7月26日(水)~28日(金)に開催された「D3WEEK 2017」の最終日、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 安藤元博がモデレーターを務め、日本企業へのCMO導入の意義と課題、およびその方法論についてディスカッションを行いました。(以下敬称略)

前編はこちら

「全社的な視点でマーケティングに関わる」「PL責任を負う」……マーケティングを機能させるために必要なこととは

安藤
続いて、会社としてどうすればマーケティングをうまく機能させることができるのかについてうかがいたいと思います。どんな課題があり、何がカギとなり、何を変えなければいけないのか。実際、日本企業の中では必ずしもマーケティングが経営の中心課題であるという認識が定着していない部分もあるかと思います。石橋さんは草分け的に長くCMOCMOをやられていますが、いかがでしょうか。

石橋
我々の会社では、マーケティングというのは、マーケティング部門だけではなくて全社あげてやるべきこと、あるいは全社員がマーケティング的な思考でビジネスに向き合うべきだとしています。誰が顧客かを見極め、その顧客の問題を探り、そして解決に導くという一連のプロセスから付加価値を生み出す活動というものがマーケティングだと。例えば、人事部門であれば、顧客になるのはいろいろな部門の社員であり、リタイヤした人であり、あるいは就職活動生でもあり……そうした人たちが抱える問題を探し、ソリューションを見出し、提供するということが必要なわけです。
そうした意識を持って、当社では毎年イノベーションアワードというイベントを行っています。自分の顧客は誰かというのを個人個人が定義し、問題を発見し、対応策を実行、その結果を発表するコンテストです。全社員2500人いますが、昨年は4700件がエントリーしました。その中から各部門で選ばれたトップ37から、役員会で投票し優勝者を決めます。全社員がマーケティング的な考え方、進め方を身に付けながら、イノベーションを起こしていこうという取り組みです。

安藤
マーケティングは、必ずしもマーケティング部門の人がやる話ではない、あらゆる部門の人がマーケティングという考え方の中で動くことがカギだということですね。どうしても現場の目線で目の前のことだけを見てしまいがちですが、全社的な視点でマーケティングにどうかかわっていくかという目線が必要ですね。

富永
私は、マーケティングとは、まずはいい製品をつくり、そしてそれがしっかりと伝わるようなコミュニケーションをして、お客様にいかにいい驚きを感じてもらうかが大事だと思っています。ベストプラクティス、いわゆるベスプラは絶対善のようにとらえられていると思いますが、お客様に対してインパクトをつくるということにおいては、絶対悪だと思う。同じ漫才を2回見て、2回目の方が面白かったという人はいないですよね。すでに成功した何かを追うというのは、基本的にはそれよりもインパクトは弱くていいよと言っているのと同じなのです。類似してしまうのは「競合は何をやってるんだ」「去年は何がうまくいったんだ」という問いかけが起因している。この姿勢は、サプライズを仕掛けようとしたときに最大の敵になる。だから先ほどの話にも似てきますが、誰もがついついやりたくなることをあえてやらないで、そうではない反対のことをどれだけうまくやっていけるかということが成功のカギかと思います。

足立
マーケティングが企業経営において重要だと何十年も前から言われていながら、なぜマーケティング的な考え方や打ち手ができない会社が多いのか。そうした会社のパターンとしては、製品がすごく強いとか、営業がすごく強いとか、要はマーケティング以外の部分がビジネスのために最も重要だと思われているのです。そういう場合、結局はお客さん側の目線から発想することが大事なのだと思います。営業に「営業はマーケティングの一部です」と言っても「絶対違う!」と言われますから、「お客様の声を聞きましょうよ」「お客様を驚かせましょうよ」という風に、要は「お客様視点」でやっていくことが必要なのかなと感じています。

安藤
確かに、お客さんを中心に考えていくというのは意外とできていなかったりしますね。営業は営業で、流通の声を聞いているだけとか、慣習上こうだからこうしているだとかで、実はお客さんと向き合っているわけでもなかったりする。じゃあ、社員全員でお客さんに向き合おうよと言って反対する人はいないのではないでしょうか。これはやはりカギのような気がしますね。

富永
マーケティングって誰でもできることだと思われている感があり、そもそも専門職集団であるという風に見られていない。そういう出発点にいる気がしますね。

足立
それから、マーケティング部門が機能しているケースを見ると、たいていの場合PL責任をマーケティング部門が負っている。逆に言うとそういうケースでなければマーケティングが機能しない。マーケティングはお金を使う仕事ではなく、お金を生み出す仕事だという認識になっていけば回りそうな気がします。

企業は、マーケティングをどうとらえ、何をどう進めたいかという根本的な問いから始めるべき

安藤
企業においてCMOを設置してみようとか、CMOになりましたという方も増えてきていると思いますが、成功のポイントを教えていただけないでしょうか。乱暴な質問ですが(笑)。

石橋
乱暴な質問…(笑)。答えはないのですが、マーケティングが何をやるべきかという根本のところからスタートしなければいけないと思う。マーケティングを機能させるため、動かすために、必要であればCMOを設置すると考えるべきなのです。ですからまずは企業が、マーケティングをどう考え、どう進めていきたいかを考えることが大前提。足立さんの指摘にあったように、やはりPL管理をしないとマーケティングはうまく機能しないので、販促部門などで、トータルのPLに関する責任を持たない部門でCMOと名付けたとしても、あまり意味がないような気がします。

