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『熱狂を呼ぶコンテンツのつくりかた』-メディア業界の仕掛け人に、人の心をつかむコンテンツの作り方を聞く(アドバタイジングウィーク・アジア 博報堂DYグループセミナー①)

2016.06.15
#クリエイティブ

2016年5月30日~6月2日、世界最大の広告関連イベント、アドバタイジングウィークが東京・六本木で開催されました。アジア初開催となる今回、業界の最先端を走るさまざまなキーパーソンが登壇し、ブランド、メディア、マーケティング、テクノロジーや文化について熱い議論が交わされました。

今回は、6月2日に『熱狂を呼ぶコンテンツのつくりかた』と題し、博報堂ケトル代表取締役社長の嶋浩一郎がモデレーターを務め、出版業界、テレビ業界の次世代メディアマンを迎えて行われた博報堂DYグループのセミナーをレポートいたします。

モデレーター:嶋浩一郎(株式会社博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO)
スピーカー:佐渡島庸平(株式会社コルク代表取締役社長)

佐久間宣行(株式会社テレビ東京プロデューサー)

■革命的な作品は新たな定義をつくっている


本日は、出版界と放送界それぞれで新しい挑戦をされている“ルールチェンジャー”のお二人に来ていただきました。お二人の間で何かケミストリーが生まれることを期待したいです。

佐渡島
コルクの佐渡島です。2002年から講談社のモーニング編集部におり、『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』を手掛けました。小説では伊坂幸太郎さんと『モダンタイムス』という作品をつくりました。これらはドラマ、アニメ、映画、イベントといった形でうまくマルチメディア化することができました。そして2012年、新たな挑戦を求めて立ち上げたのが、日本ではほぼ初となる作家のエージェント会社「コルク」です。雑誌という枠の中で作品をつくるのではなく、まず先にコンテンツをつくりメディアを選択することで、産業構造を変えられればと思いました。

佐久間
テレビ東京の佐久間です。テレビ東京では比較的自由につくれる環境があり、だったら前例のないことをやりたいと思ってつくったのが、子ども向け番組のふりをしたお笑い番組「ピラメキーノ」です。ここからCDセールスが30万枚を超えるヒット曲も生まれました。


見たことのない人はぜひ見て欲しいです。大人が理想だと思う子供番組ではなく、実際の子供がリアルに求めている番組をつくってらっしゃいますよね。

佐久間
それと深夜に放送している「ゴッドタン」。10年前の開始時には関東芸人さんの番組がほとんどなかったので、彼らと、僕が好きな音楽とか演劇を掛け合わせて番組をつくりたかった。DVDの売り上げも堅調で、深夜番組としては異例の人気をいただいています。

昨年挑戦したのは「SICKS-シックス- みんながみんな、何かの病気」という番組。毎回3分くらいでコントと連ドラの合間みたいなものを仕掛けてみたのですが、ネットで気軽に見やすいということで若い世代に人気が広がり、ギャラクシー賞もいただけました。これに関しては業界ルールをちょっとは壊せたかなと思います。

ちなみに僕は佐渡島さんがご著書で「革命的な作品は、何かしら新しい定義をつくっている」とおっしゃっていたのがすごく腑に落ちました。


確かに「ピラメキーノ」も「ゴッドタン」も、子ども番組やバラエティにおける新しいフォーマットをつくられましたよね。佐渡島さんはコルクでどんな風に出版業界を変えようと思っていますか?

佐渡島
料理だと、最初に煮るのか焼くのか蒸すのか、順番を変えるだけでまったく違うものになりますが、コンテンツも同じです。たとえばモーニングの場合、安野モヨコさんの才能を活かして30代男性向けの作品をつくろうとすると、『働きマン』にしかならない。でも、特に彼女の絵の才能を引き出そうとすると、スーツとかオフィスのシーンが多い『働きマン』だと難しいんです。逆に安野モヨコさんを中心に考えると、まったく違うものができていく。あくまでもコンテンツベースで、つくった作品をどこに掲載してどう課金していこうかと考え直していくと、まったく新しい現象が起きてくるだろうなと思っています。

実は今ハリウッドの制作会社にも頻繁に営業をかけていて、企画書の段階で映画化の話が動いていたりします。そのうえで、どのメディアに掲載しようかを練るという。そういう考え方もできるわけです。


