベーション人材」は育成できる

最近、「イノベーション」に関するご相談をよくいただきます。
よく耳にするのは、「スタッフからいいアイデアが上がってこない」「いいアイデアが出たとしても、数が非常に少ない」「プロジェクトメンバーを選んでも、アイデアが具体化したためしがない」といった声です。
イノベーション論の大家であるハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、「イノベーションに必要な資質は、後天的に育成可能である」という研究結果を明らかにしています。
昨今、イノベーションの必要性を意識しないビジネスリーダーはいない。
だが、それほどイノベーションが重視されているのに、それを実現できず苦労している企業が多いのはなぜか。
人材の問題だという人がいる。イノベーションの実現に必要な資質を持ち合わせていない、と。
私はこの見解を認めない。十分な訓練を受ければ、誰もが有能なイノベーターになれると私は考える。平凡な人々が創造性を発揮し、画期的なアイデアを生み出し、世界的なイノベーターたちと同様の粘り強さを見せる例を、私は数えきれないほど目にしてきた──。(出典:Harvard Business Review 2013年5月スコット D. アンソニー寄稿記事より)
クリステンセン教授はそう言います。私たちも同じ意見です。しかるべき 「場面」と「仕組み」があれば、イノベーターは育つと私たちは考えています。問題は、それを企業側がどのようにして提供するかです。

イノベーション人材とは「0→1創出人材」

そもそも企業は、何のために「イノベーション人材」を求めるのでしょうか。
私は、「イノベーション人材」と期待されている人たちは、2つの「もやもや」を抱えていると考えています。
「イノベーション人材に育ってくれ」と言われても、具体的にどのようにスキルを高めればいいかがわからないというもやもや、それから「イノベーションを生み出してくれ」と言われても、具体的にどのような業務を想定しているかがわからないというもやもやです。
これを解決するには、「イノベーション人材」という言葉を上滑りさせず、定義を明確にする必要があります。
定義には3つの種類があります。タスクに関する定義、役割に関する定義、スキルに関する定義です。
ここではスキルに関する定義を考えてみたいと思います。
人材に対する組織の期待には、主に3つの段階があります。
一段階目が自律的にPDCAを回せる「自走型人材」、二段階目がプロジェクトをリーダーとして完遂できる「プロジェクト完遂人材」、そして三段階目が新規事業を生み出すことができる「0→1創出人材」です。
それぞれの段階によって、求められるスキルレベルは異なります。
イノベーション人材とは、「0→1創出人材」に相当します。このような人材のスキルを伸ばすアプローチ例をご紹介していきましょう。

イノベーション人材に求められる「3つのR」

私たちは、これまでの業務におけるさまざまな経験を踏まえ、「0→1創出人材」の育成に必要なのは、マインドにおいては「3つのR」、スキルにおいては「4つのA」であると考えています。まず、「3つのR」について詳しく見ていきましょう。

●Reflection=健全な現状否定
新規事業や新商品を開発する場合は、成功イメージが先行して、ネガティブな意見を出しにくいという傾向があります。また、イノベーションにかかわるプロジェクトは期間が長くなるので、阻害要因がある場合は早めにそれを洗い出しておかないと後々に影響が及ぶ場合があります。
さらに、今あるアイデアをすぐに受け入れるよりも、あらゆる可能性を探りながら、「もっといい組み合わせがないか」と考え続ける必要があります。以上のような観点から、「現状を健全に否定できる」マインドが求められます。
●Roughly Right=だいたい合っていれば次へ
新規事業や新商品開発は、仮説をもとにして進めて行く局面が多く、途中のプロセスであまりに高い精度を求めると、そこで暗礁に乗り上げてしまいます。
問題があれば引き返すことを前提に、「おおまかに方向性があっていればGO」というスタンスで大胆に物事を進めていくことが必要です。
●Resilience=些細なことで折れない
新規事業や新商品開発は、仮説段階ではあまりにも不確定要素が多く、早い段階で多くの案が必ず脱落していくことになります。また、予期せぬトラブルも頻繁に起こります。
その一つ一つに挫折していたのでは、新しいものを生み出すことはできません。
イノベーションを生み出す過程には必ず壁があるということを踏まえて、悠々と物事を進める心構えが必要です。

