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【SXSW2017現地レポート】 テクノロジーの持つ可能性は”進化、前進”だけではない。

2017.04.17
#クリエイティブ#グローバル#テクノロジー

博報堂PR戦略局の小木曽です。

2017年3月10日~16日に米国・テキサス州オースティンで開催された、世界的なテクノロジー・スタートアップ・イベントSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)2017に、博報堂ブースのPR担当として参加しました。今回は、現地の様子・気づきをレポートにてお届けします。

SXSWとは?

オースティンは元々世界的ライブミュージックの中心地とも呼ばれ、
SXSW開催中のオースティンの夜は一帯が”音楽の街”へと変貌します。
特に数多くのライブハウスやクラブが軒を連ねる6th streetでは、
街のありとあらゆるお店からロック、ジャズ、メタル、ヒップホップ、カントリー、テクノなど、様々なジャンルの音楽が昼夜問わず流れていました。

そもそもSXSWは、オースティン在住のインディーズアーティストのマネージャーたちが、アーティストをどうやって売り出していこうか意見交換しよう、と呼びかけたのが始まり。その呼びかけに応えたアメリカ中のアーティストマネージャーが参加を申し込み初回は700人が集まったそうです。以降、ミュージック以外にもフィルム、インタラクティブ、更に今年からはコメディがカテゴリーに加わり、毎年約20万人以上が参加する一大イベントへと成長しました。日中はセミナー、勉強会、トレードショー(見本市)、夜には至る所でライブコンサートが行われ、新興企業や新サービスの登竜門とも言われています。

今回、博報堂がブースを出展していたのはSXSWの中でもトレードショーという、街の中心地のコンベンションセンターで催される見本市。インタラクティブにまつわるプロダクトやプロトタイプが世界各国から出展されます。
イノベーションのパートナーを探す起業家、投資家、メディアが来場し、その場で商談や開発協力などが話し合われることもあります。
日本からも多数の企業や研究機関が出展し、日本からの展示が集中する”日本勢展示ブース”は連日活況を見せました。また、今年は約700名を超える日本人が来場したと言われており、情報発信、プロモーションの機会としてSXSWのブランドが確立された印象も受けました。

そんなSXSWのトレードショーで垣間見えた、“テクノロジーの可能性“を展示事例と共にレポートいたします。

博報堂ブースも連日大盛況

最初に、博報堂ブースでの展示内容を紹介します。今年の博報堂ブースのキーワードは「ブレイクスルー」。広告会社として新領域の挑戦を活性化している今、最新テクノロジーを活用し開発したプロダクトを展示し、「未来の種」を世界へと発信してまいりました。

展示作品は、鏡の前に立つ人の顔を認証して広告を出し分ける『Face Targeting AD』、眼の動きだけで様々な電子デバイスの操作を可能にする『JINS MEME BRIDGE Platform』、音楽を全身で体験できる『LIVE JACKET』、普段の会話を分析し最適な英会話を学ぶことができる小型マイクデバイス『ELI』、オリジナル照明をつくることができるプログラミングツール『HACKABLE BULB』、日々の努力量が可視化される筆記用具用計測アプリ『TRACE』、伝導性インクを活用した光の模様を描ける『FLOTICON BALLOON』など、博報堂が自社開発や共同開発したユニークな7つのプロダクトを展示、実演しました。

博報堂ブース
(左上から右に)『Face Targeting AD』、『JINS MEME BRIDGE Platform』、『LIVE JACKET』、『ELI』、『TRACE』、『HACKABLE BULB』、『FLOTICON BALLOON』

私は連日ブースに立ち、来場者の方々へ稚拙な英語で説明を続けました(学生時代のイベント物販アルバイトを思い出しました(笑))。プロダクト体験をして頂いた来場者の方々からは「クライアントワーク主体の広告会社がなぜSXSWに?」「実際に発売の予定はあるのか?ぜひ我々の店舗で売りたい!」「開発予算が必要なら投資検討するからいつでも連絡くれ!」など、いつの間にかディールが始まるほど盛り上がりを連日見せました。

またライブパフォーマンスに出演するミュージシャンやアーティストもトレードショーに来場しており、『JINS MEME BRIDGE Platform』を使用した武藤氏のDJプレイや『LIVE JACKET』を視聴、試着した体験者からは是非自分のパフォーマンスでも使ってみたいなどのオファーもありました。

一日150人を超える来場者の方々とコミュニケーションをとる中で特に私が特に気になったのは、“Sooo Black Mirror …” という反応でした。『BLACK MIRROR』とは、2016年10月から日本でも放映している海外ドラマで、近未来を舞台に「こんな未来がきちゃったらどうするか」という実際に起こり得る現代の世の中をシニカルに描いた作品です。例えば、SNS が生活の中心になり、すべてが「いいね」のランクで決まる世界や、自分の記憶のすべてを保存できるチップをカラダに埋め込んで何度でも記憶を再生できる社会など、一言で説明するならば、海外テクノロジー版「世にも奇妙な物語」といったところかと思います。

