今年2月に誕生したQuality Of Rōgo Challenge (QORC:コルク)は、博報堂ソーシャルデザインと博報堂イノベーションデザインに所属する30代、40代の女性プランナー、クリエイターなどが集い、豊かな老後のために必要なこと、商品やサービスについて考える活動です。(>詳しくはこちら

そのキックオフイベントが2月26日(日)、東京都内で開催されました。テーマは「ハッピーな老いって?」。博報堂こどもごころ製作所が提供するクラヤミ食堂とのコラボレーションで、参加者たちは、真っ暗闇の中、老いを感じながら食事をする時間旅行を体験。その後、新しい形のサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を主宰する下河原忠道さんも交えながら、幸せな老後の形について思い思いにディスカッションを行いました。

クラヤミでの食事で、「老い」を疑似体験する

都内某所の食堂に集まったのは、一般企業に勤める30代、40代の女性12名。建物の外で手渡されたアイマスクを装着すると、スタッフに手を引かれて入店。店内の様子が全く分からない状態で、案内された場所に着席します。開始時間になると、博報堂こどもごころ製作所の軽部拓所長に促されるまま、両隣、前の人に手を伸ばし、握手をしながら自己紹介をしあいます。


自己紹介しあう参加者。

第一部は「老いを体験しながらの食事」。料理研究家たかはしよしこさんによる料理を食べながら、いまから40年後、老いた私たちに起こるかもしれないいくつかの未来への時間旅行を体験します。

聞こえてくるのは年老いた女性と若い女性の会話劇。どうやら若い女性は、年老いた女性の面倒を見ながらもイライラしている様子で、「さっき食べたのにもう忘れちゃったの」などと言いながらしぶしぶ年老いた女性に食事を出します。同時に、目隠し状態の参加者の前に置かれたのは一品目のジャーサラダ。手探りで手元を確認しながら、恐る恐るスプーンやフォークを手に取って食事を始める参加者たち。視界を遮られた状態で、小さい瓶の口から細かく刻まれた野菜やムースを食べるのは思いのほか難しく、ぽろぽろと口元からこぼしてしまいます。


一品目に提供された「5層のジャーサラダ」

食事をする参加者たち。

続いて舞台は変わり、別の未来へ。若い女性は先ほどとは打って変わってやさしい物言いです。テーブル上には二品目、パイに包まれた熱々のスープが。参加者はおぼつかない様子でパイ生地をこぼしながら食事を進めますが、若い女性は「こぼしても大丈夫だよ、私だってときどきこぼすんだから」と言います。


2品目に提供された「ゆり根とフェンネルスープ」。写真右は今回ご協力いただいたたかはしよしこさん

最後に訪れる未来では、年老いた女性は若い女性に頼まれいちごミルクを作ることに。参加者たちの前にもいちご、牛乳、練乳とお皿が置かれます。二人一組となった参加者たちは、声を掛け合いながら手探りでいちごミルクづくりに挑戦。出来上がったものを互いに食べてもらうと、それぞれの席から「美味しい!」という明るい声が上がります。


触れ合いながら、いちごミルクを作る

すべての食事を終えて時間旅行は終了。アイマスクを外すと、ほっとしたようにお互いの顔や店内の様子を確認しあい、会場は一気に和やかなムードに包まれました。

どんな老後を過ごしたい? まだ当事者ではない、30代40代の女性が考える理想とは。

第二部は全員で「ハッピーな老いって?」を考えるディスカッションです。まずは第一部のそれぞれのシーンで、老いを疑似体験してどう感じたかを振り返ります。「こぼしてしまうこと、できないことが辛い。やっぱり迷惑をかけたくないと思ってしまう」「子ども扱いされるとムカッとしてしまうかも」「いちごミルクを作るという“役割”が与えられ、気持ちが軽くなった」「手元がわからない状態で食べる不安を初めて知ったし、現役の自分たちが頭だけで老後を考えることの限界もわかった」などの意見が聞かれました。


ディスカッションの様子。

続いてグループに分かれ、どんなサービス、商品、施設などがあったら嬉しいかを話し合います。「年齢性別に関係なく誰もが立ち寄って交流できるような、地域に開かれた“場”があるといい」「若い人を見るだけで元気がもらえるだろうから、学校なんかを訪ねるツアーがあるといいかも」「それぞれが得意なスキルを活かしあいながら、ゆるくつながれるような“村”のような場所」「一人一台ドラえもんのようなロボットがあるといい。自分の好みなどの情報を全部インプットしておけば、うまく人に説明できないときでも助けてくれそう」など、思い思いのアイデアを出し合いました。


老後にあったらいいなと思う理想のサービスのアイデアを記入。

ディスカッションの途中では下河原忠道さんが運営する「銀木犀」についても説明。「入居者、家族、地域住民が少しずつ愛情を注げるような場所になるといいと思っています」という下河原さんのコメント通り、介護施設のイメージを一新するような建物のたたずまいや、入居者の自発的な行動が尊重され、あたたかく開かれた環境であることなどが紹介されました。また、下河原さんは第一部のプログラムについても、「目隠しをしてする食事の様子は、うちの入居者の様子にとても似ていて、驚いた。大変興味深い試みでした」と語りました。


(左から)ご参加いただいた下河原さん、ボードを埋め尽くした気付きのメモ。

現在は老いの当事者でない世代が集まって、老後を自分のこととして具体的にイメージし、その理想形を話し合う―。当事者でないからこそ、柔軟な発想でアイデアが生まれたと同時に、これから40年後、自分にとって本当に理想的な老後生活を実現するために、これから何が必要かを考える貴重な時間となりました。


集合写真

本イベントを主催したコルクのメンバーは、当日を振り返り「クラヤミ食堂とコラボレーションすることで、老後を少しでも自分ごと化してもらうきっかけ作りが出来たと思います。しんみりしがちな話題を、同世代の参加者とポジティブに語る場を提供できたことが成果。このような活動を続けることで、運動の輪を拡げていきたい」と語っています。

コルクは、本活動を皮切りに、今後も調査やイベントの実施・提案等を行っていく予定です。

(撮影協力:大久保聡)