ご好評をいただいた「動かす言葉」の第2弾セミナーが3月27日に開催されました。業務マニュアル「MUJI GRAM」の導入などによって無印良品を復活させた松井忠三氏と、博報堂グループ会社のTBWA\HAKUHODO、クリエイティブディレクター細田高広が、「言葉で人を動かす」ことの本質について語りました。

「無印良品」復活と改⾰を導いた経営者に学ぶ哲学

松井オフィス代表取締役社⻑ 良品計画名誉顧問 松井忠三氏

1999年をピークに業績不振に

セゾングループのスーパーマーケットチェーン西友のプライベートブランドであった無印良品は、1989年6⽉、良品計画という新会社のもとでスタートを切りました。コンセプトは「わけあって安い」。その「安さ」は、素材、工程、包装などについて考え抜くことで実現したものです。「シンプル」「機能性」「経済合理性」「個性化」「ナチュラル」「実利志向」「ユニット・モジュール」「⽣成」などが当時のキーワードでした。
90年から99年にかけて、良品計画は順⾵満帆の成⻑を遂げました。成功の要因として挙げられるのは、ブランドコンセプトの浸透、セゾングループから脱した独自路線、商品開発力、⽣活雑貨拡⼤による差別化などでした。
しかし、99年をピークに業績は一転して悪化していきます。要因は外部よりも内部にあったと考えられます。「無印はこれでいいんだ」という慢心があったこと、大企業病が急速に進んでいたこと、「わけあって安い」というコンセプトが希薄化しブランドパワーが落ちていたこと、急速な拡大政策がうまくいかなくなっていたこと──。それらがブランド衰退の要因でした。

「敗けた構造」から「勝つ構造」をつくる

そこで私たちは、2001年から02年にかけて大きな改革に着手しました。まず、経営陣を入れ替え、店⻑とのダイレクトコミュニケーションを強化し、経営改⾰プロジェクトを発⾜させました。また、不良在庫の処理、不採算店の閉鎖・縮⼩、海外のリストラなども断行しました。さらに、「お買い物優待券」や「MUJI CARDポイント」などの新しい仕組みを導入し、⽣産・調達構造も同時に、改⾰しました。これらの施策に取り組むことで、業績は徐々に回復に向かっていきました。
「敗けた構造」から「勝つ構造」をつくること。それが次の私たちのチャレンジでした。まず着手したのは、企業体質の改⾰です。衰退の理由は何だったのか。私たちが育った企業風土にあるのではないか。そんな問いを立てました。

セゾングループのビジネスには「文化と感性」「個店経営」「経験主義」「個人」といった特徴がありました。一方、良品計画のビジネスの特徴は「科学的」「チェーンオペレーション」「⾒える化・マニュアル化」「組織」などの言葉で表すことができます。つまり、セゾンと良品計画の価値観は対極にあり、「セゾンの常識は良品計画の⾮常識」であるということです。その点を明確にした上で、新しい「仕組み化」「見える化」「風土づくり」に着手しました。

全方位的な改革を推進し、復活を果たす

ブランドについては、「わけあって安い」というコンセプトを進化させていくことを目指しました。それまでのコンセプトから、「“これがいい”ではなく“これでいい” 」「ハイクオリティー・ベーシック、リーズナブルプライス (賢い低価格、豊かな低コスト)」「創造的な省略=究極のデザイン」「素(素⾷・スローフード)」へ。さらに、世界のクリエイターとコラボレートする「WORLD MUJI」、世界中から優れた商品を発掘して再生させる「FOUND MUJI」といった取り組みも始めました。
商品開発に関しては、ヨウジ・ヤマモト社との提携、企画デザイン室の新設、商品企画ミーティングの定期化といった施策を進めました。また、販売面では、出店基準、改装基準を見直しました。
なかでも、とくに力を入れたのは、業務改革です。13冊、2000ページにわたる店舗業務マニュアル「MUJI GRAM」を作成し、業務の標準化と⾒える化を推進しました。このマニュアルは固定化せずに、現場の社員の声を受けて随時更新し、年4回改訂して配布することにしました。のちには海外版も作成しています。
企業風土づくりの点では、「決まったことを決まった通りキチンとやる」ことを徹底しました。たとえば、「挨拶」「さんづけ」「定時退勤」「クリアデスクルール」「共有⽂書」「整理整頓の⽇」などです。
人材マネジメントと育成の面では、「MUJI GRAMや本部業務基準書を用いた育成」をベースに、全社最適の視点で適材適所の配置を行う「⼈材委員会」、個々の専門性を高めるための「⼈材育成委員会」などを設置しました。

