木漏れ日が輝く昼下がり、大阪府高槻市にて。今回取材にご協力いただいた浦川篤子さん(写真右)、小林旦さん(左)、ブランドたまご編集部阿部成美(中央)。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂のメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第37回に登場するのは、洗って何度も使えるミツロウから作った天然ラップ「αco wrαp(アコラップ)」を生み出した、浦川篤子さんと小林旦さんです。オーストラリア滞在中に知った「ラップを使い捨てない」という習慣。そこから日本でのブランド立ち上げに至った背景、こめた思い等を、ブランドたまご編集部の阿部成美がうかがいました。

包むと素材が「呼吸」する―。お皿、ボウル、食材まで使える手作りラップ「αco wrαp」

「αco wrαp」は、ミツロウやホホバオイル、オーガニックコットンから作られた、天然の“ラップ”です。洗って何度も使えるため環境に優しく、使い道もお皿やボウル、野菜やパンまで包める優れもの。主にファーマーズマーケットやネット通販等で販売、好評を博しています。


「αco wrαp」Mサイズ(左・泥色、右・ミツロウ色)。

皿やボウルにぴたりとくっつく。

阿部:「aco wrap」に出会ったのは都内のマルシェでした。以来、とっても気に入って使用させていただいています。ブランドたまご読者の中には知らない方もいらっしゃるかと思いますので、まずは商品について、ご紹介いただけますか?

浦川:「aco wrap」は、天然素材で作った、何度も洗って使えるラップです。手で温めることで粘りが生まれ、お皿やボウル・食材等にぴたりと貼り付く仕組みです。実は完全密封ではなく素材が「呼吸」しているのが特徴です。原材料のミツロウとホホバオイルには保湿効果と抗菌作用があるので、それによって野菜などの持ちがすごくよくなるんですよ。これ、少し時間がたった人参なのですが、「aco wrap」を巻いていたのでみずみずしいでしょう?


時間がたったという人参だが、「αco wrαp」を巻いていた箇所は色鮮やか。

阿部:わ、確かに全然違います!「呼吸する」というのも面白いですね。お二人の手で、作られているのですか?

浦川:染める工程だけは外部の方にお願いしていますが、あとは私たちの手作りです。オーガニックコットンを仕入れ、大阪から奄美大島の染色工房に送り、染めていただいたらそれを丸く切って両面にミツロウ・ホホバオイルを塗るという工程です。意外と手間がかかるのですが、ひとつひとつ丁寧に作っています。

阿部:サイズや色は、どのように展開されていますか?

浦川:3サイズ作っているのですが、それぞれ日本の和食器のサイズと貼りつける部分に合わせています。Sは三寸(直径約13cm)、Mは五寸(直径約19cm)、Lは九寸(直径約33cm)です。色は、ミツロウ色、蘇芳(すおう)色、翡翠(ひすい)色、泥色、青色の5食を展開しています。期間限定で柄のデザインを作っていたこともあります。

小林:色も日本の伝統色、かさね色目(※)を意識しているんですよ。

  • 平安時代の公家の服飾の中から生まれた、日本に昔から伝わる配色。

オーストラリアで実感した、エコの先の「気持ちよさ」。

阿部:ここからはブランド作りのお話をお聞かせいただきたいと思います。そもそも「aco wrap」を立ち上げられたきっかけはどのようなものだったのですか?

浦川:オーストラリアで、洗って使うラップに出合ったことです。向こうではマルシェが毎週のように行われているのですが、そこで売っているのをたまたま買ったんですね。最初はお皿に使っていたのですが、ある日何気なく大根に巻いたら、時間がたってもすっごくシャキシャキしていて!以来すっかりハマってしまったんです。エコや環境問題に興味が強いほうではなかったのですが、ゴミを減らすことにつながるので「気持ちいいな」「心も健康になるな」というような感覚でした。
また、現地ではホームパーティも頻繁にあるのですが、参加者も普通にそういったラップを使っていたんです。日本の友人にも知らせたい、その思いから帰国時に持ち帰り、配りました。
ちなみに、もともとオーストラリアに行ったのは、彼は語学学習のため、私は食文化について学ぶため。ゆくゆくは食に関わる仕事がしたいと考えていたので、当時話題になっていたオーガニック先進国に身を置いたら何か得るものがあるのでは?という思いからでした。

阿部:なるほど。食文化を体験しようと訪れたオーストラリアで出合い、魅了されたのですね。帰国して友達に紹介されたとき、どのような反応でしたか?

