アジアのメガエージェンシー等で世界的に活躍していたクリエイター、ヤン・ヨウが、博報堂ケトルの木村健太郎と共に、博報堂 APACの co-CCO に就任してから1年と3ヶ月がたちました。ヤンと木村の経歴と才能を掛け合わせたユニークな「デュアル・リーダーシップ」で、「クリエイティブ怪獣」として博報堂のアジア全域の統合マーケティング力強化と、日系/外資系企業双方の多様化するニーズに対応してきました。そして先日、ヤン・ヨウは木村と共に、アドウィーク※の世界のトップクリエイター100人に選ばれました。
2人が「博報堂のクリエイティブ怪獣である」とはどういうことか?今年の6月、審査員長を務めたカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル会場でヤンに話を聞きました。

※アドウィーク(Adweek)は、ブランドと顧客の関係、エージェンシー、広告キャンペーン情報をカバーする、米国のウィークリーマガジン。

―「クリエイティブ怪獣」とは何を意味するのですか?
私は「クリエイティブ怪獣」を自分の正式な肩書として使用しており、「APAC Co-CCO」は、どちらかと言うと形式的に必要な場合に使ってます。博報堂には120年以上の歴史と伝統があり、素晴らしい文化もあるのですが、グローバルビジネスにおいてはもっと先進的になる必要があり、そこに私たちクリエイティブ怪獣の役割があるのです。

私たちは地域を超えて様々な事業部門と緊密に連携し、様々な障壁を取り除き、市場に刺激と機会を与える新しい方法を見つけ出すというミッションがあります。この役割を遂行するためには、恐れずに粘り強く、力強く突き進まなければなりません。また、直感力に優れ、鋭い認識を持ち、人に刺激を与える視点を持つことが必要です。これが私たちが「怪獣」たるべき所以です。

―海外の人達に、怪獣のコンセプトはきちんと伝わるのでしょうか?
私たちがこの言葉を選んだのは、それが日本語だからです。ハリウッド映画やアニメのおかげで、海外でも多くの人が、意外にも「怪獣」の意味を知っており、「怪獣」はさほど外国語に聞こえないコンセプトなのです。そして、シンガポール人でありながら、日本企業で働いている私自身にとって、日本語の肩書きを選ぶことは、メリットがあるのです。

―海外の博報堂オフィスは、どうあるべきと思われますか?
海外にある博報堂のグループ会社はそれぞれ独立し、高い能力を持っていなければなりません。日本の本社に依存し、金銭的支援や仕事をもらうことをあてにするのではなく、個々のオフィスがそれぞれに「強大な力」をつけ、各市場のクライアントを引きつけなくてはならないのです。それができて初めて、博報堂は「たまたま日本に本社があるだけの、真のグローバル企業」になれるのです。私は、いつかグローバルクライアントが、博報堂を海外に拠点がある日本の広告会社としてではなく、才能あふれる革新的なグローバル企業として見てくれる日がくることを目指して努力していきたいと思っています。

―カンヌライオンズの審査委員長を務めた経験はどのようなものでしたか?
私はカンヌライオンズ以外の広告賞では幾度となく審査委員長を務めた経験があるので、審査委員長ということには目新しさは感じませんでした。もちろん素晴らしい経験でしたし、私の審査に対して主催者からお褒めの言葉もいただきました。
一番画期的だったことは、博報堂からカンヌライオンズの審査委員長が初めて選出されたということです。博報堂に世界的な名声をもたらす力になることは私自身が大切にしている基準の一つなので、そのことを大変光栄に思っています。世界の広告業界では、博報堂が優れたクリエイティブ作品だけでなく、優秀な人材を輩出しているということも認識したのではないでしょうか。

私が担当したインダストリークラフト部門の審査チームは、世界各地から来た多様な経歴を持つ男女5人ずつで構成され、ケニア出身の写真家、スウェーデン出身のタイポグラファー兼デザインディレクター、デジタルや行動デザインの経歴を持つ人など多彩な顔ぶれでした。一方で広告会社出身のクリエイティブリーダーといったトラディッショナルなタイプの人もいました。私は審査委員長として、自分が議論の中心になるのではなく、チーム全員の意見を聞き、彼らの議論を促すことに終始しました。私たちはあらゆる側面から、クラフトのレンズと通してエントリー作品を吟味し、最終的な決断を下しました。
審査を通して新しい友人を作り、新しいアプローチを学び、いろいろな興味深いアイデアを収集するといった貴重な体験をしました。

―審査チームメンバーからは「クリエイティブ怪獣」や博報堂について質問がありましたか?
もちろんありました。名刺にいくらECDやCCOと書いてあっても、カンヌではそんな人たちばかりなので誰も気に留めません。ところが、「私はクリエイティブ怪獣です」と名乗ると、人々は好奇心を示し、もっと知りたいと思ってくれます。そうすると、博報堂について話す機会が生まれます。
私はそこで、博報堂を進歩的かつ個性的で、前向きな考えを持った会社であること、クリエイティブ怪獣のコンセプトは非常に独創的で、博報堂だからうまれたものであると説明しています。

―カンヌで博報堂セミナーのスピーカーを務めた経験はどのようなものでしたか?

私は講演経験も豊富ですが、博報堂の代表者として講演をしたのは今回が初めてでした。私たちのセッションが非常に高い評価を受けたと聞き、たいへんうれしく思います。
ANREALAGEの世界的デザイナー 森永邦彦さんと、ソニーでaiboの開発を手掛けた松井直哉氏さんの力も借り、「Extreme Stimulation(極端な刺激)」というテーマで、日本人のクリエイティビティの源泉を探りました。
セミナーの中には、自社の売り込みを目的とした内容のものもありましたが、そういった講演に対して、たいていの場合、オーディエンスは退屈を感じます。私たちのセミナーが収容人数2000名のドビュッシーホールを埋め尽くした理由はそこにあるのかもしれません。

―今後の目標についてお聞かせください。
もっと画期的で型破りな仕事をすることです。私の同志である木村健太郎が手掛けた「HIBIKI GLASS」(サントリー)のような素晴らしい仕事をすると、人々がそれは誰が手掛けた仕事なのか知りたがります。
素晴らしいケーススタディーや成功が生まれると、世界的な知名度も上がり、新しいビジネスの可能性が芽生えるのです。
博報堂のDNAには少し控え目で謙虚なところがあると思います。そのことも私は非常に高く評価しています。偉大でありながら謙虚であるという資質は強力であり、クライアントを始め才能豊かな人々が、私たちと一緒に仕事をしたいと感じてくれることでしょう。

ヤン・ヨウ(Yang Yeo)
博報堂APAC co-CCO

シンガポール生まれ。博報堂グループに加入する前はワイデン+ケネディ上海オフィスのエグゼクティブクリエイティブディレクターを務める。1992年、サーチ&サーチシンガポールで広告のキャリアを開始、BBHロンドンでグローバルな経験を積んだ後、ファロンシンガポール、香港の設立に携わり、TBWA上海在籍時には中国に初のカンヌゴールドライオンをもたらし、ジェイ・ウォルター・トンプソン上海在籍時には中国で初となるカンヌグランプリを獲得。彼がリードしたエージェンシーは2011年Campaign Asia Pacific誌の「Agency of the Year」を獲得し、クライアントは「Marketer of the Year」に選ばれ、彼自身も「Creative of the Year」を受賞。広告業界における名声だけでなく、空間・建築デザインでもよく知られた存在であり、2012年シンガポール共和国大統領トニー・タン氏から「Designer of the Year」を授与された。
2018年6月にアドウィークのクリエイティブ100に選出された。