かつては漫画雑誌という乗り物しかなかったのが、これからはコンテンツの乗り物を自由に選べるようになっていくということですね。

■クリエイターとの信頼関係

佐渡島
実は映画版の『宇宙兄弟』のラストは、そもそも漫画のラストとして考えていたことなんです。でも、「新人の頃に思いついていたラストよりも、これからもっといいラストをつくれるよね」ということで、映画の方にそのアイデアをあげちゃいました。今後もっと成長できるわけだから、と。

佐久間
僕も番組をつくるときは、タレントのまだ開いていない魅力の箱を開けようと思っています。タレントのエージェントのつもりで、世間にまだ届いていない魅力は何かを考えることで企画につながっていくこともある。出演者からの信頼もすごく大事です。僕の場合どんなに現場がすべっても、うまく編集するということを知っていただけている。だから彼らも僕の現場では冒険してくれます。あと、あえてプライベートではほぼ彼らと会いません。「いつ離れるかわからない」という緊張感も大事だと思います。

佐渡島
僕は今の自分の仕事を「鏡」として機能することだと思っています。超一流の作家さんはみんな基本的に自分でなんでもできますが、それでもやはり「これで大丈夫かな」と確認したくなる。僕は手取り足取りやらなくても大丈夫な、何でもできる作家さんを探しますし、その上で、鏡であるために、純粋に自分がどう思ったか、心に響いたかどうかを伝えます。それが信頼関係につながります。

■人の気持ちをつかむコンテンツをつくるには?

佐久間
SNS時代のコンテンツのつくりかたについて、僕なりに考えたコツをいくつか紹介します。まずは見ている人に「仲間になりたい」と思わせること。それから先バラシをせずにリアルタイムで流して口コミを起こすこと。「祭り」という言葉に象徴されるような、みんなで見る喜びを生むこと。そしてできるだけ早い段階でかまし、さらに早い段階で裏切ることです。

発想法としては、自分だけの違和感を大切にしています。みんなが盛り上がっているのになんで自分だけ面白く感じないんだろう?という部分を掘り下げていけば企画になったりする。違和感は自分の価値観の現れですから。それから、書店の新書コーナーを巡り、いくつも並んだタイトルをただ眺める。そこから時代の空気をキャッチすることで企画が浮かぶこともあります。

佐渡島
僕は自分をどう評価するかが大事だと思っています。その際にとにかく常に上を見ること。どれだけ褒められても、まだ上があると思うだけで悔しい。その悔しさをバネにします。今だって、進行中のプロジェクトに時間がかかっていてここでなかなか紹介できないことがすごくもどかしいですし。もっとできるはずと思うことが一番の力になっています。


今後について、コンテンツをめぐり時代はどう変化していくでしょうか?

佐渡島
物事はどんどん細分化が進み、それを再編集して出すという形が増えています。作曲家よりもDJに価値があるという流れが来ていて、それはあらゆる産業にあてはまるかもしれません。

佐久間
テレビも、これからもっと便利になればなるほど、視聴者は何を見たらいいかわからなくなる。だからキュレーター、つまり目利きの存在が必要になってくるでしょう。さらに、視聴を判断する要素としてもう少し制作者の名前が出るようになるかもしれません。その二つが際立ってくると思います。


ありがとうございました。

<終>

《プロフィール》

嶋浩一郎
株式会社博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO

1993年博報堂入社。2002年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。04年「本屋大賞」立ち上げに参画。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。12年東京下北沢に内沼晋太郎との共同事業として本屋B&Bを開業。編著書に『企画力』(翔泳社)、『このツイートは覚えておかなくちゃ。』(講談社)、『人が動く ものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』(誠文堂新光社)などがある。

佐渡島庸平
株式会社コルク代表取締役

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。

佐久間宣行
株式会社テレビ東京プロデューサー

1999年にテレビ東京入社し、「ゴッドタン」「ウレロ」シリーズ、「SICKS~みんながみんな、何かの病気~」「ピラメキーノ」などの人気番組を多数手掛ける。「ゴッドタン」の人気企画「キス我慢選手権」は映画化、「芸人マジ歌選手権」は国際フォーラムでのライブ開催と展開し、話題に。今もっとも注目されるテレビ番組プロデューサーの一人。

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