浦川:ものすごく良かったです。「野菜の味がおいしくなった気がする」なんて言ってくれた子もいました。もしかして需要があるのでは?と思い、友達のつてなどを使って商品を手作りし始めたのが、帰国から1ヶ月後の2017年7 月です。「ECO」だけじゃない+αの価値を提供したいという思いから、「αco wrαp」と命名しました。

阿部:帰国して1ヶ月で始められたなんて、すごいですね。

小林:最初は本当に細々と始めました。WEBサイトもなく、手作り市で売る程度でしたね。

文化として定着させるために…伝えるべきは、「楽しく使える」こと。

阿部:オーストラリアの既製品をそのまま輸入するのではなくて、日本の食器サイズに合わせたり、伝統色を使用して、商品を設計し直しているのが面白いですね。

浦川:日本の食文化に入り込まないと、習慣化しないと考えるようになったからです。これまでも洗って使えるラップは、輸入品として日本で既に売ってはいたんですね。でも、モノだけ入って、背景にある文化がまったく語られていなかった。だから定着しなかったと思うんです。売り方も、使い捨てのビニールフィルムに入って売っていたりして…。エコを謳う商品が「本末転倒」ではないか、と考えていました。

小林:もちろんそうした仕立ての背景には流通のしやすさなどがあると思うのですが、一種の“おしゃれアイテム”のように見えて、残念に感じていました。日本ではエコや環境というと、どこか気取っていたり、意識が高い人と思われがちですが、伝え方を工夫することで、こうした概念を取り払うきっかけづくりになればと考えました。

阿部:たしかに、「意識高い系(笑)」といった表現もありますよね。なぜ日本ではエコや環境意識が浸透しないとお思いですか?

浦川:一つには日本人がすごく忙しい、ということがあると思います。エコな行為=手間がかかる、という風に捉えられているようです。でも、母親が子どもだった頃は、醤油はかめで保存するなど、プラスチックがなかった時代です。それが、この短期間で急速に普及し、すっかり使い捨てが定着してしまった。逆に少ししか時間が経っていないということは、無理なく意識を変えることができるかもしれない、とも思いました。
一方で、「プラスチックを減らそう」というメッセージが先行してしまうと、環境活動家のように思われ、聞く耳を持ってもらえません。そこで、「先にアクションを促し、その後実感してもらう」ことを大切にしています。「aco wrap」は楽しく使えるということをまず伝えるんです。それこそがゆくゆくは文化として、定着していくためのカギではないかと考えています。私がこのラップにはまった経緯も、まさにそうしたものでしたから。

阿部:ご自身の経験からの気づきを活かして、環境保全の啓蒙ではなく、まずは使用の感覚的なメリットを訴求されているのですね。メッセージが強いものほど最初のハードルを低くするという視点は、企業のブランディングにも活かせると感じます。そうしたアクションの積み重ねが文化になるという視点も、大変面白いです。

ターゲットは自身の母!便利さを知る世代にこそ使ってほしい

阿部:「aco wrap」を一番使ってほしいとお考えなのは、どのような方ですか?

浦川:実は自身の母に使ってほしいと思って作っています。先ほども少し触れましたが、プラスチックが一気に普及したため、便利さの恩恵を感じている世代だと思うんです。逆に私たちの世代の方が、社会意識が強いため、商品使用のハードルが低いように感じます。

阿部:なるほど。一方で、そうした便利さを知っている方々の心を動かすのは、簡単ではないと思います。販売の際に工夫されていることはありますか?