これらの取り組みの結果、無印良品は復活を遂げることができたのです。

グローバル企業への道を歩む

 最後に、海外展開についても触れておきたいと思います。無印良品の海外初出店は1991年、出店先は英国でした。その後、店舗数は着々と伸び続け、2016年11⽉末現在、28の国・地域で計384の店舗を展開しています。2015年度の海外売上⾼は1090億円で、これは連結売上⾼構成⽐の35%を占めます。
グローバルビジネスを成功させる要件は、「ブランド」「オペレーション力(実行力)」「ビジネスモデル」の3点であると私たちは考えています。しかし、「グローバルマーケット」というものが存在するわけではありません。それぞれの国や地域ごとに独自のマーケットがあるだけです。良品計画がグローバル企業への歩みを続けられているのも、日本の常識にとらわれず、それぞれの地域特性に応じたきめ細やかなビジネスを展開できているからである。そう私は考えています。

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言葉の経営学──未来は言葉でつくられる

TBWA\HAKUHODO シニアクリエイティブディレクター細田高広

「企業主語」か「ユーザー主語」か

MP3プレーヤーが初めて登場したのは、1990年代後半のことです。「5GBのMP3プレーヤー」──。それが最初の商品のキャッチコピーでした。1000曲もの楽曲を入れられるというのは当時としてはすごいことでしたが、一方で問題もありました。例えば793曲目の曲を聴こうとすると、その曲を見つけるまでボタンを押し続けなければならないなど、操作性があまりよくなかったのです。
その2年後、スペック上は最初のMP3プレーヤーとまったく同じ商品が登場し、音楽シーンを席巻しました。皆さん、ご存知のiPodです。iPodは、先行商品とスペックは同じでしたが、開発コンセプトは大きく異なりました。コンセプトは「1000曲をポケットに」です。一見、「5GBのMP3プレーヤー」と同じことを言っているようですが、決定的に違うのは「主語」です。「1000曲をポケットに」の「ポケット」とは「あなたのポケット」ということです。つまり、主語が企業ではなくユーザーになっているのです。
その考え方は、操作性にも反映されています。電源ボタンはありません。どこかを押せば動き出します。ポケットの中で片手で操作できることを重視しているからです。ホイールの上で指を滑らせることで目的の曲が簡単に見つけられるという機能も、ユーザビリティを大きく高めました。

入口の言葉が「企業主語」か「ユーザー主語」かで、その商品やブランドのあり方は大きく変わる。その好例と言えると思います。

「創造的正当化」がイノベーションを生む

経営には「数字の経営」と「言葉の経営」があります。数字の経営は「マネージャーの仕事」であり「過去と現在」を対象としたものであり「進捗管理」を伴うものであり、「客観性と合理性」によって進め、「経営の健全性を保つ」ことが最大の目的となります。
それに対して言葉の経営は、「リーダーの仕事」です。「未来」を対象にしたもので、「目標や行く先を決める」ために行われるものであり、「創造性」が必要とされ、最大の目的は「変革を成す」ことです。
言葉の経営が重要なのは、それが「創造的正当化」を可能にするからです。これは、『イノベーションの理由』(有斐閣)という本の中に出てくる言葉です。「創造的正当化」は、次のように説明されます。
事業やプロジェクトの「事前の成否評価」と「事後の成否評価」をそれぞれ横軸と縦軸としたグラフがあります。評価は大きく4つのブロックとして現れることになるでしょう。すなわち、「想定内の失敗」「想定外の失敗」「想定内の成功」、そして「想定外の成功」です。「想定内の成功」は、すでに他社に先行事例があるような成功であり、いわば「小さな成功」です。それに対し、本当のイノベーションと呼べるのは、事前には成功すると思われていなかったにもかかわらず大きな成功を収めた「想定外の成功」です。経済的合理性には欠けるが、そこに資源を投じた結果生まれるもの。それがイノベーションです。そしてそれを生み出すのが、「創造的正当化」なのです。
企業やブランド固有の「言葉」は、その「創造的正当化」のプロセスに大きな役割を果たすと私は考えています。たとえばアマゾンのジェフ・ベゾスは、数字による経営判断に対して、言葉の経営判断を常に重視してきました。

