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【コラム】退職金の貯蓄志向に変化(博報堂新しい大人文化研究所所長 阪本節郎)

2013.11.29

「団塊」、投資と支出に意欲 退職金の貯蓄志向に変化 旅行・趣味・食が上位に

ポイント
○ 団塊世代が金融商品への投資・運用に動き始め、それが40代や50代にも広がりつつある
○ 40~60代男女がおカネをかけたいトップは旅行。2位は趣味で60代男性が高い
○「貯蓄塩漬け」だった高齢社会が変化し「新しい大人社会」への転換が始まろうとしている

著者: 博報堂新しい大人文化研究所所長 阪本節郎

従来、高齢者といえば退職金を塩漬けにして貯蓄に回すイメージが一般的だった。それは国内で1400兆円といわれる個人資産を生んだ。博報堂の調査ではそんな意識が変化し、団塊世代が投資・運用、旅行や趣味への消費に前向きになっていることがわかった。貯蓄志向の強かった高齢者がおカネを運用して使う「新しい大人」へと変わる兆しが浮かんだ。

安倍政権によるアベノミクスは株高・円高基調につながった。そこには一部の機関投資家や富裕層だけでなく、多くの活発な個人投資家が存在する。この間、デパートと高額品の消費好調が報道されたが、一部の富裕層だけで支え続けるのは難しい。ここ数年、動かないと言われた団塊世代が動き出したといえる。

博報堂は3月、40~60代を対象に退職金の使い方に関する調査を実施した。その結果、60代男性ではもらった直後に「投資・運用に使った」または「使うつもりだ」が全体の17%だった。(図1)

退職金が1500万円で、このうち17%を使ったと仮定すると255万円の投資になる。広義の団塊世代(1947~51年生まれ)は約1000万人。相当なボリュームの人口が母数になり、インパクトは大きい。

さらにどんな金融商品に投資するかが興味深い。60代全体では「定期預金・定額貯金」「株式取引」「投資信託」「外貨預金」の順に高い。男女別にみると定期預金・定額貯金は女性が男性を上回り、株式取引などその他は男性が上回る。“ガッチリ妻”と“冒険夫”という構図だ。(図2)

 2008年のリーマン・ショックから数年は家計における妻の発言権が強く、定期預金が伸びた。団塊世代の男性は株でもうけて奥さんを海外旅行に連れて行こうと思っていたが、そうは行かなくなり消費が期待ほど動かなかった。その重しがとれて“冒険夫”が投資に動き出したのだ。

 さらに重要なことがある。団塊女性は確かに“ガッチリ妻”だが、一方で投資マインドを持つ。これがアベノミクス投資を支え、来年のNISA(少額投資非課税制度=日本版ISA)開始に向けて夫とともに作戦を練っているのだ。

では消費はどうか。おカネをかけたいモノ・コトを複数回答で尋ねた結果、40~60代の1位は「旅行・リゾート・レジャー」だった(図3)。

旅行・リゾート・レジャーは男女とも60代が最も高い(図4)。我々が以前に実施した調査でも、団塊世代の退職金の使い道のトップ2は国内旅行と海外旅行だった。

全体の2位となった「趣味」も特に60代男性が高い。デジタル高級一眼レフカメラのほか、マーチンやギブソンなど高級ギターを買う層だ。

3位の「普段の食生活」は実は女性が高い。食に関してはライフステージの変化がある。従来は子供が独立するまでは朝食は手早く済ませ、夫は夕食を外で済ませるパターンが多かった。仮に夕食を家でとったとしてもメニューは子供の好きなハンバーグやカレーが中心だった。それが変わり、時間をかけて楽しむ「大人の食」が広がっているのだ。

彼らは定年生活でも活発に消費し続けるのだろうか。60代男性の場合、退職金をもらった直後では17%、定年後の生活全体では25%が消費に回すと答えた。つまり退職直後は財布のひもを固く締めるが、定年生活に慣れれば徐々に緩める。実際、60代後半のプレ団塊世代では、より高額な海外旅行の比率が高い。おカネを増やし、使う志向が団塊世代から始まった。そうした貯蓄塩漬けからの変化は60代だけでなく40代や50代に広がりつつある。それは10年、20年と長いレンジで変化が続くことを示す。

変化は生活の全ジャンルに及ぶ。例えば食生活の変化は加工食品のみならず、外食産業にとって大きな意味を持つ。今後は給与水準の引き上げが景気を左右するとされるが、リタイアした人の消費はそこに大きく左右されずに堅調に拡大する。高齢社会は「新しい大人社会」へと変わり、それは様々なビジネスに大きな機会を提供するのだ。

調査の概要

博報堂・新しい大人文化研究所が首都圏及び全国の中心都市の40~60代男女を対象に、インターネットで2012年12月と13年3月に実施。

2013年10月2日 日経MJ「消費分析」欄より転載)
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