「100年ライフデザイン」は、2017年1月に始動した、産官学と連携して「人生100年時代」の新しい暮らし方をつくりだす活動です。活動の中心メンバーである博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の根本かおり(リーダー)、吉田裕美と、博報堂生活者アカデミーの宍戸孝一郎が、活動におけるこだわりや、広告会社らしい取り組み方などについて語りました。

産官学によるオープンイノベーションスタイルで、これからの社会に必要な商品やサービスを考える

根本
「100年ライフデザイン」誕生のきっかけをたどると、一般社団法人フューチャーセンター・アライアンス・ジャパン(FCAJ)の活動があります。FCAJは2012年に立ち上がったアライアンス組織で、企業や国が抱えている課題を解決するために、社会やビジネスにイノベーションを起こすためのワークショップを定期的に開催、官民含め50にのぼる会員組織・企業の横のネットワークづくりを行っています。その会員企業として、博報堂も活動に参加し、さまざまな組織の専門領域の方々と情報交換を行ってきました。

宍戸
さらにFCAJにおいて、ボトムアップ型の政策立案プロセスを模索する、経済産業省主導による「官民フューチャーセンター」プロジェクトが2017年に誕生しています。そのテーマの一つとして選ばれたのが「人生100年」でした。リンダ・グラットン氏によるベストセラー『LIFE SHIFT』によってあらためて注目を集めるようになった 「人生100年」時代に備えて、国としてこれからどのような施策を執るべきなのか、さまざまな会員企業がワークショップを通して知恵を出し合っていくというトライアルセッションを3回行いました。その後、「人生100年」はぜひ継続して扱っていくべきテーマだとして、有志により「みんなの幸せ人生100年プロジェクト」と銘打った、いわばスピンアウト企画が派生したんです。

吉田
博報堂もその有志メンバーとして、「みんなの幸せ人生100年プロジェクト」において、「人生100年」時代では何が起きて、生活者はどうなっていくのかなどをリサーチ、研究し、さらにその結果をコンセプトブックにまとめたり、情報発信する活動を行いました。
そこで得た知見やネットワークをさらに昇華させて、博報堂ブランド・イノベーション局が中心となって、産官学によるオープンイノベーションを通じこれからの社会に必要な商品やサービスについて検討していくというプロジェクトが、2017年1月に立ち上がった「100年ライフデザイン」です。長くなりましたが(笑)、そういったいきさつを経て、本プロジェクトは誕生しました。


「100年ライフデザイン」コンセプトブック。コンセプトブックのダウンロードはこちらから。
(一般社団法人Future Center Alliance Japanサイト内)
経済産業省サイトはこちらから。

根本
博報堂のブランド・イノベーションデザイン局は、博報堂が持つ生活者理解や、コンセプトを設計する力、未来を発想する力を活かして、新しい事業、イノベーションをサポートするというセクションです。そのノウハウは「人生100年」を考える際にも十分生かすことができると考えました。さらに、「人生100年」を不安な気持ちで警戒しながら備えるという姿勢ではなく、私たちが専門とする広告の考え方――世の中を楽しくしたり、夢を与えたり、いまより少しでも良い暮らしをイメージしてもらう――を活かして、楽しみながらチャレンジすることができれば、と考えました。そのために、みんなで意見を出し合って発想するというツールなり仕組みをつくることが、博報堂のクリエイティビティによって可能なのではないかと思いました。

多くの人はまだピンと来ていない「人生100年」生活を、リアリティをもって自分事化できるアプローチ

根本
「100年ライフデザイン」の活動は、まず「100年ライフ」をイメージするための多様な未来発想インプットを得て、次に課題の設定とアイデアの創出、そしてプロトタイプ化や地域フィールドなどを活用した実装トライアルを行うという流れです。

吉田
その先行イベントとして位置付けているのが、「みんなの幸せ人生100年プロジェクト」において長野県松本市や大阪大学、メーカー企業などで実際に行ったセッションです。中でも、「みんなの幸せ人生100年プロジェクト」チームの参加メンバーでもあった松本市での取り組みについてご紹介します。

近年、行政と地域住民が議論を通して地域をよくするアイデアを出し合い、事業化へつなげていく「リビングラボ」という地域活動が注目されていますが、松本市では、2017年3月より、ヘルスケアを通じて地域活性化を進めるリビングラボ「ヘルス・ラボ」を実践していました。その取り組みと連携し、住民主導で「人生100年時代の松本の在り方を考える」セッションを開催。東京から経産省や民間企業のメンバーも参加するなか、未来志向でアイデアを出し合いました。私たち博報堂は、関連するツールづくりや、アイデア出しのための課題」の設定、数回にわたるセッション全体の設計・サポートなどを担当しました。ちなみにここで生まれた事業アイデアは、その後11月に行われた「世界健康首都会議」において発表し好評を得ており、その後も住民がイニシアティブを執りながら、アイデアの創出を続けています。


松本市で行ったセッションの様子

宍戸
そうしたセッションの前提として大事にしているのが、「100年スケール発想」と「問い」という2種類のアプローチ方法です。前者は、「人生100年」を単なる老後の延長と捉えるのではなく、実際にはさまざまなチャレンジが可能で、前向きなマインドでいればどんな人生にもできうるはず、という前提で捉えるということ。そして後者は、「人生100年」についてできるだけ具体的に、リアリティをもって考えてもらえるよう、想定している世界観、未来観のなかでどんな課題が生まれうるかを「問い」という形式で考えていく、ということです。