イノベーション人材に求められる「4つのA」

次に、スキルに関する「4つのA」について見ていきます。

●Assemble=情報収集のセンス
イノベーション論で知られるヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションとは「新結合」、すなわち、既存の要素同士の新しい掛け合わせで価値を生み出すものであると言っています。(出典:ヨーゼフ・シュンペーター「経済発展の理論」より)
アイデアが出ない原因の一つは、掛け合わせる情報量が圧倒的に不足していることです。
また、誰もが知っているような要素同士の掛け合わせに終始しているからです。
情報収集を疎かにしてアイデアを出す作業をいきなり始めてはいけません。
●Analogy=類推思考
イノベーションは、まったくの更地から産まれるとは限りません。
ほかの企業、ほかの業種で成功している事例のエッセンスを自社のイノベーションに転用できるケースは大いにあり得ます。そのような可能性を探ることを「アナロジカル・シンキング」と呼びます。
他社、他業種の事例を自社に利用できるかどうかを「類推」するわけです。
そのような思考のくせをつけることが重要です。
●Asking=問いを立てる力
ピーター・ドラッカーは、「重要なことは、正しい答えを見つけることではない。
正しい“問い”を探すことである」と言っています。(出典:P.F.ドラッカー「現代の経営」より)
イノベーションを生み出すには、新しい発想を促す筋のいい「問い」を立てることが必要です。
その問いを導くファシリテーション力がイノベーション力に直結することは間違いありません。
●Association=関連づける視点
イノベーターは、例えば話題の中に自分の領域とはまったく異なるテーマが出てきた場合でも、「これはあの案件で使えるかも」と気づくことができるものです。
気になる情報に接した時に、それを何と関連づけられるかを考える。
逆に、現在関わっている案件に必要なものを考えたときに、最近接した情報の中に使えるものがないかを探す。
そんな思考のくせを身につけることが必要です。

私たちの経験では、「4つのA」は、このようなスキルが必要とされる「状況」を意図的に提供しないと身につきません。自発的努力に委ねるのは現実的ではないと言っていいでしょう。

イノベーション人材育成の4つの阻害要因

次に、人材育成の阻害要因についても見ていきましょう。考えられるのは、4つの要因です。

1 過剰な論理性へのこだわり
「未踏の信念」を認めない空気は、イノベーション人材育成の大きな阻害要因となります。
「未踏の信念(leaps of faith)」とは、ジョン・マリンズの名著『プランB 破壊的イノベーションの戦略』で紹介されている概念で、「先例から答えることのできるようなものではなく、また、現実に正しいという根拠がないにも関わらず答えに確信を抱いている信念」のことを意味します。
過剰な論理性を求めると、この信念をつぶしてしまうことになります。
また、データや事例を用いた説明をすべてに求めることも、過剰な論理性の一つと言えるでしょう。
2 行きすぎた形式主義、組織主義
KPIから外れたことはさせない、そして自分もしなくていいという形式主義もまた、大きな阻害要因です。
同じように、「組織主義」が横行し、柔軟に別部署のスタッフと新しい取り組みを始められないようなカルチャーも問題です。
3 リスクリターンが読めない管理職
日本人の多くは、お金を節約する方法は知っていても、リターンを意識したお金の生きた使い方についての教育を受ける機会はあまりありません。
その結果、投資や支出の際に、「金額の多寡」のみによる単純な判断をしてしまうことになります。
とくに、管理職がそのような傾向にあると、人材養成はうまくいきません。
4 組織としての経験知の不足
組織の中にそもそもイノベーションを実現するための方法論がない、イノベーティブな人材育成の方法論がないというケースが、実は一番多いかもしれません。
経験値の不足は非常に大きな阻害要因です。

以上4つのうち、1~3の阻害要因を改めるにはトップダウン型の対応が必要になります。
一方、4はボトムアップ型で対処することが可能です。この4にフォーカスして、対処法を詳しく見ていきます。

イノベーションの「方法論」の問題

社内でイノベーションを生み出す際に阻害要因となる「方法論」の問題には、5つのケースが考えられます。それを、以下の架空のケースの中で考察してみます。

──A社は、メインとなる事業領域でトップシェアを確保している有名企業。市場の成熟化が進む中で、主業のほかに新たな事業の柱を立ち上げたいと考えている。
2年ほど前、新規事業開発室を立ち上げ、「新規事業アイデア社内公募」「外部講師を招いたワークショップ」「プロジェクトメンバーによる半年間の検討」といった取り組みを進めてきたが、まだ成果が出ていない。年間で俎上にのぼるアイデアは10個未満という状態。
そんな折、その会社のご担当者より連絡があり、訪問してヒアリングさせていただいた。

