博報堂DYグループのCSRは、生活者と社会の中に「新しい幸せ」を生み、つなげ、ともに広げていくことを基本理念として掲げています。このインタビューシリーズでは、生活者一人ひとりが、自分らしく、いきいきと生きていける社会の実現を目指し、日々の仕事の先に存在する社会課題に対して、自らの「クリエイティブの力」「伝える力」「一人ひとりの個性」を主体的に発揮しながら取り組んでいる社員たちの声をお届けします。

車いすユーザーに新しい選択肢を。スタートアップ支援事業として発進した「COGY(コギー)」プロジェクト

「COGY」は、脳卒中などで半身が麻痺した方、脊髄損傷などで歩行が困難な方でも、取りつけられたペダルによって、足を動かすきっかけを生み出す画期的な車いすです。TBWA\HAKUHODOは、一般社団法人MAKOTOと協働して2016年よりコミュニケーション領域によるベンチャー支援事業をスタートし、その第一弾として、TESS社のペダル付き車いす「COGY」のプランニングからクリエイティブまでフルサポートしています。
2017年カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでプロダクトデザイン部門の銅賞、「ACC クリエイティブイノベーション部門グランプリ」を受賞。広告賞以外にも、「2016年度ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」、イギリスBBCが選ぶ「The 10 most beautiful bicycles of 2016」を受賞しています。

あきらめない人の車いす「COGY」が発進するまで

COGYプロジェクトのメンバー/左から、シニアクリエイティブディレクターの近山知史、デジタルコミュニケーションディレクターの鈴木智、クリエイティブテクノロジスト石倉一誠(TBWA\HAKUHODO)

鈴木
「COGY」に関わったきっかけは、2015年当時、「なかなか素晴らしさが世に知られていないスタートアップ企業に投資して、日本のビジネスを盛り上げていきたい」という想いを僕はずっと抱いていて、同僚の一人が紹介してくれたのが東北地方のベンチャー、中小企業を支援している一般社団法人MAKOTOでした。そのMAKOTOを介して出会ったのが、仙台を拠点とするTESS社で、会社のスタートアップ支援事業としてサポートすることになったのが始まりです。

近山
鈴木さんからこのプロジェクトに声をかけてもらい、まず考えたのが「あきらめない人の車いす」というコンセプトです。いま車いすを使っている方の中には、病気やケガ、あるいは高齢になり、ある意味自分の足で動くことをあきらめざるを得なかった方が数多くいます。当時は日本にも世界にも、「車いすに乗る=足を動かさなくなる」ことだったので、TESS社の「ペダル付き車いす」はまったく新しい選択肢になると考えました。

石倉
この車いすは、開発者である東北大学医学部の半田康延教授の名にちなんで「Profhand(プロファンド)」と呼ばれていましたが、「ペダルを漕ぐ」という動作が連想しやすく、かつ英語のネイティブが見ても違和感のないネーミングを提案し、「COGY」が採用されました。

世界で反響を呼んだドキュメンタリームービー。確かなインパクトが営業現場にも。

近山
「COGY」に乗ると、もう動かせないと思っていた脚が交互に動いて、そのままスイスイ動き回る。「本当に動いた!」「すごい!」と、本人はもちろん、付き添いの家族の方も一緒になって感激している。僕自身も本当に驚いて、その様子をドキュメンタリームービーにして配信しました。すると、あれよあれよという間に世界中に広がり、日本の動画メディアなどでも取り上げられ、公開から1~2週間で100万回再生されました。

 

鈴木
TESS社は開発当初、商品の良さを理解してもらうのに苦労していたそうですが、今は「あの動画見たよ」「ニュースになってたね」と言われることが増えて営業しやすくなったと、社員の皆さんから伺いました。販売台数も順調に伸び、全国の病院やリハビリ施設を中心に導入されています。

近山
僕は、なによりTESS社の鈴木社長の思いに胸を打たれました。鈴木社長いわく、足が動かせなくなった直後は誰もがリハビリを頑張るけれども、回復が見えないとやる気を失ってしまう。すると、「COGY」を勧めても、「本当に動かないことが証明されるのが怖い」と乗ってくれないそうです。でも、多くの方が「もっとリハビリを頑張っておけばよかった」という思いをずっと抱えていて、鈴木社長はそれが悔しいとおっしゃっていました。その気持ちの力になりたくて、「COGYができること」を本音でまっすぐ伝えようと思いました。実際に体験した人の声、感動が広がっていけば、いろんな人の背中を押すことになるかもしれないし、それが鈴木社長の思いをつなげることだと思っています。

これからも、世の中の役に立つ、人を幸せにする仕事にチャレンジしていく

近山
いま感じるのは、すでにあるマーケットをみんなで取り合うという世界にはもう限界が来ているんじゃないかということ。これからは、食い荒らされた残りのパイをどう分配するかじゃなくて、本当にいいことをしている人間が本当に幸せになれる世の中を僕らが作っていかなくてはいけないと思います。片手間でやるのではなく、本当に世の中の人を幸せにする、そして企業の成長にもつながるプロジェクトをこれからもきちんと考えていきたいです。

鈴木
当時の私の担当業務とはまったく関係の無いものでしたが、どうしても実現したいことが芽生え、周囲に伝え続けてきたことがこうして実を結びました。今回のような取り組みは社内的に新しい試みだったのですが、「やってみろよ」と言ってもらえたのは本当に嬉しかった。TBWA\HAKUHODOが掲げる「パイレーツ・スピリッツ」があるからかもしれません。博報堂DYグループは、何かアイデアのシーズがあれば、「面白そうだね」「そういう話だったら〇〇に聞いてみたら」という感じで、どんどん人がつながって実現に持っていける環境だと思います。

石倉
こんな風に世の中に眠っている良いものを見つけて、世の中に広める手助けをすることこそ、広告の醍醐味なんだと思います。まだ道の途中ではあると思いますが、僕ら広告会社だからこそやれることの可能性は、もっとあるんじゃないかなと考えています。これからもこういう仕事を目指していきたいし、目指さなくてはいけないと思いを新たにしています。

【プロフィール】

鈴木 智(すずき・さとし)

TBWA\HAKUHODO内のデジタルコミュニケーションを専門とする部署Digital Arts Network TOKYOのマネージャーを務めている。

近山 知史(ちかやま・さとし)

TBWA\HAKUHODOシニアクリエイティブディレクター。カンヌライオンズゴールドをはじめ受賞歴多数。2015年クリエイターオブザイヤーメダリスト。

石倉 一誠(いしくら・いっせい)

Digital Arts Network TOKYOにて、デジタルマーケティング、およびデジタル・データを駆使したクリエイティブプラニングを担当。