”Sooo Black Mirror …”という発言をした来場者にヒヤリングをする中で私が感じたのは、SXSWに来場した人々の多くが、先進技術によって体験を前進、進化させたプロダクトやサービスそのものでなく、「それらが近未来にもたらすであろう新しい世の中の解釈や価値観」といった“可能性”に対して反応、理解を示しているということです。

そのような視点を踏まえ、最後に、他にトレードショーで私が目にした”So Black Mirror”な作品をいくつかご紹介いたします。

1.世界最大の遺伝子データベース+プロファイルキット「ORIG3N」

再生医療の先駆企業であるORIG3N社が血液細胞を自分で採取することができ、専用のデバイスを使用するとドイツの研究機関に自分の細胞情報が送信され、遺伝子情報を蓄積、分析することができるプロファイルキットをパッケージ販売。“科学技術の民主化“をミッションとし、遺伝・細胞情報レベルでユーザーが自分の能力・筋力・ユニークネスを知ることができると共に、研究者がより安全で効果的な薬品、遺伝性の病気の治療研究に役立てるデータベース構築に取り組んでいます。

2.カワイイはテクノロジーでつくれる「+move」

日本からの出展になりますが、パルコが「未来の東京ファッション」をテーマにクラウドファンディングで募り、プレゼンテーションで勝ち残った東京大学の学生中山桃歌さんらの作品を出展。“日常生活にありふれている物が動くようになったら、日常生活が 特別になるのではないだろうか。動きだけで人に驚きを与えられることを伝えたい”という想いから、手をかざすと逃げ出し、モノにも反応して近づいても逃げ出すハンガーを制作。かかっている服が自動で一定間隔になろうとする様子は、服が生きているように感じ、洋服に新しい価値観をもたらす可能性があると感じました。

3.耳につけるスマホ 人工知能搭載ヘッドフォン「Vincii」

キックスターターで目標額の900%を達成した、人工知能搭載スマートヘッドホン「Vinci」が実機をお披露目。MITでハードウェア光学を学んだ北京生まれのウーさんが、“ヘッドフォンの機能ではなく、歩きスマホより便利な体験から未来を描く”というミッションのもと開発。内蔵された人工知能が傾向を分析し、どんどん自分好みに育っていくため、一言で言うならば、スマホが内蔵されたヘッドフォンとも言えます。注目すべき点はユーザーのためにヘッドフォン自らが選曲できてしまうこと。学習情報、時間、場所、生体測定値などからコンテンツとの出会いを生み出すだけでなく、音楽の領域を越えて道案内やuberの呼び出しも可能です(現在購入も可能)。

テクノロジーは新たな解釈と価値観を生み出す起爆剤

このように、紹介させて頂いた三つのプロダクトは、テクノロジーの進化、前進による機能の拡張ではなく、新しい解釈や価値観となるベクトルを世の中に指し示しており、『BLACK MIRROR』のようなちょっと先の未来を垣間見ることができました。また、それらの多くの技術は開発者による強い想いや、社会課題に対する明確なミッションを持っていました。西海岸同様に”先駆者の想い”をサポートする環境があるが故に、SXSWに集まる人々も技術の仕組み以上に開発者の想いに関心を寄せているように感じました。故に、プロモーション色の強すぎるプロダクトは避けられていた印象もありました。

つまりテクノロジースタートアップが成長するために重要なことは、世の中への新提案として受け入れられる”可能性”と”ジャンル開拓”をきちんとコミュニケーションで伝えることでは無いでしょうか。

このコミュニケーション領域こそ、広告会社が新たな解釈を定義づけることで、テクノロジーに意味が生まれ、価値になるのではないか。また、開発者の想いにきちんと寄り添いながら、世の中に打ち出す確度を少しずらすだけで、到達地点の最大距離は十分に伸びるような気がしました。

また、特にテクノロジー系のスタートアップにおいては、発展段階によってコミュニケーション課題は異なるものの、PR(第三者を介した社会との合意形成)は必要不可欠な取組み。「ミッションに寄り添いながら、ビジネスを育てる」という取り組みに広告会社としてチャレンジしたい…そう感じた、7日間でした。

博報堂ブース関係者で記念撮影

小木曽 詢(おぎそ・しゅん)
博報堂PR戦略局

1990年東京都生まれ。なんちゃってニューヨーク育ち。大学ではデザイン思考に基づいたサービスデザインを研究。2014年博報堂入社。「エンターテインメントの力で社会との合意形成を創る」ことを目指し、イベントプロデュース、ブランド体験装置開発、戦略PRなど、PR発想を基点にしたコミュニケーションププラニング業務に従事。現在はデジタルPR部で新たなPRビジネス開発・戦略立案を通じて、パブリック・リレーションズの価値再定義に取り組んでいる。日本PRアワードグランプリ、Cannes Lions、Spikes Asia、ADFEST等受賞歴有

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