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日本マーケティング学会 研究発表大会「マイビッグデータと若者~これからのビッグデータは生活者が生産する~」をテーマに博報堂ランチョンセッションを開催

2016.01.12

 2015年11月29日(日)、早稲田大学で開催された「マーケティングカンファレンス2015」において、博報堂主催のランチョンセッション「マイビッグデータと若者~これからのビッグデータは生活者が生産する~」が開催されました。
遺伝子検査やウェアラブル端末などの新しいテクノロジーを通じ、いま生活者の中で膨大な「マイビッグデータ」が生まれ、そして可視化されてきています。こうしたマーケティングモデルの変革は生活者の意識や価値観にどんな変化をもたらすのか。『自分のデータは自分で使う~マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)の著者である酒井崇匡(博報堂生活総合研究所)が報告しました。
セッションでは酒井に続いて原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所)、津田大介さん(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)も登壇、若者の動向とこれからの情報環境などについて議論が展開されました。

報告者:博報堂生活総合研究所 上席研究員
酒井崇匡

■ 膨大に生まれる「自分の情報」

私は3年ほど前からマイビッグデータのリサーチを行っていますが、初めにこの領域に興味を持ったのは2年前。突然見ず知らずのアメリカ人男性から、「よう、兄弟!」という気軽な感じのメールが届いたのがきっかけでした。私にはアメリカに親戚もいないし100%日本人なので驚いたのですが、彼によると彼のおばあさんが日本人で、数世代前に私とつながっていたそうです。なぜそれがわかったかというと、実はその半年ほど前、私は23andMeというアメリカの遺伝子検査サービスを利用したんです。主に病気の可能性などを調べるものですが、そこにDNA relatives という親戚を探してくれるサービスがあり、彼が検索した結果共通の先祖を持つ人として私が出てきたそうです。このように、いま出現しているテクノロジーは、今まで知ることのなかった情報を私たちに突き付けようとしている。拙著でも紹介していますが、私は自らさまざまなウェアラブル端末をつけてライフログをとったり、「自分の心」と向き合うエキスパートである心療内科医や僧侶、山伏の方までインタビューを重ねるなどして、これらのテクノロジーが私たちの価値観やライフスタイル、そして「自分」のあり方にどんな影響を及ぼすかについて考察してきました。

■ ウェアラブル元年のサービス

本日は短い時間なので、ウェアラブル元年といわれる2015年現在、自分のデータの可視化という領域でどんなサービスが存在するのかを見てみたいと思います。さまざまなメーカーさんからGPSや脈拍などを活用するウェアラブル端末が出ていますが、これらのデータから可視化されることは大きく三つの分野に分かれます。一つは「活動」。どれくらい移動し、どれくらいカロリー消費したのか、といったことです。たとえば私がMovesというアプリでとったデータでは、主な活動範囲が、自宅のある三軒茶屋と職場のある赤坂までほぼ一直線上。研究者としてはあまりよくない傾向ということがわかります(笑)。こうした使い方はスポーツの領域ですでにさかんで、サーフィン専用の端末では、あなたの今日のトップスピードはこれくらいで、ちなみにプロだとこうで……という情報を教えてくれます。テニス、ゴルフ、ランニングなどの端末も増えてきていて、リアルなスポーツがどんどんテレビゲーム化していると言えるかもしれません。

次に「体調」。どれくらい疲労しどれくらいの質の睡眠がとれているのかなどです。エプソンさんが出しているPULSENSEという端末を使って、半年ほどの睡眠データも計測してみました。1月は全体の半分くらいを深い眠りが占めていたのが、月を追うごとに減っていき、拙著の〆切が迫っていた5月には深い眠りの比率がほぼ1割。追い込まれていたことがよくわかります(笑)。
最後は「感情」です。COCOLOLOというアプリは、スマホのカメラから脈拍を計測、自律神経の状態を解析してくれ、「ぐったり」「のんびり」などの感情を表示してくれます。こうしたデータを使えば、将来的には、リラックス度、あるいはストレス度合いに応じて「そろそろ焼肉行っとかない?」などとリコメンドするようなサービスも可能になるかもしれません。