小林:実演販売を重視し、なるべくストーリーと共に紹介することを心がけています。店舗に卸して売ってもらうとなると、背景が伝わりきらないと考えるからです。


実演販売の際に用いるというテントと販促台。ナチュラルな雰囲気に統一されている。

浦川:逆に、実演販売にいらして気に入ってくれたお客さんが、自身のお店に置いていただくというケースはあります。例えば、わざわざ「このラップを使うことで野菜がおいしくなった」と連絡をくれた方がいました。今度その方がイベントで出店する際に、販売していただくことになったんです。体験されて本当に良さをわかっていただいているから、安心してお願いすることが出来ています。

阿部:お客さんがアンバサダーになって、伝えてくださっているんですね。

野菜の量り売りの横で、「αco wrαp」を展開したい―。今後も、“社会課題に楽しく向き合う”場づくりを

阿部:「aco wrap」を立ち上げてもうすぐ一年を迎えられますが、今後の展望をお聞かせいただけますか?

小林:まずは「aco wrap」を多くの方に使っていただきたいですね。僕は今専任ですが、彼女は代表でありながらフリーのデザイナーも続けているので、早く2人で「aco wrap」のみで生計を立てられたらと思っています。
来年から、拠点を関東に移転しようと思っているんです。ファーマーズマーケットなどでも関東のお客さんに好評という背景もあって…。どんな出会いがあるか、どんな広がりが生まれるのかがとても楽しみです。

浦川:将来的な展望でいうと、私の中で「野菜の横で売りたい」という思いがずっとあります。「aco wrap」を通じて農家さんとの繋がりも出来てきたのですが、彼らの悩みの一つに廃棄の問題(フードロス)があるんですね。なので、例えば野菜の量り売りを行いながら「aco wrap」を一緒に展開する、なんてことが出来たらいいなと考えています。「シンプルに、いらないものはなくしていこう」という共通のメッセージを発信するんです。
その際も、やはり直観的に参加したいと思っていただける仕掛けが重要です。海外のマーケットで量り売りを見ることがありますが、あれってすごく楽しそうですよね。たとえば移動販売式の八百屋で日本全国を周るのもいいなぁと考えています。

阿部:社会課題に楽しく向き合うきっかけづくり、本当に素敵です。「aco wrap」の今後の展開がますます楽しみになりました!今日は素敵なお話を、ありがとうございました。

■ご参考■
αco wrαp https://acowrap.jp/

【撮影協力】桑原雷太

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「aco wrap」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【形】わくわくする体験で「意識高い」のキャズムを超える
良いブランドには、強い志がある―。
このことはこれまでのブラたまでも一貫してお伝えしてきたことですが、今回「志が高ければ高いほど『意識高い系だよね』と、距離を置かれがち。」という事実に触れていただいたのはまさにその通りだなと思いました。
特に浦川さん・小林さんが挑戦している無駄をなくす、エコの文脈は、「意識高い系」の目線を注がれがちのように思います。そこで二人が考えたのは、入り口を変えるということ。浦川さん自身が体験した「包んだ野菜がめっちゃシャキシャキ!」というわくわく体験を真ん中に据えてブランドを作る。そうすることで利用者も「シャキシャキの感動」を通じてまずαco wrαpを好きになって、「しかもエコにもなって嬉しいな。」という感じでおまけ的に、でもちゃんと志を生活に取り入れることができます。得てして志は主張するだけでは浸透しにくいもの。今回の話を通じて、わざわざ形にする意味、つまりブランドを作る意味は啓発では広がりきらない、意識のキャズムを超えることなのではないかと考えさせられました。そうなのだとすれば、αco wrαpのように、「わくわくする体験の入り口を作る」ことがブランドづくりには欠かせないのかもしれません。

>>博報堂ブランド・イノベーションデザインについて詳しくはこちら

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