スパイクス・アジア2016セミナーレポート第4弾。
イノベーション、メディア、データマーケティング、クリエイティブの分野でそれぞれ活躍する博報堂のスペシャリストが、今年のスパイクスのセミナーの特徴についてレポートいたします。

「マーケティングコミュニケーションデザイン変革に対するアジアの順応性」

奥野麻子(おくの あさこ)
アクティベーション企画局
ブランドアクティベーションディレクター
博報堂行動デザイン研究所 研究員

2005年入社。博報堂入社後、営業職・プロモーションプランナーを経て、現在は人を動かす・モノ(ブランド)を動かす・ブランドアクティベーション発想を起点にとしたキャンペーンデザインを専門とするアクティベーション企画局に所属。商品開発から、デジタル、クロスメディア・プロモーション、SPR、マスクリエイティブまで幅広い経験をもとに、戦略設計からエグゼキューションまで領域を横断したソリューション開発を得意とする。

◆広告から、コンテンツへ

欧米で先行するエージェンシーモデルの変革、データマーケティングの浸透など様々な変化がアジアにも訪れていることは前項の記事にて触れられていましたが、カンヌ、スパイクスに参加して実感するのは、マーケティングコミュニケーションデザインにおける、変革に対するアジア特有の順応性です。中でも、これまで「広告」と呼ばれていなかったものが、マーケティングコミュニケーションの基盤となっていくトレンドの、加速度的な進化が見て取れました。文化圏、市場規模にかかわらず、ボーダレス・タイムレスにアップデートされるアジアのクリエイティビティをレポートしたいと思います。

◆加速度的に進化するVR、新しい表現メディアとしての可能性

オムニコム・メディアグループ・アジアパシフィックのアナシア・ルイス氏によると、VR(仮想現実)ハードウェアの業界規模は5年以内にテレビを抜くとも言われており、一般家庭へのVRヘッドセットの普及は2020年までに3000万台まで達するだろうと予測されています。
(公式サイト:https://www.spikes.asia/festival-programme/#/get-real-experience-vr-in-action)

今年はカンヌにおいてもVRに関して多くのセミナーで語られましたが、今年のスパイクスでは、カンヌと比較してもテクニカルなプロダクションの可能性より、よりコンテンツとしてのユーティリティに細かく言及する傾向を強く感じました。Pokémon GOの大ヒット、Playstation VRのローンチを目前に控え、VRの「可能性」から、いっきにその「ユーティリティ」へ議論が昇格したように思えます。また、カンヌからの時間差だけでなく、独自の文化圏を持つアジアだからこそ文化的コンテクストを踏襲した「体験」がより重要視されている点もスパイクスならではでした。

(写真)Anathea Ruys – Head of Fuse, Asia Pacific, Omnicom Media Group ©Spikes Asia

◆体験のストーリーテリング

アクティベーションやコンテンツエージェンシーの経験を背景に持つ、前述のアナシア・ルイス氏は、車のバーチャル試乗や仮想の旅行体験、シリア難民キャンプの現状を伝えるユニセフ初のVRドキュメンタリーなどを例に、マーケティングにおけるVRの可能性について、「Recreate(体験の再現)」 「Represent(表現の拡張)」「Resonance(共鳴効果)」 「Reward(体験のプレミアム性)」という4つの「R」をもとに体系化。その中でも特に「Resonance」(共鳴効果)、圧倒的に高い共感性を実現する「体験」メディアとしての特性を強調しました。


(写真)UNITED NATIONS「CLOUDS OVER SIDRA」(アメリカ/VRSE.WORKS)©CANNES LIONS

また、GoogleのPokémon GOに関するセミナーの中でNiantic labsの野村達雄氏は、Pokémon GO大ヒットの理由に、「このゲームの本当の楽しさは、スマホの中ではなく、それをきっかけに行く先々、そして人々との出会いである」と述べていましたが、新しいメディアや技術そのものではなく、その先にどのような体験を描くのか、というコンテンツクリエイティブ発想こそが、これからのコミュニケーションの言語になることを示唆していると思います。
(公式サイト:https://www.spikes.asia/festival-programme/#/a-tale-of-innovation-from-google-to-pokemon-go

◆クリエイティブ言語のアップデート

VRを始めとした新しいコミュニケーションプラットホームの進化に伴い、わたしたちエージェンシーのクリエイティブも新たな表現プロトコル(共通言語)の習得が必須になってくると実感する中で特に印象的だったのが、新たな広告プラットホームを創造する新世代のアントレプレナー、ブライアン・ウォン氏(KIIP創業者兼CEO)がそのトークの中で、“Event (intent/action) + Context (device/time/place) = Moment” という等式を提唱。「C世代」(Connected Generation)の持つ特異の評価基準として非言語的なコミュニケーション・プロトコル、”Moment”の重要性について語りました。インターネットが知識を民主化したのと同様に、VRは経験を民主化すると言われるように、マーケティングコミュニケーションにおいても、言語を超えた、「体験のデザイン」という新たな次元が浸透してきていることを示唆しています。(公式サイト:https://www.spikes.asia/festival-programme/#/creative-mobile-moment-experiences-the-connected-generation-changed-everything

(写真)Brian Wong – Founder, CEO, Kiip ©Spikes Asia

体験とは「きっかけ作り」であり「場作り」であり、「物語への参加」でもあります。だからこそ、世界中が高い同時性で同期する一方で、独自文化の見直しと急速な世代転換というアンビバレス(相反性)を抱えるアジアの国々において人やものを動かすためには、文化的なコンテクストを深く洞察し、言語を超えたより本質的な動機付けを作り出す舞台設計力こそが、これからのクリエイティブプラニングに求められる要件ではないかと感じました。

<スパイクス・アジアとは>
スパイクス・アジアは、カンヌライオンズの地域版フェスティバルとして2009年にスタートし、毎年9月にシンガポールで開催されるアジア地域最大級の広告コミュニケーションフェスティバルです。
2016年は、「Digital Craft部門」と「Music部門」が新設され、全20部門となり、23の国と地域から過去最高の5,132作品の応募がありました。
アジア太平洋地域の広告分野における創造性の発展と、アイデアと人的交流のプラットフォームとして、カンヌライオンズ同様注目を集めています。
また本年度は、カンヌライオンズの受賞数ランキングトップ10に、アジア太平洋地域の国々が3ヶ国がランクインするなど、アジアが躍進を遂げています。

スパイクス・アジア2016 アーカイブ

【スパイクス・アジア Vol.5】セミナーレポート 3 淮田哲哉―データマーケティングのプロフェッショナルが見た「アジアのマーケティング・トランスフォーメーション」

【スパイクス・アジア Vol.4】セミナーレポート 2 皆川治子―タッチポイントエバンジェリストが「トランプから考えるメディア戦略とアジアの強み」

【スパイクス・アジア Vol.3】セミナーレポート 1 岩嵜博論―イノベーションデザインのスペシャリストが語る「Power of Prototyping(プロトタイピングの力)」

【ニュースリリース】博報堂グループ、スパイクス・アジア2016にてグランプリを受賞。 他金賞5、銀賞3、銅賞12を獲得 ― ヤング・スパイクスでも2位 ―

【スパイクス・アジア Vol.2】今年のスパイクスの受賞の秘訣とは?博報堂DYグループ審査員6名コメント一挙紹介

【スパイクス・アジア Vol.1】博報堂ケトルの木村健太郎が、スパイクス・アジアDigital部門/Mobile部門/Digital Craft部門の審査委員長に。博報堂DYグループから6名が審査員に決定。