富永
CEOの視点から捉えると、基本的にCMOが言ったりやったりすることは、どこか突飛だったり、直感に反していることがあると思うのです。それは先ほど言ったように前例主義じゃだめだと考えているから。そこを、役員会のなかでちゃんとサポートできるような信頼関係があるかが一番重要だと思います。ではCMOとしてどうしていけばいいかというと、小さな成功を積み重ねていって、少しずつ信頼を築いていくしかないと思う。いきなり大きなところに取り掛かるよりも、身近なところからアクションを起こすといったことを地道に繰り返すことなのかなと思います。

足立
CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を翻訳するとマーケティング本部長となりますが、実際はCMOの責任はもうちょっと大きいですよね。マーケティング本部は先ほど言ったようにPL責任を持たない場合が結構多い。そんななかで、会社全体、または事業全体から管理部門以外の全て(売上と利益)に責任を持つ社長のナンバー2のような立場のポジションをつくり、与えられるかというのは、結構大きな仕事だとは思います。

マーケターにだけ許された達成感と面白さがある。これからもマーケティングを楽しんでいきたい

安藤
現在日本マーケティング協会において計画している「CMOソサエティ」では、日本企業の経営の中心にマーケティングドリブンな考えを普及促進していくことが、日本の企業社会において非常に意味があることだと考え、これを進めていこうとしています。マーケティング学会などの学術界と連携しながら、世界をリードする理論を発信していければと思いますし、セミナーやメディアを通じて、日本の企業にグローバル、テクノロジーの製品情報を伝達していくこと、あるいは将来CMOを目指す人材の育成に貢献する……といった機能を想定しています。またもっとも重要な点として、先ほど述べた目的を実現させるためにも、CMO同士の関係づくり、情報交換を行っていけたらと考えています。
最後に、お三方から一言ずつメッセージをいただければと思います。

足立
売上や利益の目標があり、それを達成するためにあれこれやってみる。マーケティングは僕にとっては、ちょっと不遜ですが一種のシミュレーションゲームのような感じなのです。仕事をゲームのように楽しめる感覚なんてなかなかないと思います。マーケティングにいま携わっている方は、是非楽しんでいただきたいですね。

富永
これをやったら生活者がこう動いてくれるのでは?という商品やコミュニケーションを考えてみたり。また、上司や役員会に「絶対無理」と言われながらも、説き伏せて、それが当たったときの気持ちよさ。どうだ、見たか、というのがマーケティングの妙味だと思う。ペイは安い、職掌は広い……CなんとかOのなかで、CMOは圧倒的に寿命が短いそうですが(笑)、それでもなぜ続けているかというと、その気持ちよさがあるから。それはマーケターの特権です。これを楽しんで、味わって、進めていけたら、日本のマーケティングは大丈夫かと思います。

石橋
顧客の問題を解決し、新たな価値をつくるという点において、日本企業や社会、さまざまなところで、マーケティングはまだまだ足りない状態だと思います。マーケティングをもっと日本の皆さんに理解していただき、いろんな立場の人がマーケティング的な発想でビジネスの向上に努めていけば、日本は強くなるのではないかと思います。それから、今まで人がやっていないことにチャレンジして、成功させるという面白さや達成感、そしてそこから得られる刺激はマーケティングでしか味わえないと思う。これからも楽しんでマーケティングをやっていきたいと思います。

安藤
本日はありがとうございました。

■プロフィール

石橋昌文 氏
ネスレ日本 専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー マーケティング&コミュニケーションズ本部長

1985年に神戸大学経済学部卒業、ネスレ日本に入社。営業本部、ネスレUK、ネスレマッキントッシュ (現コンフェクショナリー事業本部)、ネスレスイス本社での勤務を経て、2005 年に同マーケティング統括部長。2009年ネスレ日本の常務執行役員コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部長、2012年チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任。2017年より同社専務執行役員。 日本マーケティング協会常任理事、日本マーケティング学会常任理事。

富永 朋信 氏
ドミノ・ピザ ジャパン 執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー

日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「CMOde」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続ける。西友では企業イメージを一変させるキャンペーンを連発。ブランドの構造はカテゴリーによって違うことに気付き、全カテゴリーのブランド構築に対応できる方法の開拓に頭を悩ませる。座右の銘として今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」「渾身のアイデアは全てを解決する」。

足立 光 氏
日本マクドナルド 上席執行役員 マーケティング本部長 チーフ・マーケティング・オフィサー

P&Gジャパン、戦略コンサルティングファームを経て、独ヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケルに転身。2005年同社社長に就任。2007年から同じヘンケルグループのシュワルツコフ プロフェッショナル事業の日本代表を兼任し、2011年からはヘンケルグループのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。ワールド執行役員国際本部長を経て、2015年より現職。 一橋大学商学部卒業。2016年「Web人賞」受賞。

安藤 元博
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 エグゼクティブマーケティングディレクター

1988年博報堂入社。以来、数多くの企業の事業/商品開発、統合コミュニケーション開発、グローバルブランディングに従事。ACC(グランプリ)、Asian Marketing Effectiveness(Best Integrated Marketing Campaign)他受賞多数。ACCマーケティングエフェクティブネス/カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル等の審査員を歴任。日本マーケティング協会において2011年からCMO研究会を企画・推進。著書『マーケティング立国ニッポンへ―デジタル時代、再生のカギはCMO機能』(共著)等。東京大学大学院・学際情報学府修了(社会情報学)。

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