■情報爆発の第3段階へ

ウィンドウズが発売されインターネットが普及、世界のどこの情報でも手に入れられるようになった1995年を第1段階、SNSが広まり周囲の友達の情報まで可視化された2004年を第2段階とすると、ウェアラブル元年である2015年は、自分の内部からの情報が膨大に生まれる情報爆発の第3段階と言えます。第1段階で私たちの世界は一気に広がりました。そして第2段階で何が起きたかというと、SNSを通して友人がリア充な生活を送っているのを見て3分の1の人が落ち込むというデータが国内外の調査結果で出ています。あるいは友だちは多ければ多いほうがいいとする割合はここ10年間減少し続けています。一方で自分にプレゼントを買ったことがある人の割合や生涯未婚率は上昇しています。ひとりで生きていく、自分で自分をメンテナンスする時代になってきているのではないでしょうか。

■Me to Me時代のコミュニケーションのあり方

このように時代観を整理していくと、ネットサーフィンからソーシャル、そしてマイビッグデータの時代へと、情報の種類が変化するにつれ、コミュニケーションのあり方も変化していくのがわかります。ネットサーフィンの頃は、企業から個人へと情報が発信されていたB to Cの時代。生活者には、雑多な情報から選択していかなくてはいけない情報リテラシーの課題がありました。ソーシャルの時代は個人対個人で情報を発信し合うC to Cの時代。関係性や他者評価が見えすぎることでSNS疲れなどが発生するようになりました。そしてマイビッグデータの時代は、大量の自分情報と向き合う、自己対話、Me to Meの時代。情報収集処理のみが重視された情報リテラシー1.0時代から、周りの情報をどれだけ取り入れ、何を知って何を知らずにおくかなどのマネジメントが重要な、情報リテラシー2.0時代に移ったと言えるかもしれません。

自分情報についてどう感じるかについて調査した結果では、「知らぬが仏ということもある」とか「知りすぎることでストレスを感じそう」という声がある一方で、7割以上が「興味を感じ、積極的に使っていきたい」と答えています。これまで分からなかった自分を知れるのだとしたら、単純にそれを見てみたい、という気持ちがあることは確かなようです。

■今後の情報環境の変化

原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所)、津田大介さん(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)とのトークセッションでは、以下のような議論があがりました。

  • 最近の若者は栄養や運動面などで自分のカラダをきちんと意識するようになっている。ウェアラブル端末でバイタルデータを計測することで生まれるのは、「日々の生活の意識によって、自分は変化する、変われるんだ」という気付き。もう技術はある程度出揃っているので、ここから先は、そのような気付きをどうマーケティングやサービスに活用するかがテーマとなっていく。
  • バイタルデータから買うものや食べものの選択などをサポートするようなサービスはとてもニーズが高いのではないか。決断を機械に丸投げするというよりも、決断をサポートするものとして存在した方がサービスとしては長続きするものになるのでは。
  • 長期計測によって分かる傾向も大事だが、より利用して貰うためには、まず計測時点ですぐにユーザーに発見や示唆を与える情報をどう提示できるかがポイントとなる。
  • SNS疲れをする若者が増加していることからも分かるように、新しい情報が出てきた時に、それを使いこなす人と溺れてしまう人にどうしても分かれるところがある。ソーシャルメディアに出す情報は意図的に加工できるが、バイタルデータは正直。ある意味、嘘がつけないデータなのではないか。
  • バイタルデータは今後、生活者が自ら製薬会社などに販売するものになるかもしれない。親が子供を見守り、監視するためのものとしても使えそう。ジャーナリストが見たものをそのまま報道することや、生活者も旅行者の目線をそのままアップしたりすることもできる。テーマパークでの各アトラクションでのテンションの盛り上がり方などを集合知化することもできるだろう。

プロフィール
酒井崇匡 さかい・たかまさ
博報堂生活総合研究所 上席研究員
1982年生まれ。2005年早稲田大学卒業、同年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。博報堂教育コミュニケーション推進室を経て2012年より現職。

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