ストーリーをつくるための3つのポイント

企業には、ビジョンがあり、事業コンセプトがあり、商品開発コンセプトがあり、ストア戦略があり、広告・PR活動があり、最終的にカスタマーが受容するメッセージがあります。そのすべてを貫くストーリーをつくるのが「言葉」ですが、それができている企業は実はそう多くはありません。また、そのすべてをストーリーとして語れるリーダーも日本には残念ながら少ないのが現状です。

ストーリーをつくるためには、3つのポイント、すなわち「ミッション」「コンセプト」「ビジョン」を踏まえることが大切です。この3つの言葉は時に混同されますが、時系列で考えると違いが明確になります。
ミッションは、「なぜ企業やブランドが立ち上がったのか」という「過去」を示す言葉であり、ビジョンは、生み出したい「未来」を示す言葉です。その2つの間にあるコンセプトは「今」やるべきことは何かを示す言葉です。この3つが決まると事業やブランドのストーリーが出来上がります。

ここでは、ビジョンの描き方の具体例を挙げておきたいと思います。ココ・シャネルの例です。
ポール・モランという詩人は、シャネルを「皆殺しの天使」と呼びました。彼女が女性服の常識をことごとく切り捨てていったからです。「女性のカラダを自由にする」──。それが彼女が掲げていたビジョンでした。
現在では考えられませんが、当時、女性は男性のいわば「装飾品」と考えられていました。女性服は男性が買い与えるものであり、女性服とは男性のための服だったのです。シャネルは、そんな文化を変えるために、働く女性を増やし、女性が自立して自ら服を選べるようにならなければならないと考えました。そしてそのような自立した女性のための洋服を作ろうと考えました。彼女は洋服から「女性の時代」をデザインしたのです。
コルセットのいらないドレス。自由に動けるジャージー素材のドレス。両手を自由にするショルダーバッグ。片手で使えるリップスティック。比較的安く買えるイミテーションジュエリー(アクセサリー)──。彼女がつくったものは、すべて「女性のカラダを自由にする」ためのものでした。ビジョンを実現するために、何をやらなければならないか。それを考えたところに、シャネルというブランドのコンセプトが生まれたとのです。

「言葉」そのものがマーケティングになる

ビジョンのつくり方は法則化できるものではなく、それぞれの事業やブランドに即したやり方で行う他ありません。しかし、参考になる事例はいくつかあります。その一つが、Yahoo!JAPANの取り組みです。
同社は、昨年創設20周年を迎えました。それを機に、我々のチームが社員の皆さんと次の20年を見込んだビジョンをつくるお手伝いをさせて頂くことになりました。手始めに全社員7000人にアンケートを取ったところ、多く寄せられたのは「情報通信のインフラ企業としてのYahoo!Japan」といった方向性の言葉でした。「情報インフラ」「安全で安心なITポータルへ」「ガス、電気、水道、鉄道、ヤフージャパン」「すべての人にITを」「ITの力で……」「IT最先端……」などです。しかし、これらの言葉はすべて現状をなぞったものです。
一方、少数ながら次のような言葉もありました。「ネットから人へ」「ネットに閉じていたくない」「“ネット社会”じゃなくて“社会”に貢献したい」「ひとりひとりをエンパワーする会社へ」──。社長も私たちも、こちらの方向性こそがこれからの時代に向けたビジョンにふさわしいと考えました。
議論の中で見えてきたコンセプトは「画面の奥の、人々をアップデートする会社になろう」というものでした。そこから「UPDATE JAPAN」というビジョンが生まれたのです。ビジョンとともに公開したムービーは社員だけでなく、社外からも好意的な反響が寄せられました。
マーケティングとは広告やPRだけを指すものではありません。その企業がもつ、独自で一貫性のある「言葉」。その言葉そのものがマーケティングになるのだということを、最後にお伝えしておきたいと思います。

後編に続く>

*当セミナーの概要はこちらをご確認ください。

*Executive Marketing Forum「動かす言葉」セミナーレポートアーカイブ

「動かす言葉」1 前編-JR九州 唐池会長が語る、「“言葉”に“気”を込めて伝える方法」とは?

「動かす言葉」1 後編-「ネーミングは、中身や品質が伴ってこそ。」