根本
さまざまな調査によると、「人生100年」のイメージが想起できないという人が大多数らしくて、想起できたとしても、健康を維持できないとか、お金の心配とか、ネガティブなイメージになってしまう。それが現状なわけですが、「人生100年」は決して高齢者だけのトピックではなくて、中年だって子どもだって考えるべきテーマです。だったら多くの人が自分事化し、楽しく自分の人生を「デザイン」できるようにしたいというのが「100年スケール発想」です。
それから、「問い」のアプローチがなぜ有効かというと、さまざまなステークホルダーが集う共創の場では、えてして自分たちに関連する個別のアイデアに閉じてしまいがちですが、誰にも降りかかりうる未来の社会課題=「問い」として捉えることで、自分事化してもらえるということ。この2つのアプローチで、100年ライフデザインを具体化する動きをサポートするというのが、私たちの活動の特徴です。

吉田
さらに、「デザイン」という言葉を、名詞ではなく、“デザインする”という動詞として捉えていることもポイントです。これからやってくる未来に向けて、能動的に向き合い、どう考えていくのか、そのアクションの部分を私たちでお手伝いできればと考えています。

現在、できるだけ誰でも考えやすくて、楽しみながら具体的なアイデアが出やすいよう、さまざまなツールを開発しているところです。たとえばこの「100年ライフ発想カード」は、いざ「100年」と聞いて途方に暮れてしまわないよう、「こういう人生が起こり得るよ」という例を20種類紹介したもの。「クエスチョンマップ」は、目的やテーマに応じた問いをセレクトし、マップ上に配置、みんなでそれを眺めながら具体的なアイデアを考えてもらうというものです。問いのフォーマットも公開しているので、そのまま使ってもいただけますし、これをベースにさまざまに応用してもらえるようになっています。

100年ライフ発想カード

クエスチョンマップのフォーマット。どなたでもホームページからダウンロードすることが出来る。

不透明、不確実な時代。「将来不安」がクローズアップされがちな人生100年に、楽しく豊かな暮らしが実現できるような機会をたくさん見出してもらいたい

根本
2018年1月にリリースして以来、おかげさまでさまざまな問い合わせが社内外からありました。自社や自組織の閉じられた環境だけではアイデアが行き詰まったり、組織的な壁があったりと、問題意識を抱えている組織は少なくないと思います。特に新規事業開発や、未来の話になると、どうしても現状のドメインに縛られがちで新しい発想を持つこと自体難しいのではないでしょうか。「100年ライフデザイン」はオープンイノベーションのスタイルなので、テーマに応じてさまざまな組織の方々と知恵を出し合い、共創していければと考えています。

吉田
いまはさかんに、「〇〇年後にこの仕事がなくなる」といったさまざまな専門家による未来予測が話題を集めていますが、ではそれに対して、個人はいまどうしていけばいいんだろう?というポジティブな問いとなかなか紐づけにくい。未知のことであるがゆえに、どうしても不安や怖れといった感情に結びついてしまうと思うんです。そういう時世だからこそ、未来に対して明るく前向きに臨んでいけるようなブリッジを、丁寧に務められたらと思います。
それから、私自身、根本さん、宍戸さんほどワークショップ慣れしていないのもあるんですが、参加する前の期待値に比べ、参加後の感激が本当に大きかったですね。松本市でのセッションでも、それぞれのテーマについて、地域の方が、こちらが思った以上にどんどん問いを奥深くまで掘り下げ、広げていってくれた。その様子を目の当たりにして、素晴らしいと思いました。

宍戸
確かにそうですね。松本市では20代から90代までの地元の方が集まって、一緒にワークショップを行ったのですが、企業も含めさまざまなレイヤーの方が一つのテーマについて意見交換し、考えを深める過程というのは、ネットワークづくりといった側面も含めて、参加者にとって非常に満足度の高いものだったんじゃないでしょうか。あるエリアを舞台に、住民や企業、行政がともに知恵を絞っていくというモデルが、ここから生まれていけばいいなとも思います。
僕自身が所属する生活者アカデミーでは、企業の次世代リーダーを対象とした人材育成の講座を行っているのですが、そこでは、未来の暮らしの姿である、「ライフモデル」という考え方を大事にしています。どんなビジネスモデルでも、未来にどんな暮らしがあれば、生活者は豊かになれるだろうか、という「ライフモデル」を描きながら発想していくべきなのです。「100年ライフデザイン」の発想は、これからの暮らしを考えるあらゆる領域で有効なのではないかと考えています。

根本
こうした考え方を、未来を担う子どもたちや、大人の方々にも幅広く知ってもらえるよう、今後は出版を中心とした情報発信にも力を入れていきたいです。
「人生100年」時代は恐れるべきものではなく、個人のマインドセット次第で明るく楽しく元気いっぱいに過ごしていくことができる。そんな未来を、さまざまな人と協力・共創しながらつくりつづけていく活動にしていきたいと思っています。

根本 かおり(ねもと かおり)
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局
ブランド・イノベーション二部 ストラテジックプラニングスーパーバイザー

広告づくりの現場で自動車、化粧品、家庭用品など多岐に渡る業界のマーケティングやブランディングに携わる。
その経験を活かし、フィールドを未来の生活者発想に軸足を置いた事業アイデア開発、プラットフォームづくりにうつして活動中。

吉田 裕美(よしだ ひろみ)
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局
ブランド・イノベーション四部 アートディレクター

マス広告からパッケージまで幅広い領域の業務経験を生かし「社会課題を優しく易しくデザインする」をモットーに、様々な社会イシューに携わる。フードロスや防災食、教育などの事業を自ら立ち上げ、推進している。

宍戸 孝一郎(ししど こういちろう)
博報堂 生活者アカデミー スーパーバイザー

PR部門にて、企業の広報支援業務に従事。2012年より営業職として官公庁・団体を中心に、ブランディングから新規事業開発業務まで幅広く担当。2016年より現職。”生活者発想”を起点とした、企業の人材・能力開発を推進。