1 与件自体が非常にゆるい

A社ご担当者(以下同):「与件? いやいや。とりあえず自由に考えさせてみようかなと思って、とくに今までは決めていませんでしたね」

→「何でもいい」からは何も出てきません。制約や前提があるからこそ、発想が拡がるのです。

2 ゴールに向かうプロセスが組めていない

「うーん、進め方ですか。基本はプロジェクトに全部任せていますね。最終報告会で確認します」

→プロジェクトのプロセスをチェックする仕組みがないのは大きな問題です。

3 しかるべきスキルセットがない

「経験やスキルがメンバーにあるということでもないです。まあ、やっていく中で掴んでもらえればいいかと」

→進め方の知識と、作業や検討に必要なスキルがメンバーにある程度備わっていないと、長期間の取組みが上滑りします。

4 検討過程での指導役がいない

「“アイデア発想”の手法を教えてくれる外部講師にプロジェクトの最初に1日だけ来てもらいました」

→検討方法、アウトプット、論点設定などを客観的に評価する人間がいないと「できていること」と「できていないこと」を把握できません。

5 メンバーの評価軸がない

「メンバーを評価する方法はとくにないですね。基本的に、参加メンバーの自発性に委ねています」

→会社として真剣に取組むのであれば、いつまでも属人的な動機だけに委ねていてはいけません。
メンバーが「業務」として向き合える仕組みをつくる必要があります。

人材育成アプローチ「Project Based Learning」

以上のような問題を解決し、「場面」と「仕組み」によって社内イノベーターをつくり出す方法論が、私たちが提供するイノベーション人材育成アプローチ「Project Based Learning」です。

このアプローチの特長は、メンバーのスキルを高める「人材育成」と、実効性の高い成果を導く「プロジェクト」を掛け合わせている点にあります。
従来は、別々な取り組みだったその2つを1つのプロセスの中で同時に達成するのが、この方法論の独自性です。ポイントは、「つなげて思考すること」です。情報収集、アイデア創発、プランの具体化、事業可能性の検証のそれぞれのフェーズを「つなげる」ところに力学が生まれます。

その具体的なプログラムが「Innovator JAM」です。これは「イノベーション人材の育成」と「導入可能な事業プラン」の両方を実現するハイブリット型の次世代リーダー育成プログラムです。このプログラムでは、私たちが実際に業務で使用するフレームワークを活用し、メンバーに新事業、新商品を開発するプロセスに関わっていただき、アウトプットを導きながら、同時に以下の4つのスキルを高めていきます。

1 必要となる情報を自ら収集・編集加工する力
2 ユニークな事業アイデアを自ら創発する力
3 対話を通じてアイデアの練度を高めていく力
4 具体的なビジネスモデルとして纏め上げる力

プログラムの「キードライバー」は、以下の5つです。

1 短期間でアウトプットし切る「無駄のないプロセス」
2 コンサルの知恵を各局面で使う「思考を促す問い」
3 初期にインプットされる幅広い大量の「外部知からのアイデア」
4 チームの知を引き出す「ファシリテーション技術」
5 抜けなく要素を固めていく「アウトプットテンプレ」

プログラムの期間は2カ月から3カ月。その間に、3つのフェーズを進め、最後の「提案/評価」につなげていきます。

Phase1 発想基点となる情報の収集/加工

「イノベーティブな事業アイデア」を検討するために必要となる情報をメンバーが自らさまざまな視点に基づいて集めます。情報収集の視点や、具体的方法については、博報堂コンサルティングがレクチャーします。

<学びのポイント>
●テーマに合わせた情報を収集する能力
●収集した情報を編さんする能力
●情報を目利きし選択する能力

<博報堂コンサルティングが提供するもの>
●情報収集の視点
●博報堂が保有している生活者データ
●国内外のニュースソース

Phase2 独自性のある新事業/商品アイデアの創発

オリジナルの発想フレームを用いて、メンバー自らがイノベーティブな新規事業アイデア、新規サービス・商品アイデアを生み出します。アイデア発想ツールやフレームワークなどを博報堂コンサルティングが提供します。

<学びのポイント>
●博報堂独自のフレームワークを用いたアイデア発想スキル
●ディスカッションを通じてアイデアの練度を高めていくプロセス
●ほかのメンバーの発想の切り口や視点

<博報堂コンサルティングが提供するもの>
●新事業/サービスアイデア発想フレーム
●他業界の成功事例集
●アイデア創発「社会知」ネットワーク
●アイデア検討セッションファシリテーター

Phase3 フィージビリティ検証/プラン決定

前ステップにて選定された有望案について、それぞれのフィージビリティを検証し、具体化を進めながら、最終案として決定していきます。

<学びのポイント>
●新規事業/新商品アイデアについて、具体性と実効性を付与していくプロセス
●生活者視点に基づく、商品案のフィージビリティチェックのプロセス

<博報堂コンサルが提供するもの>
●新商品プラン テンプレート
●プロトタイピングツール

これから、いよいよイノベーションが重要な時代を迎えます。それを支えるのが人材です。イノベーション人材育成に課題をお持ちの企業様は、ぜひ一度私たちにご相談ください。

講師プロフィール

※掲載時プロフィールです。

楠本 和矢(くすもと かずや)
博報堂コンサルティング執行役員

神戸大学経営学部卒。
丸紅株式会社で、新規事業開発・育成業務を担当。
外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。
これまでコンサルティングプロジェクトの統括役として、クライアント企業に深くコミットする アプローチのもと、多岐にわたるプロジェクトを担当。
現在は執行役員として、重点クライアント企業のプロジェクト統括をはじめとした、
博報堂グループを横断した新規事業の開発と運営、及び外部企業とのアライアンス構築業務に携わる。

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