JR九州の唐池恒二会長、HAKUHODO THE DAY 佐藤夏生の講演の後、ファシリテーターとして博報堂イノベーションデザイン ディレクター岩嵜博論を迎え、パネルディスカッションが行われました。
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写真左)HAKUHODO THE DAY 佐藤夏生、JR九州 唐池恒二会長、博報堂イノベーションデザイン 岩嵜博論

言葉によって奮起させられた経験

岩嵜(司会) 人口が増え続けていたこれまでの日本では、企業の成長が約束されていたと言ってもいいかもしれません。その状況が大きく変わろうとしています。30年前の国鉄民営化も、当時国鉄で働いていた人にとっては非常に大きな変化だったのではないでしょうか。

唐池 たいへん大きな変化でしたし、とくに私がいたJR九州、それからJR北海道、JR四国の3社の経営は非常に厳しくなるだろうと言われていました。その頃に、奮起させられた言葉がありました。「三島(さんとう)」という言葉です。「三島」とは、北海道と四国と九州を島になぞらえた言葉で、JRグループ内では普通に使われていました。つまり、佐渡島とか淡路島とか、そういう島と同じ扱いということです。これが私には非常に屈辱的で、「なにくそ!」と思いました。あの言葉があったおかげで、必死に働いて見返してやろうと奮起しました。これも一種の言葉の力と言っていいと思います。

岩嵜 多くの企業と仕事をしてきている佐藤さんですが、クライアントの心を動かす言葉というものはありますか。

佐藤 クライアントから出されている課題に一つ一つしっかり答えることも大事なのですが、僕は以前、「課題を解決するだけなら、社内の人間にやらせる。社内からは出てこないアイデア、新しい可能性を持ってきて」とある経営者に言われたことがあって、「可能性を提案することが外部の人間の役割なんだな」と気づきました。クライアントのことを深く理解しつつも、できるだけフリーに考えること。そして、ちょっとずれていること。そして、それによってクライアントの可能性を広げること。それが大事だと思っています。クライアントと完全に同期するのが僕たちの仕事ではないということです。そんなことを考えながら、いつも適切な言葉を探しています。

岩嵜 社内の会議などで、ご自身のアイデアや思いを伝える方法がありましたらお聞かせください。

唐池 私は、「自分がやりたいからやりたい」でいいと思っています。ビッグデータの活用やマーケティングリサーチももちろん大事です。しかし、私自身に関して言えば、これまでやってきたことの99%は「自分マーケティング」でした。自分が食べたくなるような店をつくる。自分が乗りたいものをつくる。それがほぼすべてです。これは、自分の感覚が大衆の感覚と近いうちは成功します。しかし、そこに乖離が出てくると間違える。乖離してきていると思ったら、自分が信頼する誰かのリサーチをすることです。自分、もしくは自分が信頼する誰か。そういう少数のデータで十分だと私は思っています。

佐藤 「私が好き」というのは提案の場面では強い力を持ちますよね。僕は団塊ジュニアの世代なのですが、得だなと思うのは、自分が好きなものに共感してくれる人、世代が人口構成上多いことです。

言葉の選び方で、商品やサービスの存在感が変わってくる

岩嵜 唐池さんはこれまで数多くのネーミングを考えてこられました。とくに気に入っているものは何ですか。

唐池 去年の4月に博多にオープンした店があります。駅から200メートルから300メートルくらい離れたオフィスビルの地下にあって、私はその店に「駅から300歩横丁」と名づけました。このネーミングなら、地下でも入ってもらえるのではないかと思ったからです。これが2位です。
1位は「うちのたまご」ですね。福岡県の飯塚市に内野という地域があって、そこに私たちの養鶏所があります。その「内野」と我が家の卵であるという意味で「うちの」をかけた。それが「うちのたまご」です。
実はもう一つ、幻のネーミングがあります。鹿児島の養鶏所の人が、私たちのところに卵を売り込みに来たことがありました。食べてみるとものすごくおいしい。私は「これも店で売りなさい」と指示しました。しかし、スタッフは「並べたら『うちのたまご』が負けてしまう」と言う。私は、「大丈夫だ。名前を別にすればいい」と言いました。「うちのたまご」に対して「よそのたまご」にすればいいと。これはさすがに採用されませんでしたね(笑)。

佐藤 言葉には、ものの価値を正確に言い当てる役割を持つものと、勢いをもって伝播していくものとがあると思います。「うちのたまご」は、とても勢いのあるネーミングですよね。

唐池 言葉には不思議な魔力があって、言葉の選び方、表現の仕方によって、店や商品やサービスの存在感が大きく変わります。しかし、最後はやはり中身、品質だと思います。ネーミングで引き寄せても、それが名前倒れになってはどうしようもありません。内容がともなってこそのネーミングです。

私は池波正太郎のファンなのですが、彼の小説のタイトルはものすごくシンプルなんですよ。あれはおそらく中身に自信があるから、あえて愛想のないタイトルをつけているのだと思います。「ネーミングには頼らない」というスタンスなのでしょう。中身に本当に自信があれば、そういうこともできるということです。

佐藤 品質が伴っていなければならないというのは、まさにその通りだと思います。僕はその品質を言葉で表現するとき「解像度」という視点を持ちます。「クオリティ」だとなかなか伝わりにくいからです。その商品、サービスのことをどれだけ高い解像度をもって考え、わかりやすい言葉で表現できているのか。それをクリアするまで、何度もダメ出しをするのがリーダーの仕事なのではないかと思っています。

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※登壇者の所属・肩書は、講演当時のものであり、現在の情報と異なる場合があります。